3話 人魂のゆくえ
風呂場の中は、元々貴族の屋敷という事もあり、それなりの広さがある。それこそ、3人くらいは余裕で入れるくらいの大きさだ。だが、雰囲気は妙に陰気で、よくもまぁ、アコナイト達はこんな所でいちゃつけるな、と、妙な所に感心した。
その浴槽の上あたりに、まさに、6体、人魂が空中に漂っていた。
魔法を用いた灯火である、魔導式電球が消えているせいで浴室は暗い。が、そのせいで、むしろ、人魂のともしびはより幻想的にきらめいていた。
人魂の中心部には、苦しみを露わにした老若男女の人の顔が浮かび、なんとも不気味な事になっていた。それぞれが不気味な呻き声を上げている。
「……アコ太郎から前に聞いた話だと……この家の主の偉い人に殺された人は……確か、7人とか言ってたっけ。1人足りないなぁ……まぁ良いか」
珍しく、アコナイトから過去に教えられた話を覚えていたフロッガーは、人魂の数が1人足りない事が気になったが、特に、それ以上気にすることなく人魂を睨みつけ、威嚇する。
「うぅぅぅ……ワン! 」
犬としての本能を解放させ、本来の声を上げた。
突然の威嚇に、霊達も少し焦ったのかもしれない。ゆらゆらと漂いながら、フロッガーと距離をとっている。
だが、そのうちの一体が意を決した様に、彼女に向け、突進してきた。が、それをフロッガーはタイミング良く掴んだ。
「ふふーん。憑りつくつもりだったのかなぁ? 残念! アタシもアンデッドなんだよ! それにしても、幽霊同士は相手に干渉出来るんだねぇ……」
霊同士、相手に干渉できるかは、分からなかった。やってみた事は無かったが、もしかしたら、と、試してみた価値はあった。霊同士は、相手を掴んだり攻撃する事が出来る。フロッガーは、思わぬ発見をした事に、にんまりと笑いつつ、掴んだ人魂をサディスティックな目で見つめた。
人魂の中の顔は、まさか、自分が掴まれるとは思っていなかった様だ。中年の男の顔は、困惑半分、恐怖半分といった絶望の表情を浮かべていた。
「こいつ、どうなっても良いのかなぁ? 」
フロッガーは残った5体の人魂に見せつける様に、中年男の人魂を右手で掴んでぶら下げた。
「変身、一部解除」
それからフロッガーは、静かにそう唱えた。すると、空いていた左手がドロドロに溶けたかと思うと、再び形を形成した。形成され直された左手は、ケルベロスの左頭に変化していた。
「あはっ! 驚いてる? ケルベロスは魔法が得意な種族なんだ。変化の術を応用すれば、身体を好きな形に変形させるなんて朝飯前! 」
動揺している5つの人魂に、彼女はドヤ顔で解説をした。顔は得意げになっている幼女そのものだが、左腕から生えるケルベロスの頭が、異様さを醸し出している。
「1つ、交渉しようよ! 今すぐお前達が、この屋敷から出て行くか、成仏するっていうんなら、こいつは離してあげる。……もし、拒否するっていうんなら……」
そう言うと、左腕のケルベロスの口が開き、毒レーザー『シクトキシン・ショット』の発射体勢になった。白い閃光がケルベロスの口に集まった。
「……ちょーっと毒浸しになってもらおうかなぁ」
幼女とは思えない、どす黒いものを含ませた声色で、フロッガーは、人魂たちを脅した。
彼女の脅しを、人魂達は本気と解釈した様だ。ゆっくりと、5体の人魂は、風呂場の出口へ向かって飛び始めた。
「……それで良いんだよ。さっさと出てお行き」
中年男の人魂を掴み続けながら、フロッガーは唸り声を上げて、人魂達を出口へ追い立てる。
玄関の辺りに来た辺りで、フロッガーは、掴んでいた人魂を離してやった。一応、彼女も約束は守る性分だ。
6体の人魂は、ふわふわと漂いながら、どこかに飛んでいく。
「……あっさり終わったなぁ」
玄関から出て行った人魂を見つつ、フロッガーは息をつく。これで、ご褒美の蜂蜜ケーキは自分のものだ。
「……」
もう、寝室のアコナイト達の元に帰っても良かったが、彼女は、なんとなく、あの人魂たちがこの後、何処に行くか気になった。
どうせ、寝室に戻った所で、アコナイト達は、今頃お楽しみタイムの真っ最中だろう。自身の知的好奇心を満たす時間としても、問題は無いだろう。
「暇つぶしに、あいつらがどこ行くか、探ってみようかな……多少、帰るまで時間がかかった方が、一進一退の激戦だった感が出るし」
そう決めると、後の行動は早かった。霊態のまま、玄関の扉を抜け人魂たちの追跡を開始した。
* * *
「あいつら、どこに向かっているんだろう? 」
つかず離れずの絶妙な位置で、フロッガーは、人魂の一行を追跡する。
人魂の群れは、屋敷の外周を半周して、裏のトリカブト畑の辺りを飛んでいる。奇しくも、フロッガーの生前の最期の地の辺りだ。
「……? 」
紫色の美しく、恐ろしい花畑の上を漂っていた人魂達は、丁度、花畑の途切れる辺りで、集結した。そのまま、ゆったりとした動きで、地面に着地する。
「何してるのかな? 」
花畑に紛れて隠れながら、観察を続ける。するとどうだろう。突如、地面が光り輝き始めたのだ。
「地面が光ってる?! 」
困惑しながら、フロッガーが見ていると、驚いた事に、突然、地面から大きな扉が現れたのである。
人魂たちは、再度浮かび上がり、扉の周囲を回転する様に飛んでいたが、そのうち、扉は重苦しい音と共に開いた。扉の先は、暗くなっていてよく見えない。
彼らは、その扉を潜っていった。全体が入り込むと、扉は重苦しい音を立てて閉まり、再び、地面へ入っていく。
「……」
信じられないものを見た。というような顔をフロッガーはしている。裏庭には、あんな扉を出現させる機能は無いし、魔法にしても、見慣れない術だった。
「何だったんだろう、あの扉」
恐る恐る扉のあった場所に近づいた。扉は影も形もない。
「む? 」
扉は無かった。無かったが、丁度、扉が生えてきた辺りの地面には妙なものが埋まっていた。それは、石で出来たプレートの様な物で、幾何学的な良く分からない模様が描いてあった。
「なんだろ? これ……」
フロッガーは、プレートを取ろうとするが、案外、地中深くに埋まっているのか、動かそうとしても全くびくともしない。やがて、プレートを動かそうとするのは諦めた。
「取れないなぁ……。とりあえず、後でアコ太郎達には報告しておくか」
さて、今晩見たものをどうやって自分の言葉で表現しようか……。彼女のお世辞にも賢いとは言い難い脳で考えながら、ひとまず、フロッガーは場所だけ記憶して、その場を後にした。
フロッガー「アホ作者、今章が幽霊屋敷がテーマだから、心霊系の動画や廃墟探索系の動画よく見てるね」
アコナイト「ほうほう」
フロッガー「そしたら思いのほか見入って、原稿が手つかずな状態になったって」
アコナイト「やっぱりこの作者、アホなのでは?」
フロッガー「なのでしばらくスローペース進行だよ。同時進行で別の話の連載もしてるしね……」
アコナイト「同時連載はやっぱり難しいですね……リソースが足りなくなります」
フロッガー「いっそこっちでもAI使おうか」
アコナイト「それはとりあえず保留の方向で……同時連載している方は佳境なので、それが完結した時の反応次第ですね……」
フロッガー「AI使う時は、ちゃんと報告するからね!」
アコナイト「コメント、評価、ブックマーク、誤字脱字報告もよろしくお願いします」




