2話 狂犬の過去
「しかし、いつまでも、このまま連中の好きにさせておくのも癪ですね。この屋敷は、我々が正当な取引で手に入れた家です。死人に文句を言われる筋合いはありません」
そう言っている間にも、亡霊たちの呻き声は、屋敷中から響いている。幸い、憑りつく気は無いのか、はたまた、アコナイト達から漂う死の臭いが濃すぎて引いているのか、呻き声を上げて嫌がらせを行う以上の事はしてこないが、それでも、安眠妨害といちゃいちゃ妨害をされるのは面白くない。
「フロ子、フロ子」
「誰が風呂子だよ! 」
「すいません、珍しくイラついているもので……」
アコナイトは、霊形態のフロッガーを呼び寄せた。妙なあだ名で呼ばれた彼女は、不服そうだ。
「改めてフロッガー。霊同士、あいつらを倒す事とか、出来ませんか? 」
いつもの、歌手もかくや、というような美声でありながら、明確な殺意を感じる、恐ろし気な声を出したアコナイトは、フロッガーにそう尋ねた。
「幽霊退治なんて、やったことないからなぁ……」
フロッガーは困った様に言うが、少し考えて、また口を開いた。
「でも……面白そうではある。幽霊って、どんな声で命乞いをするのかなぁ」
「さすが、我が忠犬。いや、狂犬ですね。見事な戦意です」
霊形態の状態では、彼女の顔は分からないが、サディスティックな顔をしている事は想像に難くない。
「ふふ……。良いよ。報酬の蜂蜜ケーキは弾んでね! 」
フロッガーは、そう言うと、幽霊たちが騒いでいる方へと向かって行った。
* * *
「はっちみつケーキ! はちみつケーキ! 」
調子はずれな鼻歌を口ずさみながら、フロッガーは、幽霊たちの方へ向かって行く。どうやら、屋敷の風呂場の辺りにいそうだ。カタストには、入浴の文化があり、どこの家にも風呂がついている。
「幽霊って、水場周りに集まり易いって言うもんなー。」
そんな事を言いつつ、霊形態のまま、ふわふわと浮かびつつ、彼女は風呂場へと向かう。別に、彼女は水に惹かれたりはしないので、この話自体は迷信だろう。
「それにしても、アコ太郎達、今日、風呂場でもいちゃついてたのに、まーだ足りないっていうのか。お盛んな事で……。動物を違って、人間って年中発情期って言うけど、アコ太郎達はそれにしたって、ペースがおかしいよなぁ。ケルベロスの発情期でも、あそこまで盛り合わないよ。お風呂場にいた幽霊達も困惑してそう」
呆れつつも、フロッガーはアコナイトの事も、姉妹の事も、別に嫌いではない。むしろ、強い親愛の情を抱いているのである。
—―アタシのやっと見つけた、群れ。ボスであるアコ太郎の期待には応えないとね!
アルファ―—。ウルフパックにおけるリーダーの事である。彼の妖艶な笑みの事は、彼女も嫌いではない。フロッガーは、自身の士気を上げると、かつての、孤独な記憶を思い出した。
* * *
懐かしい記憶。
血の海の中で、もがいていた記憶だ。血は、父母ときょうだい達のもので、動かなくなった彼らから流れていて、皆、すでに息絶えていた。
珍しく、あの日の事は良く覚えている。寒い、雪の日の事だった。
餌を探しに出た、彼女の家族を全滅させたのは、人間の密猟者だった。突然、草むらから不意打ちの銃声が何発も響いた後、皆、巨大な銃弾に貫かれて、ケルベロス自慢の魔法攻撃を放つ間もなく、まだ幼い彼女を残して、皆逝ってしまった。
後で知った事だが、ケルベロスは、密猟と、人間の開発に伴う環境破壊の影響から絶滅の恐れがあり、また人間にかなり近い、高い知能を持つという事もあり、狩りをするのは基本的に認められていないという。
白い雪に、鮮血が飛び散り、そのコントラストが、とても綺麗だった事。そして、流れ出た血の生臭い香りが印象的だった。
そして、その血を見て、浴び、飲んだ時に感じた感覚。
それは、これ以上ないくらいの……。
心地よさであった。
突然、家族が全滅した事を、彼女の脳は受け入れる事を拒否したのだろう。現状を打破して生き残る為に。野生動物としての生存本能が、彼女の脳内の恐怖と悲しみを、破壊衝動と闘争本能で上書きした。血に対し、異様なまでの興奮を起こさせるという形に、自身の思考を変更させる事で。
密猟者達は、一連射から生き延びたフロッガーを生け捕りにしようとした。おおむね、どこかの好事家の金持ちにでも売ろうと思ったのだろう。
不用意に近づいた二人組の密猟者に、彼女は、『アコニチン・バックショット』を放った。
まだ子供に分類できるケルベロスが、こんな大技を放ってくるとは思わなかったのだろう。片方の密猟者は、レーザーをもろに受けて即死。もう片方も、かなりのダメージを受けていた。
フロッガーは、もうまだ息のあった、もう片方の密猟者に近寄り、おもちゃにした。それはとても刺激的な遊びで、反撃できない相手を、一方的に嬲り、いたぶる事がどれ程の快感かを、彼女に理解させた。
――楽しい! 楽しい! 真っ赤で、ドロドロで、生臭いけど心地のいい香り。もっと滝みたいに血を噴き出してよ!
―—あっれー? おじさん、もう動かなくなっちゃった。
―—つまんないなー。アタシはもっと遊びたかったのに……。あぁ……もっと暴れたいな。
―—お母さん、お父さん。ごめん。アタシはまだ遊び足りないんだ。皆の死体は隠しておくね……。
―—さぁ、今日から一匹狼ならぬ、一匹ケルベロスだ。とはいえ、ボスが突然いなくなるのは困ったなぁ。どこかの群れに入れてくれないかなぁ……。
それからしばらくして、捕食毒華という、自分を受け入れてくれるパーティに入れてもらったのは、本当に運が良かった。血に飢えた凶悪な緑色のケルベロスの悪名が知れ渡ったら、いくら人間に友好的な絶滅危惧種といえ、ギルドか、国軍によって追討されていただろう。
ともあれ、皮肉な事に、みなしごであった彼女は、同じくみなしごであった捕食毒華に拾われた。久方ぶりの群れの感覚に、フロッガーは本音でも、歓喜している。アコナイトにも、ドロセラにも、ピンギキュラにも懐いている。
今回の様なケルベロス使いが荒い任務でも、何だかんだと従っているのは、こうした、3人への、自身を受け入れてくれた事への感謝も根底にあるのだ。
―—さぁ、アコ太郎の為にも頑張らなきゃね!
風呂場まで到着したフロッガーは、気合を入れる様に、深呼吸を1つ。この屋敷自体の因縁を考えると、一筋縄ではいかない相手を想像して、彼女は表情を珍しく硬くした。
「さぁ、いざ勝負! 」
意を決して、フロッガーは風呂の戸に手をかけた。
アコナイト「アホ作者、まーたヒロインに重い設定つける……」
フロッガー「同時連載の方の義弟君の設定も微妙に重いし、もう持病みたいなもんだね」
アコナイト「難儀な性癖です……」
フロッガー「ところで、姉が評判最悪な(ryの妹ちゃんと弟君ってまだ生きてるの?」
アコナイト「本作は、あれの2年後くらいって時系列ですが、生きています。最終決戦、ラノダ砦の戦いには不参加で、当時は別方面で戦っていた設定です。今は、ラノダ本国でゲリラ活動でもしてるんじゃないですか? 多分、こちらにもそのうち出てきます」
フロッガー「あっちから来た人も、別にそうじゃない人も、評価、ブックマークお願いね!」
アコナイト「コメント、誤字脱字報告もお待ちしています。」




