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60話 雷の檻

 ブルー・シー。パトリオット飛行場。


 まだ夜明け前だというのに、この基地の空軍兵士達は忙しそうに走り回っている。


 ドロセラが放った20mm砲に搭載されたガン・カメラは、異様な大蛇の姿を克明に捉えていた。それと共に、その大蛇がプサラスの街に向かっている事を、彼女が、この基地の司令官に報告してきたのは先程の事。


 突然の一大事に、この空軍基地は、大騒ぎになっている。


 この基地だけではあるまい。他の空軍基地や陸軍基地、更に、プサラスの冒険者ギルドへも、通信を用いて非常事態が伝えられているはずだ。そこでも、修羅場になっているだろう事は想像に難くない。


 そんな基地の様子を見ながら、ドロセラはバーサーカーラプトルの上で、弾薬補充が終わるのを今か今かと待ちわびている。


「そうか……奴が私達の屋敷をぶっ壊したら、私のアコ兄様の下着コレクションも失われちゃうのか……」


「……ドロセラさん? 」


 深緑色の竜の背の上で、妙な事を口走ったドロセラを、マリーはジト目で見据えた。


 相も変わらず、常識人な所と、非常識人の所が交錯する人だと思いつつ、マリーは、収納魔法を使って、爆弾を異次元に格納している。丁度、5t爆弾の収納を行っている最中だ。それなりの大きさなので、異次元に収めるにも時間がかかる。


「奴め、プサラスにつく前に、必ず止めないとね……」


「……ツッコミたい気持ちはありますが、やる気になったのなら、まぁ良いですわ」


 マリーがそう言い終わると同時に、爆弾の格納が終わった。巨大な爆弾は、見事に異次元に収まった様だ。もはや、影も形もない。


「見事な魔法ですね。お嬢様」


「ふふん。どうです? エーススピア家は、この魔法を用いた流通業で、国庫と家計を潤して来た家。これ、位お茶の子さいさいですわ」


 そんな風に、会話していると、マリーとは別に、1人の女性が現れた。それは、ドロセラが良く知る人物だった。


「『オウル』! 大変な事になったな! 」


「その声……。『ヴィ―ナス』ですか! 」


 ドロセラはそう言うと、竜の背から飛び降りた。夕方、このブルー・シー上空で模擬戦をやった『スプリング隊』の隊長だ。


「あの、このお方は? 」


「マリー様は、初対面ですね。バーサーカーラプトルの試乗の際、模擬戦の相手を務めてくれた方です」


「まぁ、私も直接会うのは初めてだがな。我々は着陸後、すぐに報告に行ってしまったから」


「ええ。パイロットスーツを着ているという事は、蛇狩りには、貴女の隊も出撃を?」


「ああ。スプリング隊も、準備が出来次第、上がる。案外早く共闘の機会が来たな」


 『ヴィ―ナス』こと、ネル・ミカボシ。彼女は頑健なパイロットスーツを着た姿になっていた。ヘルメットだけつけていない。彼女は、うやうやしく、ドロセラと握手した。


 顔は美人に分類できる。22、3歳くらいで、瞳は緑。茶髪をショートヘアにしていた。特徴的なのは、その横髪に、髪に混ざってオレンジ色の羽毛が生えている。


挿絵(By みてみん)


「その羽毛……貴女、鳥人(ハーピィ)だったのですか」


「ああ。ハーピィが竜に乗るのは滑稽かな? 」


「いえ。むしろ、一興だと思いますよ。恐竜の子孫が恐竜の子孫に乗るというのも」


 鳥人(ハーピィ)とは、名の通り、鳥、正確には中生代の羽毛恐竜ステノニコサウルスの子孫が、人類の様に、人型になり、高い知能を獲得した種族の事だ。ドラゴンとも、鳥とも違う恐竜の子孫という事で、ディノサウロイドとも言う。


 分類的には爬虫類、もしくは鳥類の2説があるが、どちらにせよ、人類と外見や知能に至るまでそっくりで、外見的には身体の一部から羽毛が生えている以外、人類と変わらない。これは収れん進化の結果と言われている。

 

 ラノダ・エルフの様に、ハーピィーの中にも、人類との共存を選んだ部族もいて、ネルもそうした親人類派の1人なのだろう。


「貴女は本来、近接攻撃隊所属と聞いている。爆撃の腕、見せてもらおう。援護は我々に任せてくれ」


「目を見開いて見ていてください。航空竜騎士同士、色々話したい事もありますが、時間もありません。まずは蛇を狩りましょう。積もる話はその後に」


「ああ。やってやろう。実は、今回、我々も秘密兵器を用意していてな。期待していてくれ」


「秘密兵器? いいのですか? そんなもの、我々に見せても」


「ああ。本来機密のものだが、今回は事情が事情だからな。特別だ。さぁ、仕事にかかろう」


 ネルは、ドロセラの肩を軽く叩くと、自身の愛竜『ミラーラプトル』に向かって行った。


「それでは、お嬢様。我々も行きましょう」


「ええ。覚悟は決めましたわ」



 *  *  *


 一方のアコナイト達である。彼らは草むらに隠れながら、大蛇の進路を見つめている。


「大蛇の進路、戻りましたね」


「……ただ、十分時間は稼げた。もうすぐ日も登るし」


「最後の大仕事といきますか……」


 炎の壁を大きく迂回せざるをえなくなった大蛇だが、まだ、プサラスに向かう事は諦めていないらしい。

 

 炎を迂回した蛇は、再び、進路を戻してしまった。ただ、これで、時間は稼げた。朝日はもう昇り始めていて、空は白み始めている。


「見て! ドラゴンが飛んでくるのが見えてきた! 」


 フロッガーの視線の先には、緑色の飛竜と、後ろに続く3匹の黒い飛竜が飛んでいる。


「ドロセラちゃんだ! 」


「来てくれましたか」


 アコナイトは、件のガラス球を取り出す。次いで、誤爆防止の為、スモークグレネードのピンを抜いて、その場で作動させた。最後の煙幕だ。


 ドロセラの乗るバーサーカーラプトルは、アコナイト達の頭上を飛び越した。次いで、3匹の黒い飛竜が、頭上を通過する。


 黒い飛竜の腹には、奇妙な装置がぶら下げられていた。それは全長3m程の棒状のもので、1匹につき1つ、搭載されていた。


 3匹の竜は、それぞれタイミングを合わせ、棒状の物を投下する。風の抵抗を受け、地面に垂直に突き刺さったそれは、丁度、蛇を3角形に囲む形で、配置された。


 蛇もそれに気が付いたのだろう。怪訝そうに、柱を見た。


 その瞬間である。3本の柱から、電撃が放たれた。放たれた雷は、空中を伝いながら、他の2本が放った電流と合わさり、蛇を囲う檻の様な物が形成された。


「電気の檻?! 」


 アコナイトは驚愕した。電気の檻というのは、初めて見る武器だった。


「ほほう。サンダーボルトネットだな……。あれ程のサイズのものは初めて見るが」


 いつの間にか脇にいたスペクターが、感心した様に言う。


「サンダーボルトネット? 」


「ああ。サンダーボルト候という、まぁ、名前の通り、電気系の魔法を使う侯爵が帝国にいてな。彼が開発した、設置式の魔法道具だ。電気の檻を作りだして、中にいるものを、感電、足止めさせる為の魔道具だ。うちの店にも取り扱っていてね。お前たちがブルー・シーに来た時に、私が調整していたもの。あれがそうだ。しかしこれ程、巨大なタイプは初めて見たが……」


「咄嗟に、こんな秘密兵器を持ち出してくるとは、帝国軍のフットワークの軽さは流石ですね」


「……ともあれ、蛇の足は止まった。ドロセラちゃんも攻撃に移るみたい。早く、弱体化の術を! 」


 急降下の為に、一度上昇し、爆撃コースに入っているバーサーカーラプトルを見ながら、ピンギキュラがアコナイトをせかす。


「待ってください! 日は……昇った! 」


 アコナイトが東の空を見ると、太陽が地平線から顔を出す所だった。これで、ガラス球の術を使える。彼は、それを高く掲げ、回復した魔力を注ぎ込む。残り魔力は、丁度、単発の狙撃用毒レーザー『シクトキシン・ショット』一発位だ。


「本番一発勝負です! 魔女様、貴女の言う事、信じますよ! 」


ドロセラ「ディノサウロイド(恐竜人間)とハーピィを合体させたんですか……」

ネル「元々は鳥も恐竜由来だからな。というか、最近は、鳥自体を恐竜の一種として分類する説が主流みたいだからセーフ。というか、私達、羽毛生えているだけで、殆ど人間だがそれは良いのか? 」

ドロセラ「『1.身長は170センチメートル程度。2.全身に鱗を持つ。3.頭部に爬虫類的な印象を残している以外は、ほぼ人間に近い体形。4.哺乳類ではないので乳房がない。そのため、子供が幼い間は、親は現代における鳥類のように餌を胃から出して子供に与える。5.(大きく発達する脳を包む頭蓋骨の形成に胎盤が役立つとの観点から)胎生に移行しており、臍がある。6.人間と同様にかかとを接地させて直立二足歩行する。尾は退化している。7.手には3本の指を持つ。そのうち1本は、ヒトの親指のように拇指対向性を持つ。8.生殖器は体内にある。9.言語は、ある種の鳥の鳴き声のようなものになる。』以上、Wikipedia「ディノサウロイド」より引用。みたいな女の子出されても、なんというか、そこまで人外萌えではないアホ作者が持て余すので……」

ネル「ぶっちゃけるなぁ……」

ドロセラ「1章はあと2、3話くらいで完結する予定なので、もうしばらくお付き合いください。ブックマーク、評価もよろしくお願いします」

ネル「まぁ、引き続き作者のリアルが忙しいので、まったり投稿になると思うが、もう少し付き合ってくれると嬉しい。感想、誤字報告も待ってるぞ」

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