6話 令嬢と虫取菫1
「……」
「……」
車内には沈黙が流れている。
マリーの目の前に座っている女性は、彼女の方へ関心は示さず、黙々と難しそうな本に目を落としていた。
元々、無口なのだろう。マリーとの会話は、交代の際にお互いに名を名乗ったのみである。
彼女は、ピンギキュラ・ファイアブランド。アコナイト・ソードフィッシュの乳母姉にして、先程まで竜車を運転していた女性である。
間違いなく、美女に分類出来る。
――ですが、性格がアレなんですよねぇ……。
マリーは先程の視線を思い出して、ピンギキュラへ聞こえない様、小さく溜息をついた。
あの後、一行は最初の宿場町、ブリングへ入り、運転手を交替して、現在はドロセラが手綱を握っている。
それは良い。運転は丁寧で揺れも殆ど無い。
もしや、嫌がらせに危険運転でもされまいか?と心配だった。が、流石に崇拝対象のアコナイトが隣にいる以上、あからさまに暴走も出来ないだろう。
しかし、アコナイトもドロセラも外にいる以上、残ったピンギキュラは車内で休息、となる訳で。必然、マリーは、この主君への忠誠心と愛情が振り切れた姉妹と、しばらく同じ空間で過ごさねばならないという事な訳で……。
貴人が乗った馬車が、賊に襲撃されて云々。という話は良く聞くが、現状、選択肢次第で彼女は、目の前にいる主人至上主義者の護衛達に襲撃される運命にある。
それでは笑い話にしても、聞かされた相手も反応に困る事であろう。
マリーとしても、命は惜しい。相手が格下貴族の郎党であろうが、ここは慎重な対応をしなければなるまい……。
そんな風に改めて覚悟を決める。もう高貴な血が云々、とか言っている場合では無い。
「……すいません、ピンギキュラさん、その隣に置いてある武器はなんですの?」
ひとまず、世間話でもして少しでも好感度を稼ごう、と思い、マリーはピンギキュラへ声をかける。
ピンギキュラは、急に話しかけられた事に対し、やや、いぶかし気に本から目を上げると、口を開いた。
「……これですか?」
ピンギキュラが指差したのは、彼女の隣の座席に置いてある、奇妙な機械である。
本体は一見、大型の銃の様なもので、それにはホースがつけられて、その先には2本のタンク。それはバックパックの様な台座へ固定され、背負える様になっていた。
「これは私の武器の火炎放射器です」
「ほう、火炎放射器。……火炎放射器?」
思わず聞き返したマリーに、ピンギキュラは説明する。
「そう、火炎放射器。このタンクにそれぞれ、ガスと油が充填されていて、引き金を引くと、油を発火させた状態で敵へぶっかけられます。……私、見ての通り、魔法使いで、主に炎魔法を使うんですが、魔法使いって、現実問題、連続戦闘すると体内の魔力が尽きて、回復まで時間がかかるんですよ。それに、詠唱にも時間がかかって、不意打ちにも弱いんです」
ピンギキュラは、火炎放射器を軽く叩いて、自慢げに話を続ける。
「そこで、この火炎放射器です。これなら引き金を引くだけで、火炎魔法と同等かそれ以上の火力を相手に叩きつけられます。火炎魔法は、いざというときだけ使えば良いので、魔力も節約出来る一石二鳥です。帝国軍から払い下げられた93式火炎放射器を、私が使い易い様に改造しました。具体的には引き金に細工を施して、私の魔力を注入する事で、発火した油以外に、詠唱無しで、放射口から火炎魔法も放てる様になっています」
先程までの静けさと一変し、やや、早口で言い切った彼女を、マリーは困惑気味に見詰める。どうも、自分の得意分野に対しては早口になるタイプらしい。
また、 火炎放射器を使う美少女の姿を、今一つ想像出来ない。というのもあるし、それ以上に払下げ品を改造、という物騒な言葉が頭に残った。
「改造? ……改造って、安全性は大丈夫なんですか?」
「問題ありません。これでも私は、昔はラノダコール王国軍の技術士官ですよ? 今では、色々発明をしてはそれを売って、小遣い稼ぎをするのが関の山位になっていますが、昔は兵器開発にも関わっていたんです。こんなのお茶の子さいさいですよ」
元技術士官、と言われて、何となくマリーは納得した。
言われてみれば、先程読んでいた本も、科学技術関係の書籍だった。
「技術屋ですか。なんというか、貴女達、本当に『濃い』ですわね。それに、ラノダコール……といえば、3年前にノスレプ共和国に倒されたあのラノダコール? 」
「ええ。そのラノダコール王国です」
ラノダコール王国は、かつて、帝国の北方に存在した王国である。
往年は強国であったが、末期は貴族が政治を利己的に牛耳っていた事もあり、腐敗し、最終的に隣国のノスレプ共和国によって滅ぼされた。
「……アコちゃんに聞いたかもしれませんが、私達、実は元々貴族でした。必然、王国軍の一員として戦争にも動員されました。……あれはひどい戦いでした」
ピンギキュラは、嫌な記憶を思い出したのか、少し顔をしかめた。
ピンギキュラ「ふふ……やはり火炎放射器は良い。閉所で使えば酸欠と一酸化炭素中毒も狙え、単純に火を点けられるという点だけも色々便利。更にモヒカンヘアにしてヒャッハー! しても良し……」
マリー(ピンギさんが火炎放射器をうっとりしながら眺めている……)
ピンギキュラ「このフォルム、制圧能力、あぁ、まさに芸術品……! まぁ美しさはアコちゃんには劣るけど」
マリー(しかし、ファンタジー小説で火炎放射器って使って良いんでしょうか……? 一応、タグに近代並の技術力って書いてますけど……)
ピンギキュラ「ファンタジー小説で火炎放射器使ってもいいよね……! って読者の方は是非、ブックマーク・評価よろしくね」
マリー「ヤンデレだからって、さも当然の如く人の心を読むのやめません?」