59話 ファイアウォール
「照明弾……読むぞ。『我、弾薬欠乏。一時後退ス。援軍到着マデモチコタエヨ』」
ドロセラが竜の背の上から、空へ向かって照明弾を放った。スコープを覗いていたスペクターが、照明弾の色味から、意味を読み上げる。旧ラノダコール軍で使われていた信号だ。
「……爆撃、効いていない、ね」
「ま、予想はしていましたが……本当に邪神の眷属という事ですかね」
「信じられない。お伽噺に出てきた奴が、本当に出てくるなんて」
「私だって信じたくありません」
大蛇は爆弾を浴びてもピンピンしている。お伽噺で描かれている様に、かなりタフな奴の様だ。
ヴェナートル・オクトのお伽噺では、邪神『テネブラエ』の眷属は5体。いずれも、仮面を被った大蛇で、英雄達と激闘を繰り広げた。
お伽噺では、リーダーである勇者『ユナイト』によって、5体とも討ち取られた。お話の中では、大蛇達は、あっさりと撃破されていったが、実際に目にすると、倒せる自信は全くない。
流石のアコナイトと言えど、というより、慎重かつ臆病なアコナイトだからこそ、自身とパーティーの力で、手に負える相手では無い事が分かる。
そうするうちに、大蛇は怒った様に鎌首を持ち上げると、口から、ドロセラの乗るバーサーカーラプトルへ、風の砲弾を放った。
それはとんでもない速度で、風とはいえ、直撃すれば、人体くらいは真っ二つにしてしまいそうな程の威力である。丁度、サラが放った斬撃を大きくした様な感じだ。
とはいえ、そこはエース。あっさりとドロセラはその攻撃をかわして、高度を上げて離脱していった。
「……地上で、正面から戦って良い相手ではありませんね」
その威力を見ながら、アコナイトは呟く。
幸い、現在、アコナイト達の事は眼中に無さそうだが、もし、本気で排除しようと思えば、あの超高威力風鉄砲で、たちまち捕食毒華など、なぎ倒されてしまうだろう。
「どうする? 逃げる? お姉ちゃん、アコちゃんが逃げるつもりなら、反対しないよ」
「敵に背を向けるのは、騎士としては面白くないが……。命あっての物種だ。戦略的撤退もありだと思うぞ」
「……」
ピンギキュラと、スペクターは遠回しに、撤退を提案する。
実際、尻尾を巻いて逃げるという選択肢もありだ。勇気と蛮勇は違う。大型爆弾が直撃してもピンピンしている相手だ。多少の魔法や近接武器では傷一つつける事も出来まい。
実際、これまで捕食毒華は、ラノダ砦から落ち延びた時から、冒険者になった今まで、『勝てない相手とは喧嘩しない』を忠実に遵守する事で生き残ってきたのだ。別に、敵に背を向ける事に躊躇いはない。
「ですが、奴の目指す方角には、我々のねぐらである、プサラスの街があります」
方位磁針と、地図を取り出して、蛇の進む方向に直線を描く。丁度、プサラスの街に重なる形に蛇の進路が重なっている。
蛇の速度的に、1時間もすれば到達してしまうだろう。
「顔見知りもいますし、幽霊が出そうなボロ屋敷とはいえ、我々の屋敷もあります。逃げて、これらが失われるのも癪に障るんですよね」
アコナイトはそう言うと、ポケットに手を入れて、『紺碧薔薇の魔女』もとい、ニリンに貰ったガラス球を取り出した。
「これ、効きますかね」
「魔女様の言う事をどこまで信じるかだけど……」
「実は、先程、失神した時、魔女様とまた会ったんですよ。で、使い方を教えてくれて……」
アコナイトは、先程ニリンに教えられた球の使い方を話す。とはいえ、球に5種の魔力を注ぎ込む事、意味不明な言語の呪文を唱えなければいけない事を考えると、どちらにしろ、アコナイトにしか使えないものだ。
「でもさ、使い方は分かっても、アコ太郎、時間経過で回復させないと、もう魔力無いでしょ」
「はい。更に言えば、どちらにせよ、朝日が出ないと使えないので、まだ使用は出来ません。地味に不親切ですね。夜戦を想定していないのは。我々は夜討ち朝駆けが本分というのに……」
「今日の日の出は、5時半頃だ」
「あと、50分程ですか……。プサラスに到着するギリギリですね……」
チャンスは一度きり。これだけに、全てをかけるのはいささか、リスクが大きい。
「ドロセラちゃんが補給を受けてまた来るのも、パトリオット飛行場からここまで、それくらいはかかるだろうね」
「どうせなら、弱体化の術はドロセラとタイミングを合わせて行いましょう。もしかしたら、時間制限があるかもしれません。私が弱体化の術をかけた直後に、爆撃が刺さるというのが理想ですが……。スペクター、とりあえず、貴女は、『哨戒』をかけつつ、周辺の警戒を行ってください。まだ、近くに敵の追撃軍がいるかもしれません。気を抜かぬ様に! 」
「合点承知」
スペクターはそう言うと、クロスボウに矢を装填し、周辺の警戒態勢に入る。実際の所、追撃軍は全て、大蛇の生贄になっているのだが、それをアコナイト達が知る由は無い。
「ピンギ、フロッガー。我々は、あの大蛇の進行を、少しでも遅らせる事が出来るように、進路妨害をしてみましょう。但し、無理は絶対にしない様に」
「しかし、具体的にどうする? 人間が立ちふさがった所で、奴が動きを止める事はなかろう」
「奴の進路をを火で覆い、迂回させます」
「火?」
アコナイトはそう言うと、ピンギキュラの火炎放射器を示した。
「ここは草原。可燃物なら足元にたくさんあります。生草に火は着きにくいですが、火炎放射器の放つ発火油や、火炎魔法なら」
「火を点けられる」
ピンギキュラはそう言うと悪戯っぽい笑みを浮かべた。
「焼き討ちってわけね」
「ええ。進路を変える事は出来なくとも、時間稼ぎ位は出来るでしょう」
「油の量は十分。魔力も、『ファイアーピースキーパー』3発分くらいなら残っているよ。風向きも湿度も、点火までには十分」
「それは良い。早速やりましょう」
そこまで言って、今度は獣形態のフロッガーが口を挟んだ。
「でも、その為には、蛇の前に先回りしなきゃいけないでしょ? それなりの速さで動いているし、今から、追い越せるかな?」
「フロッガー。貴女の獣形態での速度は何キロですか?」
「50キロは出せるよ! 」
ドヤ顔で答えたフロッガーだが、アコナイトの様子が妙だ。一応、半年という、短くは無い時間を共に過ごしている彼が、なんとなく、何を言いたいか分かった。
「……え。まさか……」
アコナイトはニッコリといつもの傾国の笑みを浮かべると、無言で、フロッガーの背を指した。
* * *
「そんな事だろうと思ったよ! 」
フロッガーは半ばヤケクソ気味に叫んだ。
彼が伝えたかった事。それは、彼女を蛇の前に出るための乗り物にしたい。という事だった。
「もう少し速く走れませんか? 」
「これが限界! 背中に二人も乗せてるんだよ! 」
「貴女なら、もう少し頑張れるはずです。ペットとして、愛していますよ我が忠犬」
「アコ太郎! 耳元で色っぽく囁くの禁止! 犬は耳が良いんだよ! 脳が溶ける! そしてギンピギンピさんは、焼き餅焼いたからって尻尾引っ張るの禁止! その感覚、マジで気色悪いから! 」
実際、ケルベロスの足は速い。楽に先回りが出来る。が、フロッガーの様な若く健康なケルベロスでも、流石に人間を二人も背に乗せるのは過積載だった様で、疲労の色が見える。
文句を言いつつも、やがてフロッガーは大蛇を追い越した。丁度、目の前には、燃やしやすそうな草原が広がっている。
「ピンギ、やっちゃってください! 」
「任せて! 」
ピンギキュラは、火炎放射器の砲口を空へ掲げ、引き金を3回引いた。
先述の通り、彼女の火炎放射器には改造が施されており、詠唱無しで火炎魔法を放てる。
たちまち、巨大な火球が3発撃ちだされた。大蛇も、アコナイト達に気付いたのか、風の砲撃を放とうとする。
「させません! フラッシュバン! フロッガー、ピンギ、目を焼かれない様に! 」
アコナイトは、投石器にスタングレネードを包むと、蛇の顔面めがけて、思い切り投げつけた。
周辺が、閃光と轟音に包まれる。流石の大蛇も面食らったのか、砲撃は明後日の方へ飛んでいく。
「……蛇には、ピット器官のお陰で、目が見えなくとも、赤外線で得物を探知できるって言うけど、効くんだね」
「この101式閃光弾は、炸裂と同時に、対赤外線探知フレアもまき散らす高級品ですから。蛇タイプのモンスターにも効くんです。邪神の眷属にも効いて良かったです」
「……ちなみに、一発、いくら? 」
「……それなりの金額とだけ。オウカさん。大人しそうな顔して、さらっと高級品売りつけてくるあたり、中々したたかですね」
「今回はそれに救われたし、結果オーライとしよ」
のんきに話している間にも、放たれた火球は分裂して地上へ落ちてくる。
それを見ながら、フロッガーは気合を入れる様に、遠吠えをした。
「巻き込まれない様に、最高速度で離脱するよ! 」
振り落とされない様に、2人はしっかりとフロッガーの背にしがみつく。果たして、2人と1匹が離脱した直後、分裂した火球は次々と地上に降り注ぎ草原に火を点けた。たちまち、炎の壁が形成される。
「点火成功! このまま燃え広がってください! 」
「見て! アコちゃん、蛇が迂回していくよ! 」
さすがの大蛇も、火傷してまで、火を踏み越えて行こうとは思わなかった様だ。炎の壁をかわそうと、進路を大きく迂回させた。これで、大きく時間が稼げるだろう。
アコナイト「小娘! 派手にやるじゃねぇか! 」
フロッガー「これから毎日草原を焼こうぜ! 」
ピンギキュラ「前にも見たね、この流れ」
アコナイト「まぁ、天丼という事で一つ」
フロッガー「ここで、アホの作者からお知らせだよ。アホ作者、ここ最近、仕事が忙しいらしくて、しばらく投稿頻度が落ちるかもって事だよ」
ピンギキュラ「よりにもよって、1章もクライマックスに向かっている最中にこの作者は……」
アコナイト「アホ作者、朝早くて夜遅い典型的なブラック勤め故、何卒ご容赦を……。最近はAIがイラストまで描いてくれる様になったのに、何で、きつくて汚くて危険な仕事はAIは代わってくれないんですか……」
フロッガー「世の中そんなもんだよ。と思った方はブックマーク・評価、よろしくね! 感想や誤字報告も嬉しいよ! 」
ピンギキュラ「なる早で上げられる様に頑張るから、次回もお楽しみに! 」




