56話 テイクオフ
ジンが捕食毒華と交戦し始める少し前。
<<畜生……! 畜生……! ラノ共め……! >>
「はははっ! 秘密兵器は負けフラグって、昔から相場が決まっているんだよ! 」
ジンはインカムタイプの無線機で、ヴァッブ廃城で使役獣を操っていたサラを煽った。手には双眼鏡。丁度、ケルベロスが火柱になり、竜が垂直着陸しようとしている所だ。
彼と、追撃軍は、草むらに隠れて、獣達と捕食毒華が戦う様子を見ていた。が、動物軍団が最後のケルベロスが撃破され、全滅する所を見た事で、追撃軍には動揺が走っている。距離的には、ギリギリ、お互いの魔法や矢が届かない位の遠さだ。
「なーにが、白髪は私が殺る! キリッ! だよ! 赤髪すら殺せてないじゃないか」
<<野蛮な蛮族め……。おぞましい凶賊どもめ……>>
「おぉ、怖い怖い。4000年間凝縮された憎悪は違うねぇ」
ラノダ人への呪詛が聞こえてきた辺りで、ジンは無線機のスイッチを切ろうとした。どうせ、この後に聞こえてくるのは、口汚い罵声しかあるまい。
だが、無線機のスイッチに伸ばしたジンの手を、ごつごつした固い手のひらが止めた。目を向けると、いつのまにか、キャメル候が後ろにいて、目でインカムを渡せと言っている。ジンは、大人しくインカムを手渡した。
「サラ。お前はもう良い。適当な所で城から抜け出せ。ポイント、シエラ2で合流だ」
「……っ! 私はまだ戦えます! 白いのとの決着もつけていません! 」
「どうせ、動物たちの使役で魔力も残ってはおるまい。それで何が出来る。今からオスカー31に来る時間もないであろう。……今回は見送れよ」
「しかし……」
「これは命令だ。それに、楽しみは後に取っておくものだ」
無線ごしでも、サラの憎悪と悔しさは伺える。候、厳密には彼に憑りついた『何か』は、無理矢理話を終わらせてしまう。彼女も、これ以上、異を唱えても、彼の意思を変えられないと思ったのか、不満そうな声で「了解」と、一言返すだけだった。
「さて、ジン。私は、少し『実験』を行う。準備が出来るまで、連中の事を妨害してもらって良いか? 」
インカムをジンの耳に詰め直しながら、キャメル候は言う。
「良いけど……流石に、4対1。それも、相手にはドラゴンもいる。と、なると、相当厳しい戦いになりそうだけど」
「別に、殺す必要は無い。準備が出来るまでの時間稼ぎだ」
「言うは易しだけどねぇ……。まぁ良いや。追撃軍の兵士達は近づけさせないでね。かえって邪魔になる。あと、『実験』が成功したら、僕も下がって良いかな? 流石に、利き腕じゃない方だと杖が握り辛い」
「ああ。サラと同様、シエラ2で合流しよう」
そう言って、ジンを送り出した候は、不敵な笑みを浮かべる。
「さて、今回は初の『実験』だが、上手くいくかな。相手が腕の良い冒険者なら、少しは面白い勝負になりそうか」
そう言うと、懐から、1体の像を取り出した。その像はおぞましい形状の蛇をかたどったもので、顔には、制作者の狂気を感じる程、おどろおどろしい仮面を被っていた。口には、炎の消えた松明を咥えている。
そう。正に、アコナイト達が探し求めていた邪悪なる像が1体、まさに、彼の掌の中にあった。
「邪悪なる像の力、見せてもらおう……***********」
そう言って、彼は、邪像を掲げ、何語ともつかぬ言語で、呪文を唱え始めた。
* * *
時間は、今に戻る。
現在、捕食毒華は、ジンの猛攻を、シールドを張って防いでいる。
彼の狙いは、バーサーカーラプトルだ。飛竜の飛行の為には、ある程度の長さの滑走が必要だ。必然、飛び立つ為には、シールドの範囲外に出なければならない。
つまり、彼が攻撃を続けている限り、ドロセラは飛び立つことが出来ないし、捕食毒華も動けないのだ。
このままではジリ貧である。
「相変わらず、凄い魔力量だ……! 」
「……しかも、ちょこちょこ動くせいで、攻撃が当たらない! 」
放った『ファイアーアトラス』がかわされたピンギキュラは、苦虫を噛み潰した様な顔をした。
身体強化の魔法をかけているのだろう。ジンは激しく動き回って、狙いをつけさせない様にしている。
彼の回避能力は大したもので、『アコニチン・バックショット』などの回避が難しい面制圧射撃のみをシールドで受け、単発系の攻撃は全て回避していた。
「……このままではジリ貧。追撃軍も、じきに来るでしょう。……ピンギキュラ! リミッター解除を使います! やり方を教えてください! 」
「……っ!」
渋い顔をますます渋くさせたピンギキュラだが、このままではらちが明かないのも事実である。
「……不用意に発動しない様に、少し複雑な方法になってるよ。まず右側の指輪の1って書いてあるボタンを押して。次に、左側の2 って書いてあるボタンを押す。もう一度左側の3ボタンを押した後、最後に、もう一度、右側の1ボタンを押す。最後のボタンを押したと同時に、アコちゃんの本来の力を出せるようになるよ」
「ありがとうございます。良い考えがあります。早速、使います。ドロセラ! 離陸まで必要な直線距離は何メートルですか? 」
後ろで守っている乳母妹に聞くアコナイト。それに、ドロセラはすぐに答えた。
「安全に行くなら1500m! でも、最低、1000mあればなんとか!」
「1500m、直線上に盾を張ります! リミッター解除後なら出来るはず! 盾で滑走路を作ります! 」
「そんな事出来るの!? 」
「出来ねば死にます! 」
そう言って、アコナイトは集中しながら、魔法の詠唱を始める。更に、気合を入れる意味でも、再び、サイドの髪にピンギキュラから貰った、青薔薇の髪飾りもつけた。
「白色の花に宿りし、おぞましく甘美なる毒よ、我と我に宿る紺碧薔薇の魔女の名において、これを使役せん……コンバラトキシン・ガード! 滑走路よ、現れろ! 」
言われた通り、1、2、3、1の順で指輪に付いたボタンを押した。
1のボタンを押すと同時に、彼の中で、魔力が湧きあがってくる様な感覚を覚える。同時に、10万人を無慈悲に殺害した時の記憶も浮かび上がってきた。閃光と轟音が脳内でフラッシュバックする。
「……」
無言でアコナイトは頭を振って、それを振り払う。どうせ、今更どうこう言ってもどうしようもないのだ。
それより、今は邪神像を回収し、悲劇が二度と起こらない様にする方が良い。その為には、この死線を越えねばならない。
果たして、オスカー31の平地に、毒の盾で守られた、一直線の道が現れた。距離にして1500m。バーサーカーラプトルの離陸に十分な距離だ。
「凄い……本当に、道が出来ましたわ」
「兄様が作った滑走路、使わせてもらいます! 」
時間がない。ドロセラは操縦桿を操作して、バーサーカーラプトルを羽ばたかせながら、滑走路の上を一思いに走らせた。深緑色の竜は、一気に一本の道を駆け抜ける。
まずいと思ったのか、ジンが氷柱を連続して放ってくるが、全て毒の盾に弾かれた。
「V1……ローテート! 」
HUDに表示された速度から、離陸決定速度と、竜首上げ速度を越した事を確認したドロセラは、操縦桿を引いて、竜首を上げた。ちなみに、マリーはというと、初めての飛竜での飛行体験に、目を瞑って神に祈りを捧げている。
「V2……! 離陸成功。一気に高度を上げます! 舌を嚙まないでください! 」
速度が安定した事を確認したドロセラは、操縦桿を引いて、地上からの攻撃が届かぬ様に、慎重かつ冷静に高度を上げた。
アコナイト「前回の挿絵、地味に変更していましたね」
ピンギキュラ「私の手の位置と服の構造がなんか、だまし絵みたいになっててね……。ぱっと見問題ないんだけど、よく見るとおかしい事に気付くタイプの作画崩壊だから、気になりだすと止まらなくなって、最終的に作り直したみたいだね」
アコナイト「AIちゃんは、本当に手関係は苦手ですね」
ピンギキュラ「あと動きのある構図と、小物系ね。今回の青薔薇の髪飾り位なら問題ないんだけど、武器とかになると、一気に怪しくなるよ」
アコナイト「なんか珍兵器みたいな武器が量産されるんですよねぇ。バトルアックスなんて、生成自体がかなり難しい上に、使える構図となると……」
ピンギキュラ「AI絵も言われているほど、思いのままの絵が出来る訳じゃないよねって共感した方は、評価、ブックマークよろしくね」
アコナイト「感想、誤字報告もお待ちしております」




