53話 VS黒い地獄犬
「紫色の花に宿りし、おぞましく甘美なる毒よ、我と我に宿る地獄の番犬の名において、これを使役せん……アコニチン・バックショット」
選んだ魔法はアコニチン・バックショット。毒属性の面制圧射撃魔法だ。
放たれた光線は、拡散しながら黒いケルベロスへ向かって行く。が、相手もさるもの。防御魔法『コンバラトキシン・ガード』を展開すると、それを防ぎきる。
「防がれた?! 」
それなりに自信があった攻撃だったのだろう。フロッガーは驚愕し、悔しがる。
だが、相手も同じ、魔法を得意とするケルベロス。はなから楽勝できるとは思っていない。すぐに気を取り直して、黒いケルベロスに噛みつこうと接近戦を仕掛けるべく、飛び掛かった。
相手もそれに乗り、牙をむき出しにする。2匹の3mの3つ首の巨大犬は、激しいもみ合い、噛みつき合いになった。激しい、犬同士の吠える声が、払暁の平原に響き渡る。
「アコ太郎! 早く援護を! 」
とはいえ、体格差では相手の方に分がある。フロッガーは、噛みつき合い、血を流しながら援護を要請する。
「フロッガー! 今助太刀します!」
アコナイト達も、彼女を援護しようと、黒いケルベロスを攻撃しようとするが、そうはさせまいと、周辺の動物達が、牙や爪で攻撃すべく、一斉に接近してきた。
「助太刀の前に、まず、こいつらを何とかしないとな! 」
「アコちゃん、アコニチンバックショットで一網打尽に! 」
ピンギキュラの提案に、アコナイトは頷き、詠唱を開始する。発動までの間は、ピンギキュラが前に出て、火炎放射器で牽制する。
アコナイトは、フロッガーと同様、アコニチン・バックショットを放った。
紫色の光線は、接近しようとしてきた動物達を薙ぎ払う。が、何匹か倒されたところで、彼らの突進は止まらない。
「こいつら、死を恐れていないのか!? 」
「『支配使役』によって操られているからね……。洗脳されている様なものだよ」
死を恐れず、突撃して来る動物たちに、ピンギキュラも、流石に恐怖した。
何しろ、火炎放射器で焼こうが、構わず死ぬまで突進して来るのだ。普通、野生動物は火を恐れる。そんな常識が通じない。
毛皮に火が付いたまま、1匹のモンスター『ファイティング・ラクーン』が、爪を立てながら接近してくる。それを、ピンギキュラは、火炎放射器を片手に、母の形見であるスティレットを、もう一つの片手で持って、飛び掛かって来たところを、タイミング良く突き刺した。アライグマ型のモンスターは、燃えたまま、がっくりと力尽きる。
「マリー様、我々の後ろから決して、出ません様に」
「は、はい! 」
ピンギキュラの言葉に、マリーは頷くしか出来ない。実際、今の状況でウロチョロされては、かえって守りにくいだろう。
「装填に時間のかかるクロスボウでは不利だな」
1体1体、クロスボウで確実に仕留めているスペクターは、倒しても倒しても減らない動物達に辟易する。全長1m近い、大型のクロスボウを愛用する彼女だが、再装填に時間がかかるという、弱点がある。
強力で長射程の矢を放てる反面、1度撃つと、地面にあぶみのついた先端部を、足を使って押し付けてから、全身を使って弓を引くという作業をしなければいけない。彼女1人だけでは、間違いなく動物達にやられていただろう。
「アコニチン・バックショットで、先程、ある程度、まとめて殺してくれなければ、やられていただろうな。アコがいて良かったよ」
「ですが……動きの早い動物相手では、拡散レーザーでも当てにくいです。せめて、動きを止められれば……」
バトルアックスで、爪を立てながら接近してきた『ファイティング・ラクーン』を切り伏せながら、アコナイトは愚痴る。
「動きを止めざるをえない状況にすれば良いんじゃない? スタングレネードがあったでしょ? 」
「良い考えですね。使ってみますか! 」
アコナイトは、スタングレネードの安全ピンを抜くと、動物の群れの中央に投げ入れる。
「全員、目をつぶって耳をふさいでください! 」
たちまち、轟音と閃光が、夜明け前の薄暗い草原に響き渡る。動物たちは、突然目を焼かれて、パニック状態に陥った。衝撃で、足を止めている。
「紫色の花に宿りし、おぞましく甘美なる毒よ、我と我に宿る紺碧薔薇の魔女の名において、これを使役せん……アコニチン・バックショット! 」
再度、呪文を唱えて、動物達を拡散レーザーで焼き尽くす。今度は、動きが鈍くなった群れの中心部で炸裂し、獣達はなすすべなくなぎ倒された。
ほとんどの動物が、この一撃で倒れ伏す。これで、ケルベロスの方に集中できる。
一方、問題のケルベロス2匹はというと、組み合いながら、激しく噛みつき合っていたが、黒い方が閃光を受けて、パニックになったらしい。
激しく抵抗して、フロッガーを振り払うと、全速で離脱しようとする。が、目を焼かれている為、たちまちバランスを崩して迷走を始めた。
彼は、故意か偶然か、マリーに向かって一直線に突撃し始めた。パーティーメンバーの空気が凍る。
「取り逃がした!! マロンさん、そっちに行った!」
「……! マリー様、危ない! 」
真っ先に動いたのはアコナイトだった。
彼は、咄嗟にマリーをケルベロスの進路から突き飛ばすと、防御魔法、コンバラトキシン・ガードを貼る。
展開された猛毒の盾だが、咄嗟に貼った為、十分な厚さを確保出来なかった。そのまま、ケルベロスの突進をもろに受けて、盾は砕かれた。
そのまま、アコナイトは、全長3mの巨体の突進を受けて弾き飛ばされる。
「アコナイトさん!」
一同が驚愕する。華奢な体は宙を舞い、地面に叩きつけられた。
ピンギキュラ「あああああああああああああ」
フロッガー「ケルベロスに追突されたアコ太郎、果たして彼は無事なのか?!」
ピンギキュラ「あああああああああああああ」
フロッガー「このまま異世界転生してしまうのか?! 」
ピンギキュラ「あああああああああああああ」
フロッガー「はたまた、何事もなく生きているのか?! 」
ピンギキュラ「守り切れなくてごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい」
フロッガー「ギンピギンピさん、アタシよりもうるさいよ! ブックマーク、評価、感想、誤字脱字報告、お待ちしています! 」




