51話 鷹の目
「どうするのです! あの女には逃げられ、我が軍の兵士にも多大な損害が出ております! これでは、私がバーンズ様に会わせる顔がありません! 」
「そう焦りなさりますな。今、我が配下が、襲撃犯の行方を追っております。それに、我が家の家人衆もじきにこちらに」
猛爆から30分ほど経ち、少しずつ、生き残りの兵達の混乱も収まりつつあるヴァッブ廃城。
悲惨な事になっている城の敷地内を見回りながら、アルブム・キャメル侯爵。正確には、彼の死体に寄生している『何か』と、ハーン・アスは、今後について話し合っている。
マリーのいる牢が、もぬけの殻になっている事は、すでに報告されていた。
マリーを護衛していた冒険者が、彼女を奪い返しに来る事までは想像していた。が、まさか、この様に派手に、ドラゴンを使った爆撃まで行うとは思っていなかった。
「しかし、ここまで見事にやるとは。護衛の冒険者、中々やるではないですか。興味が湧きましたよ」
「何をのんきな」
「槍は、こちらの手元にあるのでしょう? 別に良いでは無いですか。槍を吐き出させた以上、女の方は、もう用済みでしょう」
「そうですが……もうすぐ手に入れられた物が、目の前から奪われるというのは、面白くありません」
「……」
あの少女に、随分粘着している様だな、この小物。
そんな風に、侯爵の姿を借りたものは、心の中で罵った。
「しかし、廃城とはいえ、仮にも領主の城を爆撃するとは……」
「とんでもない事でございます」
「いや、とんでもない事は確かだが……」
そう言って、侯爵は顎に手を当てて考え込む。
―—竜まで、それも武装付きのものを用意するとなると、相手は一介の冒険者ではない。恐らく、裏には、何かしらの大きめのバックがついていることだろう。ラノダコール残党辺りか……。
―—ラノダコールと帝国は長年同盟関係にあった。彼らに、竜や武装を供給する事に躊躇は無いだろう。なんなら、鉄砲玉にする事にも……。
―—廃城とはいえ、仮にも、貴族の持ち物の城に対して、爆撃の許可が降りるというのも、変な話だ。
―—この宿主の生前。そして、死後、私が憑りついた後の悪行が問題になり、『退場』が決定した。もしや、ヴァッブ廃城への攻撃は囮。本命は、この者の本拠地バール城。家人衆が調査の為に離れた隙を狙って、侯爵を討伐するつもりか。危険な囮の攻撃には、ラノダコール残党とそれにつらなる冒険者を使って。
即座に、侯爵に寄生したものは、推理した。実際、彼の推理は当たっている。
「まぁいい。そろそろ目をつけられると思っていた所よ。幸い、私がいるのはバール城ではなく、ここ。それに、逃げるまでの、時間稼ぎ要員はいるしな」
そう、小声で呟いた。
「……? 何か言いました」
「いえ、ただの独り言です」
―—小物殿には、最期まで実験動物として、付き合ってもらいましょう。
そう、侯爵は心の中で言った。
「それより、今回襲撃してきた冒険者、私は興味があるんですよ。こんな大規模な奇襲を成功させるとは」
「は、はぁ……」
「どこにいるか分かったら、追撃軍と共に、少し、様子を見に行こうと思います。無論、ハーン殿もご一緒に。あの娘も一緒にいるでしょう」
「それは……」
戦場に行くことに躊躇いを見せたハーンだったが、マリーが居ると聞くと少し、やる気が湧いたらしい。やがて、頷いた。
* * *
一方、こちらは城の一角。その部屋の中心で、1人の少女が座禅を組んでいた。
少女の名はサラ・ヴァイスハイト。ビーストテイマーの彼女は、集中した状態で、100匹近い動物を『支配使役』で操っている。
頭の中では、100匹の動物達の視界が複数同時に映っている。半端なビーストテイマーでは、脳が焼き切れて、廃人になっているだろう。それだけ、彼女のテイマーとしての能力が高い事の証明である。
これも全て、先程襲撃してきた連中を追いかける為だ。
――あいつらだ。
サラは、襲撃してきたのが、令嬢の護衛の冒険者達であると確信していた。
その中でも、竜を操っていたのは、あの白色髪の女だ。間違いない。
大型爆弾で、家屋の外装を吹き飛ばし、焼夷弾で内部の可燃物に火を点け、熱から逃れて出てきた人を機銃掃射でなぎ倒す。
そんな、どこまでも効率的で、どこまでも悪趣味なラノダコール空軍の空襲のやり方を、身をもって知っている彼女は、今度こそ、ドロセラを仕留めるべく、使役獣を使い、やっきになって周辺を探している。
「サラー、まだー? 」
「ジン、こちらは集中している。話しかけてくるな」
「へいへい。何か見えたら教えてね」
脇では、ジンがつまらなさそうにしている。彼には『支配使役』は使えない。
「む……? 」
突然、1匹の鷹の視界が消えた。気になって、近くにいた栗鼠を鷹の視界が途絶えた地点に急行させる。
果たして、そこには、巨大な矢に串刺しにされて墜落した鷹の死体が落ちていた。
「これは……死んだラープ兵に突き刺さっていた物……」
先程、外の死体に刺さっていたもの同じ物であるという事は、奴らのうちの誰かが、これを放ったという事だろう。
「成程、今度は上空も警戒しているという事ですか」
鳥を飛ばして偵察させるやり方を警戒しているのだろう。どうやら、学習能力はあるらしい、と、サラは忌々し気に思った。
「ただ、この近くにいるというのは間違いなさそうですね……。動物達をこの周辺に、集結させる。必要なら攻撃も……」
操っていた大小100匹近い動物を、鷹が落とされたポイント、オスカー地点周辺に集結させる。まさか、連中も、これ程の数を操れるとは思っていまい。
「さぁ、見つけ出すまで時間の問題ですよ……」
そして、サラは不敵に笑った。
「それに、こちらには秘密兵器もあります」
「秘密兵器ねぇ……」
そんな風に呟いたサラを、ジンは暇そうに眺めていた。
サラ「私が用意した秘密兵器とは何か!? 待て、次回」
ジン「いうて大体秘密兵器って負けフラグじゃない? 戦艦大和とかビグ○ムとかさ」
サラ「……大和は後の創作で宇宙戦艦になったり、女の子になったり大活躍してるでしょ。そういう事言わない。ビグザ○は……まあ、うん。気を取り直して、さあ、ぶち転がしてやりますよ。ラノ共……」
ジン「まあ、本当にぶち転がされたらこの話終わっちゃうんだけど」
サラ「だから、そういうメタい事言わない!」
ジン「ブックマーク、評価、感想、誤字脱字報告、待ってるよ」




