50話 令嬢奪還
「何……? 何事ですか? 」
突然響いた爆発音と、大地を揺るがす振動に、マリーは目を覚ました。
こんな状況でも眠くはなるもので、椅子に拘束された状態で、うたた寝してしまったらしい。
「そこな見張り。何が起こっているのです? 」
地下牢の入り口で警備をしていたはずの見張りに、マリーは尋ねた。
あまり質は良くない兵の様で、下着姿で拘束されたマリーに、下品なヤジを飛ばしてくる様な輩であったが、現状、彼以外に頼れる人間がいないので仕方がない。
「俺に言われても知らねーよ! 何だか、上はとんでもない事になってそうだが……」
動揺しているのは、彼も同じなようで、相も変わらず乱暴な口調で言う。
使えないな……と、心の中で罵りつつ、これ以上、悪い事が起きない様に、彼女は祈る。
「何だ……? 誰だ、お前たちは!? ぎゃぁぁぁ! 」
そう祈った矢先、先程の見張りの兵の叫びが地下牢に響いた。
「今度は何ですの?! 」
困惑しながらマリーは叫ぶと、背中を斬られて血まみれになった見張りが、壁を伝いながら、満身創痍で歩いてきた。彼女が、ぎょっとして、見ていると、彼の頭に、飛んできた斧が突き刺さった。
男は、かち割られた頭蓋から血と脳漿を垂らしながら、倒れ伏した。身体はびくんびくんと痙攣している。
「ひぃぃぃ!? 」
良い印象は持っていなかったが、先程まで話していた相手が目の前で死んだ事で、マリーはたちまちパニックになった。
「嫌! 嫌! 助けて! 命だけは! 私の身体をどうしても良いですから命だけは! 」
「お嬢様! アコナイトです。お助けに参りました!」
「嫌! 来ないで! 」
「マリー様、捕食毒華です! 貴女の護衛ですよ!!」
「はぁっ、はぁ……いーたーぽいずんふらわー?」
「いかにも。遅くなりましたが、我々がいれば、もう大丈夫ですよ! 」
斧を投擲した男、アコナイト・ソードフィッシュその人が、マリーがいる鉄格子の前でかしずいて、余裕たっぷりな態度と口調で述べた。
その余裕ぶりと、アコナイトやピンギキュラ、フロッガーという見知った顔を再び目に入れた事で、少し落ち着きを取り戻したマリーは、安心のあまり、思わず、大粒の涙をこぼした。
「あうっ……えぐっ……。遅いですよ! 何をしていたのです! 私ずっと不安で不安で……! 」
「申し訳ございません。救出に際し、最高のタイミングを待っていたのです。厄介な連中は、ドロセラが焼き払ってくれました。今なら、悠然と脱出する事が出来ます」
アコナイトは、殺した男の頭に突き刺さった、愛用のバトルアックスを引き抜くと、それを牢の鍵に向けて、何度も振り下ろした。
元々、古い城の地下牢である。劣化していたのか、鍵はあっさりと破壊出来た。すぐに、牢の中に入って、マリーの拘束を解く。
歓喜と、緊張と疲労と空腹でくたくたになっていた事もあり、マリーはアコナイトに抱き着いた。
「えぐっ……ひっく……怖かった! 怖かったです! 」
「お嬢様、あまり過度なスキンシップは……」
乳姉妹を幾度となく抱いて、女性経験自体は豊富なアコナイトであるが、流石に、下着姿の美少女に突然抱き着かれたのには、面くらってしまった。
「……」
「わー、ギンピギンピさん、凄い顔してる……」
すぐ後ろに立つ、最愛の乳母姉の顔が、悪鬼羅刹もかくやというばかりに嫉妬で歪んでいるのを確認したアコナイトは、出来るだけ、妖艶な声を出して、マリーを引き剥した。
「……マリー様、お気持ちは嬉しいですが、私にはピンギ達が居ます。お放しして頂いても? 」
「は、はい。失礼しました」
それから、マリーは改めて自分の姿を見て恥ずかしくなったのか、それまで羽織っていた上着を、改めて着直した。下に着るものが無いので、黒いパンティがちらちらと見えるが、何も着ないよりはマシな恰好だろう。
「……あーこーちゃん? マリー様に下着姿で抱き着かれて興奮してたでしょ? だーめーだーよー? 私達以外の女の子で興奮しちゃ」
アコナイトは、そんなピンギキュラの追及を一笑した。
「してませんよ。私があなた達の身体以外に、興奮なんてする訳無いでしょう? 」
「どうかなぁ……。アコちゃん、女の子のパンツ大好きだからなぁ……。覚えてるよ? 大昔、13歳の頃、うちにいたメイドのパンチラを見た夜1人で……。あーあ、メイドを夜のお供にするなら、まさにメイドの子が居るのにねぇ? 頼んでくれたらパンツくらい大喜びで見せてあげたし、なんなら、その後もしてあげたのに……」
「何年前の話をしてるんですか……。まだ、その時は恋仲では無かったのでノーカンでしょう。というか、何で知っているんですか……」
「そりゃあ、命がけで守るべき、否、命を捨ててでも守るべき主兼義弟の事は何でも知っていますよ。これでも忠臣気取っていますから。文字通り、何でもね? 」
「流石、私の乳母姉。そういう所も大好きですよ? 私の守護神様。いつも守ってくれてありがとうございます」
「……そんな色気むんむんな声色で、耳元で囁かれると、浮気判定以前に、脳がとろけそうになるから勘弁して欲しいんだけど……」
「……意外とちょろい所も大好きですよ」
そんな夫婦漫才を尻目に、スペクターが、淡々とマリーの状態をチェックしていく。
「うむ、怪我は無いな。精神的疲労が強いのと、空腹そうだが、健康状態も問題無さそうだ。ゼリータイプの携帯食料ならあるぞ? 食うか?」
「ありがとうございます。貴女とは初対面ですね。えーっと、エルフさん? 」
「スペクター・イヴィルフェイス。アコナイト達とは、ちょっとした旧友だ。あいつらとは、今回なんやかんやあって、行動を共にしてる。あと、私はラノダ・エルフだ。古臭い伝統にこだわる頭の固い純血エルフと一緒にしないでくれ」
「アタシはフロッガー! 可愛い可愛いケルベロス娘だよ! 」
「いや、フロッガーさんの事は知ってますが……」
「いやー、一応一緒に自己紹介した方が良いかなって! 」
そんな姦しいパーティーであるが、マリーの無事を確認すると、皆真剣な表情になった。良くも悪くも、オンオフの差が激しいのだな、マリーは思った。そのまま、アコナイトからざっくりと脱出計画を聞かされる。ドラゴンまで引っ張り出してくるとは思わなかった。
「では、脱出しましょう。マリー様はフロッガーの背に乗って下さい」
「へーい。かもーん」
フロッガーは少女の姿から、3つ首の犬の姿に変わった。乗りやすい様に、伏せの体勢になっている。
マリーはおっかなびっくりしつつも、フロッガーの背に乗った。案外、乗り心地は良かった。
「意外と毛皮はしっとりしてるんですね……」
「えへへ。これでも女の子だからね! お手入れはしっかりしてるよ! 」
フロッガーの背に彼女が乗った事を、アコナイトは確認すると、自分が斧を構えて前衛に立つ。横ではピンギキュラが火炎放射器を構えた。フロッガーを中心に、後衛はスペクターという陣形だ。
「さぁ、後は、脱出ポイント、オスカー31までマラソンです。敵とは必要以上に交戦しない様に!」
「「「了解! 」」」
4人と1匹は一気に駆け抜け、地下牢、さらに廃城を後にした。時間にして、10分未満。予定通りの奇襲と奪還に成功したのだった。
アコナイト「あけましておめでとうございます!」
ピンギキュラ「という訳で、新年一発目からマリー様救出回です」
アコナイト「拐われた回が38話なので、かれこれ10話以上、別行動していたんですか……」
ピンギキュラ「アホ作者、遅筆な上に、ねっとり描写するのが好きだからねぇ。気長に付き合っていただけると幸いです」
アコナイト「劇中時間だと、物語開始から24時間経過した程度なんですけどね」
ピンギキュラ「濃い1日だこと」
アコナイト「今年も本作をよろしくお願いいたします」




