49話 夜空からの一撃
「4時ジャスト! 攻撃に移る」
高度900m。飛竜の飛行高度としては、かなり低い。
ドロセラは、竜の背の上で、眼下に広がるヴァッブ廃城の兵舎、武器庫、櫓に狙いを定める。
位置は、事前情報通りだ。慣れた手つきで、操縦桿についたボタンを操作し、武装のロックを解除した。
「……こっちは、兄様とは別行動で、フラストレーション溜まってるからね。不殺なんて器用な真似は出来ないよ」
操縦桿のトリガーを引くと、それに連動して、胴体に吊り下げられた200㎏爆弾、計10発が落下した。爆弾は、それぞれ目標の兵舎、武器庫、櫓に次々と命中し、大爆発を引き起こした。
無論、打合せ通り、煙幕を張って、位置を知らせているアコナイト達を巻き込むことは無い。
マザーラプトルの最大積載量は、およそ7トン。バーサーカーラプトルの積載量も同じ位だ。今回は、その制限重量の最大に近い量の装備を、しこたま積んできている。まだまだ空襲は始まったばかりだ。
バーサーカーラプトルは、爆撃後、一度上昇後に反転して、再度爆撃コースに入る。
「今度は、火炎地獄のプレゼント 」
次いで投下したのは、100㎏の焼夷弾20発。これは、大型の親爆弾の中に、小型の多数の子爆弾が格納され、空中で分離、地上に降り注ぐタイプの爆弾。いわゆる、クラスター爆弾である。地上の家屋を焼き尽くす為に開発された、悪魔の如き兵器だ。
それをドロセラは、躊躇なく地上に落とした。爆弾で外装を吹き飛ばされ、内部の木材が露出した所に、この爆弾は良く効いた。
それらは着弾と同時に燃え広がり、地上を炎で赤く染める。
(これで、即死したり、焼死できた奴は運が良い。これから、もっと酷い事をするんだから……)
久しぶりの地上攻撃に、ドロセラは、あくまで淡々と敵兵を処理する。奇襲に成功し、敵の反撃がほぼない事も、それに拍車をかけている。
どうせ、死後に天国に行けるとは思っていない。そう開き直ると、敵の命を奪う事への抵抗も無くなった。
―—エーシや、アロモグ、ウモドス、その他の都市で焼いた人の数に、いくつか、数字がプラスされるだけだ。
火炎地獄を眼下にしながら、ドロセラは操縦桿を操作する。
「ガンポッド、ロック解除 」
若干の狂気を滲ませながら、彼女は、最後の武装のロックを解除した。
20㎜ガンポッド。地上の目標を薙ぎ倒す事を目的にした武装である。本来、対物用に作られたものだ。が、ドロセラは、炎に巻かれて地上に這い出してきた人間相手に、容赦なく引き金を引いた。
巨大な砲弾が着弾した地点は、土煙に包まれる。そのせいで、撃たれた人間がどうなったかは視認できなかったが、悲惨な事になっているであろう事は、空からでも想像出来る。
「せっかくなら、エーシみたいに、ノースズ共を撃ちたかったなぁ……」
あくまで感情を出さず、冷静に地上を地獄絵図にしながら、ドロセラは1人ぽつりと愚痴る。
一夫一妻制の、女1人しか養えない根性無しで、お堅い一神教を信仰する邪教徒で、死後に遺体を残さず焼いてしまう、訳の分からない文化を持つ。そんなノスレプ人の事を、彼女は理解出来ないし、したいとも思っていない。
親友と、一族郎党を惨殺されて以来、生粋のノスレプ嫌いである彼女だが、そうでなくとも、ラノダ人とノスレプ人はそもそもの文化、価値観が違い過ぎて、相互理解とは対極の位置にある。
ノスレプ人に対するラノダ人の感情は、多かれ少なかれ、上記のドロセラの思考に近い。
言葉を尽くして、和解しようとするより、殺して犯して追放して、破滅させてしまった方が早い。と、いう結論になるのも不思議ではない。もっとも、言うは易し、で、それが双方出来ずに、こうして、4000年間も、グダグダな血まみれの殺し合いをする羽目になっているわけだが。
ともあれ、今、行っているやり方は、そんなノスレプ人の都市を焼いた時のやり方と同じだ。計20回行われた各地の都市への、無差別爆撃のほとんどに参加したドロセラにとっては、手慣れたものだ。
大型爆弾で、建物の外壁を吹き飛ばし、中の可燃物に焼夷弾で火を着け、炎に追いたてられて出てきた人間を、機銃掃射でなぎ倒す。20回におよぶ大量殺戮で、やり方もずいぶん洗練されたものだ。もはや、彼女はそこに感情も無く、淡々と作業を実行している。
3回ほど反転して地上に機銃掃射を行った後、ドロセラは、悠々と戦場を離脱した。
地上からの魔法攻撃や、対空砲火もロクに無い。恐らく、地上は大混乱になっているだろう。
潜入もしやすくなる。結構な事だ。
そう、ドロセラは思いながら、合流予定地点、ポイント・オスカー31に向かって飛んで行った。
* * *
「ドロセラちゃん、やっぱり凄いね。あっという間に。廃城の丸焼きが、1個出来上がりだ」
自分の、腹違いの妹が引き起こした大破壊を見つめながら、ピンギキュラはそれを称賛した。
実際、ドロセラの腕は大したもので、爆弾は寸分も違わず、建物に突き刺さり、崩壊させていた。一方、こちらへの誤爆などは、焼夷弾の子爆弾や機銃弾を含め、一切無い。
「さぁ、彼女が作った隙を無駄にしない為に、潜入としゃれ込みましょう」
「待ってました! マロンさんを早く助けてあげよう! 」
「援護射撃や狙撃なら任せろ。ラノダ・エルフの力を見せてやる」
吹き飛ばされた城門を潜ると、そこに広がるのは凄惨な光景だった。
死体が焼ける不快なにおいが漂い、機銃になぎ倒されたのか、身体の一部が無くなった死体が、あちこちに転がっている。
「酷い光景ですね……」
「……加害者側の私達が言う? 」
「まぁ、それはそうですが」
出来るだけ、瓦礫や物陰に隠れながら、4人は、本丸を目指す。
「……そういえば、気になっていたんだけど、廃城とはいえ、この城、領主の何たらっていう、侯爵様の持ち物でしょ? こんな風に吹き飛ばして良かったの? 」
ピンギキュラは、少し不安そうに言った。アコナイトは、不安を取り払う様に、余裕ぶった口調で答える。
「ご心配無用。侯爵、どうも、裏でラープ王国と繋がっていて、色々と汚職やスパイ行為を行っていた様で、泳がされていた様です……。今回の件で、完全にラープのクーデター軍が敵認定された事で、『退場』が決定した様です。丁度、別働の軍人達が、この後、彼の屋敷を襲撃し、首級をあげる手筈になっています。そう、ギルドマスターが通信で言っていました。今回の我々の任務は、それの陽動も含まれます」
「侯爵家の兵を、こちらに引き剥す為の、囮でもあるって事? 」
「そういう事です。まぁ、彼らが報告を受けてこちらまで来る頃には、我々は逃げ去っている訳ですが。この作戦は、極秘裏に行われる為、受付嬢でさえ、知らされていないそうです」
「なるほど、実際、ラープと候が繋がっているとすれば、この城が、奴らラープ人の、帝国における秘密拠点になっている事にも説明がつく。実際、あいつらの装備、ラープ軍のものだぞ」
クロスボウのスコープを覗きながら、スペクターが言う。そのまま、引き金を引き、矢を撃ちだすと、スコープから目を離した。仕留めたのだろう。
「音の出ないクロスボウは、今回の作戦にもってこいですね。手を貸してくれて助かりました、スペクター」
「お礼なら、姫様に言ってくれ。私は、彼女から与えられた仕事をこなすだけだ」
アコナイトは、素直にスペクターの腕を褒め讃えた。今倒したラープ兵は、それなりの距離にいたからだ。流石、ラノダ・エルフである。
一方、それが面白くないのか、ピンギキュラは病んだ瞳でアコナイトを睨んだ。
「……アコちゃんが、私達姉妹以外の女の子と仲良くしてる」
「浮気を心配しているんですか? 杞憂ですよ。私が愛しているのは、これからも、この後も、あなた達だけです」
アコナイトは、余裕綽々とした、声と態度で言うと、ピンギキュラの頬にキスを落とす。不意打ちのキスに、ピンギキュラは思わず、だらしない顔になった。
「……その妖艶な顔と、声と態度で言われると、こちらも思わず許しちゃうなぁ……。うぅ、我ながらチョロい……」
「まーた、アコ太郎が奥様をたぶらかしてる……」
「まぁ、身内同士愛し合う分には良いんじゃないか? 誰にも迷惑はかけていないし……」
フロッガーは日々の暮らしで、スペクターは王国時代で、彼らの気質は、十分に理解している。特に2人に、口を挟むことは無かった。
そうこうしているうちに、4人は、本丸の前に着いた。
アコナイト「小娘! 派手にやるじゃねぇか! 」
ピンギキュラ「これから毎日敵拠点を焼こうぜ! 」
ドロセラ「という訳で戦闘開始です」
アコナイト「地味に今回、作中時間と同じく、4時ジャストに投稿されていますね」
ピンギキュラ「予約投稿の練習も兼ねてやってみました。上手く投稿出来てるかな?」
ドロセラ「というわけで、ドロセラ無双回でした」
アコナイト「バーサーカーラプトル、7トンも武器積めるんですか……。参考までに、B29の積載量が大体9トン位です」
ピンギキュラ「最大の翼竜ケツァルコアトルスでも、自力で飛べるか否か諸説あるのに、こんな重い竜、飛べるのかな……」
ドロセラ「苦肉の策というか、何というか、この世界の飛竜は、揚力で飛ぶというより、翼から出る魔力の力で、身体の周囲に、反重力を発生させて無理矢理飛んでいる。という設定にします」
アコナイト「ねぇ、この仕組みってタケコ〇ター……」
ドロセラ「アホ作者、航空力学のこの字も知らないから、適当な事言ってボロを出すよりは、100%空想の仕組みにしちゃう方が楽なんですよ……」
ピンギキュラ「身も蓋も無い事言い出した……」
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