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46話 寄生するもの


 捕食毒華イーターポイズンフラワーが作戦会議を行っていた頃。ヴァッブ廃城の一室では、2人の人間が話をしていた。1人は、金髪碧眼の少年。もう1人は、白色髪の火傷痕のある少女。ジンとサラである。


「ジン、派手にやられましたね……」


「奴らにやられた訳じゃない。毒に侵されたから、自分で斬り落としたんだ。……畜生、あの紺髪、今度会ったら必ず仕留めてやる」


 悔しそうに、ジンは、残った左腕で壁を叩いた。それを見たサラは、顔を歪める。


「物に当たらないでくださいよ。それに、貴方の腕はまた生えてくるでしょう? 」


「ああ、僕の回復魔法にかかれば、一週間もすればまた腕は生えてくる。だが、僕が悔しいのは、初めて負けた事だ! 僕のプライドがどれだけ傷ついた事か……」


「あなたはプライドが高いですからね……。それに、私も、あいつらの中に一人、必ず私自身の手で殺さねばならない奴が出来ました。……あの白髪には手を出さないでくださいね? 」


「僕は紺髪、サラは白髪。ちょうど、ターゲットも被っていないし、良いよ。赤いのは……仕留められる方が仕留めるって事で」


 マリーを拉致する事には成功したが、その過程でアコナイト達、捕食毒華イーターポイズンフラワーにしてやられた事を2人は根に持っている。次こそは、と、闘志を燃やしていた。


「ジン様、サラ様。キャメル様がお見えです。1階のラウンジでお待ちです」


「ん……今行く」


「『父上』が? 」


 部屋の前で、ラープのキングスピア家の家人が、彼らの主が足を運んでくれたことを知らせてくれた。


「作戦中に顔を出すとは、珍しいですね」


「特に、『今の父上』は、色々忙しい立場だろうに……」


 そんな風に話しながら、2人は、指定された城の入口の前のラウンジに足を運ぶ。果たして、そこに居たのは、初老の、白いひげを生やした男性だった。


 男の名前は、アルブム・キャメル候爵。この帝国の貴族にして、キャメル候爵家の当主である。好々爺然としているが、瞳は鷲の様に鋭く、アンバランスな物を感じさせた。


 2人は、その候爵の前にかしずいて、礼を示す。


「2人とも、まずはご苦労だった。おもてを上げよ」


「「はっ」」


 男性は、2人を交互に見ると、ダンディな美声で、言葉を紡ぐ。


「マリー令嬢も捕獲して、見事である。と、言いたいところだが……2人が居ながら、えらく手こずった様だな」


「は……。お見苦しい所を見せ、申し訳ございません」


「いや、作戦自体は成功した。まずはそれでいい。ジン、お前は大丈夫か? 」


「はい。腕はそのうち生えてきますので」


「うむ。無理はするなよ。ジン、特にお前には目をかけているのだ。魔力の多さと、魔法の腕前。これ以上の才覚の者はあまりおるまい」


 公爵は、そう言って、慰める様にジンの肩を叩いた。ジンは、褒められて満更でも無いような顔をしている。


「ところで、『父上』は、良いのですか? こんな所にいて。ラープ王国とカタスト帝国の対立煽り、順調にいっているのですか?」


 サラの言葉に、候爵はにんまりと笑みを浮かべた。


「この候爵の身体は便利なものだ。高位貴族というのは、色々と融通が利く。その気になれば、国同士の対立を煽る事も、楽に出来る。怖いくらい順調だ。このままいけば、カタストは遠くないうちに、ラープへ侵攻する」


 そう意味深に言って、候爵は2人に小声で言葉を続けた。


「『死体に入り込んで、操る能力』。とは、まったく、便利な力を授かったものだ」


「まさか、本物の候爵はすでに死亡しているものとは、我々以外にはわかりますまい」


「『世界を混沌に落とす』……。僕達の目的には、これ以上ないくらい、便利な力ですね」


 そう、2人が、先ほどから話しているのは、キャメル候爵では無かった。


 候爵の死体に入り込んで寄生している『何か』に対して、話をしているのだ。


 彼らの目的、そして、彼らが何者なのか。それについて知る者は、本当に一握りの人間だけだった。


「このキャメル候という男、元々、ラープとは裏で繋がって、色々汚い事をしていたらしい。お陰で、ラープとのコネも用意出来た」


「我々が候を殺害し、それを『父上』が乗っ取る……その上で、コネを使って、あのキングスピア家の当主と接触。名前は……なんと言ったかな、なんでも良いか。そのオッサンをたぶらかして、クーデターを起こさせる。その裏で、帝国に介入をさせる為に、皇帝にラープの悪評と、鉱石資源の事を、ある事無い事吹き込んで、侵攻に乗り気にさせる」


「見事なマッチポンプですね」


「我々が目指すのは世界の混乱と、秩序の破壊。目標までは、まだまだ足りないがな。まぁ、ラープの貴族子弟が継承に必要な槍を持って逃げるのは想定外だったが……。だが結果的に、帝国のラープへのヘイトを上げる事が出来たので、良しとしよう」


 これまでの事が、全て自らの手のひらの上の事だった事を、面白そうに語る候爵、否、侯爵の死体に寄生した『何か』は、不気味に笑った。


 世界の混乱と、秩序の破壊。


 一体、何を目的に? それについてはおいおい語られるであろう。現在、確実なのは、それを実行させるべく、おぞましいものが、光の当たらぬ所で蠢いている事だけだ。


「ところで、あの、令嬢の捕獲の責任者のラープの人間……名は何と言ったかな? 彼は何処に? 」


「ハーン・アスとか言っていました。脂ぎった、肥満体の中年男です。正直、見ていて気持ちのいい男ではありませんが」


「おまけに、好色そうで、性格も小悪党みたいです。今は、地下の牢で、お嬢様を尋問中」


 2人からの散々な評価に、侯爵の中にいる『何か』は、失笑した。


「散々な言われようだな。そこまで言われると、逆に気になる。一度会ってみよう。大した人間でない様なら、使い潰す」


 そう言って侯爵は、懐から紙に包まれた1粒の錠剤を取り出した。


「どうせ、ここで何か良からぬことをやっている事は、遅かれ早かれ分かる事だろう。その時には、討伐軍も来るはず……その時は、我々が退避する間の囮をやって貰おう」


 錠剤を指で弄びながら、『何か』はそう意味深に言うと、ハーンのいる地下牢へ向かった。


ジン「今回は敵パートという事で、おまけパートも我々が乗っ取ったぞ! 」

サラ「いよいよ、需要がなくなってきていないですか?」

ジン「なーに、物語、特にこの手のファンタジー作品には、魅力的な敵役が必要さ。その為にも、読者達に、僕たちの魅力も感じて貰わないとね」

サラ「まぁ良いです。それはそれとして、今回、いよいよ、黒幕が姿を表しましたね。最終目的は世界の混乱と、秩序の破壊。実に黒幕らしい目的です」

ジン「僕達が、黒幕の事を黒幕っていうのもおかしな感覚だけどね……」

サラ「ちなみにモデルは妖怪の陰摩羅鬼ですね。死体を操る能力があります」

ジン「原典では、ただの死体が変化した妖怪で、死体を操るのは鬼〇郎オリジナル要素っぽいけど」

サラ「水〇先生、本当に凄い影響力ですよね。と思った読者の方は、ブックマーク・評価をお願いします」

ジン「感想、誤字脱字報告も待ってるよ」


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