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41話 模擬空戦


<<実戦におけるデータが取りたいそうだ。忖度・手加減無しで、全部落としてくれて構わない>>


「了解」


 姫様の言葉に、心の中で、簡単に言ってくれる……。と毒づきつつも、ドロセラはヘルメットの眼部の装甲、ヘッドアップディスプレイのモニターが裏に付いた部分を手で上にずらして、直接、『哨戒』の魔法をかけて、索敵を行う。この装甲部分は、モニターの故障時や目標を直視したい時用に、手で持ちあげる事が出来る構造になっている。


 丁度、高度を上げていく飛竜の編隊が目視できた。


 飛竜の羽毛の色は、黒色で光沢があり、夕陽を浴びて、妖しく輝いている。


 体長はマザーラプトルや、バーサーカーラプトルより一回り小さな15m程。


「ミラーラプトル……旋回性能では奴の方が上か……巴戦はご法度と」


 ドロセラは、自身の知識の中から、彼らが乗る飛竜を即座に特定する。同時に、どの様に戦うかもシュミレートした。


 この飛竜の名は、ミラーラプトル。白亜紀に存在した羽毛恐竜、ミクロラプトルが飛竜に進化した種である。


 飛竜としては小型で(とはいえ、人間と比べると十分巨大だが)、武装をあまり積めない代わりに、軽快で小回りが利き、維持コストも安い。典型的な軽飛竜だ。


 最大の特徴は、翼だけではなく、足にも羽毛が生えており、こちらも翼になっているという事だ。体を広げながら飛行する形から、体を『く』の字に曲げて、足の位置を移動させる事で、複翼状態になる事ができる。その形態では速度は落ちるものの、旋回性能が大きく上昇する。いくらバーサーカーラプトルといえども、その状態のミラーラプトルと尻の追いかけ合いになったら、勝ち目は無い。


「それに、軽飛竜を出してくるとは、ラープ空軍との戦闘を意識している感じかな」


 ドロセラは、そう推理して、上げていた眼部装甲を元の位置へ戻した。再び、瞳にモニターに映る文字が映し出される。


 ラープ空軍が主に使っている飛竜も、ミラーラプトルと同様、軽飛竜だ。もっとも、彼らが採用しているのはミラーラプトルではなく、ヴェロキラプトルの進化種である『ニクスラプトル』だが、性能(スペック)は似たようなものだ。


「別に帝国に義理は無いけど、恩は売っておきますか」


 そう言って、ドロセラはバーサーカーラプトルを上昇させる。なかなか良い上昇性能だ。これにはドロセラは満足だった。


<<スプリング1より、スプリング隊各騎へ、3対1とは言え油断するな。相手はラノダコールの生き残りのエースだ。何をしてくるか分からんぞ>>


<<隊長、数ではこちらが有利です。いくらエースとはいえ、囲んでしまえば……>>


<<そうそう! 我々、帝国空軍の力を見せてやりましょう! >>


 無線からは、傍受した相手役の航空竜騎士達の会話が入って来た。声を聴く限り、新人と言われた通り、若い男の兵と女隊長だ。ドロセラと同じくらいか、少し年上だろう。


 歳は同じ位とはいえ、経験では、文字通り死線を潜ってきたドロセラの方が圧倒的に上である。彼女の目から見れば、まだまだ、彼らの飛び方はぎこちなかった。


「姫様、戦闘は、用意、ドン! でスタートですか? それとも、陸から足が離れた時点でスタートしていますか? 」


「後者だ。既にデータ取りは始めている」


「了解……。頭上がお留守です、油断大敵という事を教えてあげますか」


 ドロセラは、馬鹿正直に直線飛行をしている3騎のうち、一番後方にいるミラーラプトルに向けて、急降下を開始した。無論、セオリー通り、太陽を背にしながらである。


 身体が浮き上がるような感覚の後、Gと風圧に身体が押さえつけられる。呻き声を上げながらも、操縦桿はがっちりと掴んで離さない。


 Gに耐えながら、敏感なバーサーカーラプトルが、突然おかしな動きをしない様に気を使いながら、落ち着いて、冷静に操作を行うのは、並大抵の神経では出来ない。元々、近接支援攻撃(CAS)大隊所属で急降下機動には慣れている事もあるが、彼女が優れた航空竜騎士であるという事の証明である。


 ぐんぐん迫るミラーラプトルに向け、タイミングを合わせて操縦桿を引いて、頭を持ちあげる。丁度、ミラーラプトルの背後につく形となった。


<<スプリング3、撃墜判定。空域より、離脱してください>>


<<なっ?! いつの間に接近された?! >>


 突然、撃墜判定を聞かされ面食らった様だ。スプリング3、とよばれた航空竜騎士は、困惑しながら後方を振り返るが、既に、その時には、ドロセラは速度を高度に変換させる為に、再び上昇を始めていた。


「空では、360度警戒を忘れずに! もう戦闘は始まってるんだから。もしラノダコール・ノスレプ戦争に従軍していたら、1週間と経たずに国旗に包まれて帰郷する事になってるよ! スプリング3! 」


 ドロセラは、撃墜判定を下した航空竜騎士へ通信を送りながら、全力で離脱する。


 典型的な一撃離脱。飛竜同士の戦闘における基本だ。巨大で頑健なバーサーカーラプトルの急降下性能自体は非常に良い。また、攻撃後の離脱の為に必要な、上昇力も申し分ない。問題があるとするなら、このどちらにも、繊細な操縦桿さばきが必須な所だが。


<<畜生! スプリング3の仇! >>


<<よせ! スプリング2! >>


 3番騎を瞬殺された事に怒ったのだろう。片方のミラーラプトルが、上昇するバーサーカーラプトルを追う。


「敵討ちとは殊勝な航空竜騎士だ。嫌いじゃないよ」


 ドロセラは、敢えて、ミラーラプトルに自分を追わせた(・・・・)。その際、追いつかれるか追いつかれないか、ギリギリの距離を保ちながら、少しずつ、上昇角を急にする。


 それに合わせて、ミラーラプトルも、上昇角を急にするが、元々優速なのはバーサーカーラプトルの方だ。やがて、速度を高度に変換する事が出来なくなる。動きが鈍くなり、失速して空中で動きが止まった。


 流石にまずいと思ったのか、すぐに竜首を下に向けたが、もう遅い。


 すでに、ドロセラは、ラダーを用いてハンマーヘッドターンを行い、攻撃位置についている。


「戦場で長生きは出来ないタイプだ! 」


 バーサーカーラプトルは、ミラーラプトルの後方300m以内についていた。


<<スプリング2、撃墜判定! >>


<<なんてこった!? >>


<<5分と経たずに2キル……これが、ラノダコール空軍のエースの力なのか……?!>>


 あっと言う間に2騎を屠った事に、簡単にいく相手では無いと判断したのだろう。驚愕の言葉を上げながら、隊長騎であるスプリング1とよばれた航空竜騎士とミラーラプトルは、一度仕切り直しをしようと、距離を取ろうとする。


 それを逃す様なドロセラではない。急降下の勢いのまま、最後の黒色の飛竜へ一直線にダイブした。じりじりと距離が狭まる。


<<くっ! せめて一矢でも! >>


 相手の航空竜騎士はそう言うと、突然、竜首を上に向けた。そのまま、ミラーラプトルの足を、それまでの水平の位置から、複翼形態に動かす。翼の抵抗を受けて、一時的に黒色の飛竜は失速状態で、空中で立つ様な格好になる。だが、これで急に速度が落ちた事で、ドロセラとバーサーカーラプトルは、敵騎を追い越し(オーバーシュート)してしまった。


「咄嗟にコブラ機動とは、やる! 」


 どうやら、隊長騎だけあって、腕に自信はある様だ。ドロセラの背後に、相手の飛竜が迫った。


「じゃあ、こんなのはどうかな! 」


 ドロセラは、バーサーカーラプトルの機動性と、先程の機動テストで掴んだ、失速機動性を信じて、スプリング1と同じ様に、コブラ機動を行った。だが、彼女はその状態で、竜首を元の位置に戻さず、そのまま空中で飛竜を1回転(・・・)させた。


 まさか、そんなカウンターをしてくるとは思わなかったのだろう。ドロセラが1回転(クルビット)を終えて、再び後方に付いた時には呆然としたように、真っ直ぐ飛び続けるだけだった。


<<スプリング1、撃墜判定! ……凄い、これがエースというやつか。良いデータが取れた>>


 無線から入るオペレーターの声は、称賛半分、驚愕半分だった。まさか、3対1で全騎を撃墜するとは思わなかったのだろう。


 <<凄いだろう? これがラノダコール王国空軍の力さ。いやー、僕も鼻が高いねぇ>>


 ファントムもご機嫌そうだ。ドヤ顔をしているだろう事が、無線ごしにも分かる。


<<見事だ。ラノダコールの航空竜騎士。私は、帝国空軍第2航空戦隊第18航空隊『スプリング隊』1番騎、ネル・ミカボシ。コールサインは、『ヴィーナス』。差しさわりが無ければ、名を伺っても? >>


 スプリング隊の女隊長からの通信だ。ドロセラは、特殊攻撃団(PEACE運用部隊)の事は伏せて、自分の過去の所属で名乗る。


「ラノダコール王国空軍第1航空師団第17近接攻撃大隊『レッドダイバー大隊』13番騎、ドロセラ・ファイヤーブランド。コールサインは『オウル』。他国の航空竜騎士と戦うのはいい経験になりました。ありがとうございました」


<<こちらもいい経験が出来た。流石元エースだ。機会があれば、また共に飛びたいものだ。『オウル』>>


「こちらこそ、『ヴィーナス』」


 ネル、と言った女性の言葉からは親愛の情を感じる。航空竜騎士同士、彼女との間に友情の様なものが生まれたドロセラであった。


ファントム「ところで、この世界の飛竜、コブラ機動やクルビットが出来るのか……。『コブラ(マニューバ)』のWikipediaによると『瞬間的な挙動と急減速に伴う操縦の困難さのため、パイロットに高い技量が要求されるほか、Su-27・F-22 ラプターなど強力なポストストール能力を有した一部の機種でないと行えない機動とされる。』とあるけど」

ドロセラ「フィクションですし、演出優先ということで。腕はありますからセーフ」

ファントム「あと、最後のカウンター、あれエスコ◯7の爺様がやったやつだよね」

ドロセラ「あのシーン大好きだからオマージュしてみました。確信犯(誤用)ですね」

ファントム「初めて見た時、かっこよすぎて鳥肌立ったね。あの演出」

ドロセラ「そして、新しい飛竜『ミラーラプトル』。ミクロラプトルの進化系という設定です。1mくらいの恐竜が15mにまで巨大化するまでに何があったのか……」

ファントム「魔力汚染に対抗するには巨大な体が必要だったんだろうねぇ」

ドロセラ「ちなみになんですが、本作を書くにあたって、アホ作者、恐竜について勉強しなおそうとちょくちょく本を読んだり、動画見たりしているんですが、子供の頃の常識が全く変わってる所が割とあって、ショックを受けてますね」

ファントム「子供の頃恐竜少年少女だった兄貴姉貴は、本屋か図書館で最新の恐竜図鑑を見てみよう。色々とショックを受けるよ!マジで!」

ドロセラ「えっ?!今、セイスモサウルスもウルトラサウロスも登録抹消されたの?!って事を、今知った読者の方は、ブクマ・評価をよろしくね」

ファントム「コメント、誤字報告も待ってるよ!」



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