40話 処刑人は再び空を舞う
パトリオット飛行場。
先程、迎撃に出てきた航空竜騎士達もここから発進したらしい。いそいそと、飛竜飼育兵や武装整備兵が走り回っている。ファントムとドロセラは、彼らの邪魔にならない様に気をつけながら、目当ての飛竜の竜舎の所までやってきていた。
その飛竜は、頑丈な檻の中に座っていた。深緑色の羽毛に、オヴィラプトロサウルス類の特徴的な嘴。そして、瞳は檻の中にいても闘志に輝き、じっとドロセラ達を見つめている。
「こいつが、件のバーサーカーラプトル。今は落ち着いているが、一度暴れ出すと始末におえなくなる。ここの兵達も持て余していて、食事と掃除の時以外は、基本的に放置されているようだね」
「これは……凄いですね」
一目見ただけで、ドロセラはこの飛竜が優れた竜であるという事を見抜いた。
筋肉の付き方、羽毛の輝き具合、何より、凄まじいまでの闘争本能をたたえた瞳。戦闘に使う竜としては、これ以上のものは無いと断言出来る。
「問題は乗りこなせるか、という事ですね」
「どうだい? 元エース航空竜騎士さん」
「魔導式操縦桿と魔導鞍の追加手術と戦闘機動の調教は終えていますか? 」
「終えている。魔道具は背中に埋め込まれているだろう」
成程、確かに、背中には鞍と複雑な機械が埋め込まれ、更に、その機械からは1本の棒が生えていた。
飛竜を航空竜騎士が乗る戦闘竜にするのに、幾つか必要な過程があるが、その中でも重要なのが、この魔導式操縦桿と魔導鞍の埋め込み手術だ。
この操縦桿を通して、自身の魔力を送り込む事で航空竜騎士は、飛竜を支配下に置く。そして彼らは操縦桿と鞍につけられたラダーペダルを通して自由に飛竜を操る事が出来るのだ。ビーストテイマーが使う『支配使役』の理論を応用した仕掛けだ。
一方、危険も伴う手術で、巨大な機械を直接身体に埋め込むという事、また、機械から発生する魔力による魔力汚染も相まって、竜に適正が無い場合、最悪の場合そのまま死に至る。
バーサーカーラプトルは、適正はあった様だ。機械を埋め込まれても、調子を崩すどころか、むしろますます頑健になっている様な気さえする。
「ここで待っていてくれたまえ。ここの司令に言って、試乗させてもらえる様にする」
「よろしくお願いいたします。私はここでこの子を見ています」
「ちょっかいかけて怪我しないでくれよ? 僕がアコに殺される」
「気をつけますよ。ちなみに、この子の名はなんと言うんですか?」
「そいつはまだ名無しだよ。強いて言えば、試作B4号が形式上の名前だ」
ファントムがそう言って席を外すと、この場には1匹と1人が残された。
バーサーカーラプトルは、興味深く、ドロセラを眺めている。自分の相棒にふさわしい存在かを見極めている様にも見える。
一方のドロセラも、この暴れ竜が新しい自分の相棒にふさわしいかを見極めようとしている。
王国空軍時代に乗っていたマザーラプトルは、戦争末期にホームベースであった空軍基地が攻撃された時に、竜舎を敵軍の爆撃で吹き飛ばされて、死んでしまった。相性が良かった為、本当に残念な事だった。
「私の古い相棒の代わりを君はつとまるかな? B4号」
そこまで言って、ドロセラは考える。仮にもこれから一緒に空を飛ぶ相棒の名がB4号だと、味気ない。
「B4号だとなんかしっくりこないな。よし、君の事は今からビーちゃんと呼ぶことにしよう」
命名 ビーちゃん
雑な事この上無い命名だが、文字通り一瞬で考えた名なら、こんなものだろう。
「よろしくね。ビーちゃん」
* * *
ブルー・シー上空、高度1500m。
体にのしかかるGに、ドロセラは思わずうめき声を上げた。
だが、久しぶりに空を飛ぶ感覚に、 それさえも極上の快楽に感じる。
結論から言うと、ビーちゃんこと、バーサーカーラプトルに乗る事に、ドロセラは成功した。
竜舎から引き出した時、そして、背中の鞍に乗った時に激しく抵抗して、流石のドロセラも振り落とされそうになった。だが、無理やり魔導式操縦桿に魔力を注ぎ込んで、言う事を聞かせ、何とか飛ばせる事は出来た。彼女と相性が良いのかもしれない。それか、元エースの実力というやつか。
今は、一通りの機動を試して、そのデータを取っている最中だ。
「……バレルロール終了。次に、ハイ・ヨー・ヨーを試す。」
螺旋状に連続して側転を行うバレルロール機動を終了し、ドロセラは一息ついた。
<<さすがだね。帝国空軍の航空竜騎士達が匙を投げたこいつを、もう手足の如く操っている>>
航空竜騎士専用の特徴的な形状のヘルメットに備え付けられた無線機から、ノイズ混じりのファントムの声が聞こえてきた。
航空竜騎士のパイロットスーツとヘルメットは、竜に乗るという事に特化して作られている事もあり、かなり頑丈かつ無骨に作られている。敵の竜の攻撃から守る為、全身を装甲で覆った角ばった形状のパイロットスーツ。そして顔全体を覆う、まるで、箱の様な形状のヘルメットは、丸みを帯びたプレートアーマーを着た通常の騎士とはまた違った印象を持たせる。
このヘルメットは、魔法を用いた魔道具の一種で、外観は複数のカメラがつけられていて、蜘蛛の様な印象を与える。一方、内部の顔に相対する面にはモニターがつけられていて、乗っている竜とリンクして、瞳に直接外の景観と、速度、高度、残弾数、その他の情報を写し出し、航空竜騎士はその情報を基に操縦を行う。
「こちとら、『カナハの処刑人』ですよ? 暴れ竜1匹、簡単に乗りこなせます! ……と言いたい所ですが、この子、かなり癖のある子ですよ。気性に反して、あまりにも命令を素直に実行し過ぎる」
率直な感想を、彼女は自身の姫様に述べた。
バーサーカーラプトルの性能は素晴らしい。加速性能、上昇力、機動性、どれをとっても申し分ない。
が、それらがあまりにも素晴らしすぎる。
操縦桿とラダーペダルを通して通して伝えた命令を、この飛竜はあまりにもストレートに実行し過ぎた。指示に対して敏感過ぎるのだ。よって、操縦はかなり慎重に行わなければならなかった。下手すると失速して墜落しかねない。
「熟練兵か、エース向け。少なくとも新兵には乗りこなせないですよ。この子。気性が荒いのは、闘争本能が高いという事でもあるので、一度制御下に置ければ、まるっきりのデメリットではありません。むしろ敏感過ぎる方が問題です」
<<エースの貴重な意見、ありがとう。伝えておこう>>
「よろしくお願いします」
そう言って、ドロセラは操縦桿を手前に引いて、竜を上昇させる。急に上を向いて失速しない様に、慎重に、慎重にだ。
「ビーちゃん。振り落とさないでね! 」
そして、ある程度、速度を高度に変換した所で、今度は降下だ。この機動は、敵騎を追う際、自騎の速度が速すぎる時に、一時的に速度を落として適正速度に調整する為の機動だ。
マザーラプトルに乗っていた時には、問題無く行えていた機動だが、今はそれにも相応の神経を使わなければならない。
(確かに、失敗作呼ばわりも妥当かなぁ……)
エースとして、冷静、かつ冷徹に評価を下すドロセラ。航空竜騎士としては、結局、乗り心地の良い竜が1番なのだ。
「ハイ・ヨー・ヨー機動終了。このまま、宙返りをして機動試験を終えます。その後は、実戦形式のテストという事ですが……」
飛行前のブリーフィングで言われた試験メニューを思い出しながら、ドロセラは通信を送る。
<<お疲れ。実戦形式のテストは、帝国空軍の航空竜騎士が付き合ってくれるよ。今3騎の帝国空軍の飛竜が上がった。彼らと模擬戦を行ってくれ。相手に300m以内で後方に付かれたら撃墜判定だ>>
「待ってください。3体1ですか!? 」
姫様の言葉に、思わずドロセラは聞き返した。
<<相手は3騎とも新兵らしいからハンデだそうだ。良いじゃないか。新人達に指導するのも熟練兵の役目だ。期待しているよ、ラノダコール屈指のエースちゃん! >>
「私は本来、CAS大隊所属で、ドッグファイトは専門外なんだけどなぁ……」
ぶつぶつと言いつつ、ドロセラは操縦桿を引いて、宙返りを行った。
ドロセラ「普段、2、3日ごとに一話上げてるのに、今回は遅かったですね」
ファントム「アホ作者、最近仕事が忙しいらしくてね」
ドロセラ「その割には東◯のソシャゲで遊んだり、今話題の某AI絵師で遊んだりしてるんですけど……」
ファントム「今回遅くなった原因はそれもあるね。いやー、AIも色々奥が深いみたいでさ」
ドロセラ「……アホの作者、性も根も尽き果てて、本作を打ち切りにする場合、いわゆるエタエンドではなく、ソード〇スターヤ〇ト方式で無理矢理不時着させるつもりらしいので、しばらく更新が無い場合、リアルが忙しいか、別のものにハマったんだな。と、察して頂けると幸いです」
ファントム「話を戻して、今回、航空竜騎士の装備について色々書いてるね。ヘルメットの画面表示はエースコン〇ットシリーズのHUD画面みたいなイメージかな」
ドロセラ「ヘッドマウントディスプレイ付きという近未来感漂うヘルメットです。ファンタジー風世界観? 気にするな! 軍とて必死だ、それくらいの発明はやるでしょう! パイロットスーツは、ピチピチの体型が浮き出るエッッッ!なやつも良いなと思ったらしいですけど、最終的に無骨なデザイン良いよね……に落ち着いたそうです」
ファントム「ティ〇レンや轟〇みたいな、角ばった無骨なロボットを人型サイズにした。みたいなイメージだね」
ドロセラ「轟〇の方は、最近は女の子のイメージの方が強いですけどね……」
ファントム「泥臭いロボは良いぞ! な方はブックマーク、評価よろしく! 」
ドロセラ「感想、誤字報告もお待ちしております」




