38話 令嬢捕獲
「愚かで野蛮なラノに、ネタバラシしますよ」
彼女がそう言うと、地面が盛り上がった。そこから、数十匹の小型の生物が顔を出した。
それはネズミくらいの大きさで、目は小さく退化しており、鼻先は細長く尖っている。爪は体長に対して巨大で、泥だらけだった。
「モグラ! 今回はちっちゃいね! 」
先程の襲撃を思い出したのか、少し興奮気味にフロッガーが言う。だが、今回は通常サイズだ。
「近接戦闘は好きですが、私は本来ビーストテイマーですよ? 動物を魔法陣の形に這わせる事など、朝飯前です」
「……モグラを使って地中に魔法陣を描いた? 」
「ご明察。大量殺戮の下手人にしては頭が切れるじゃないですか」
ドロセラの考察に、触手に縛られたまま、サラは言う。
「頭が悪い奴に、航空竜騎士は勤まらないからね! そして、今、改めて、私はお前を、あの『スローター1作戦』で殺しきれなかった事を後悔しているよ」
悔しさをにじませつつ、ドロセラは言った。正直、ここからマリーを救い出すのは困難であるという事はドロセラも分かっている。
「私も、今日、貴様を殺せなかった事を後悔する日が来るかもしれませんから、お互い様です。次は首を洗って待っていてください。……ファッキュー、ラノ」
「お嬢様に変な事したら、ただじゃおかないから。ファッキュー、ノースズ」
ドロセラは、憎悪をにじませながらも、あくまで冷静に口を開いた。それに対しサラは、いままで散々煽られた反動か、これまでと打って変わって、挑発的な口調になっている。
「別に、こちらも取って食う訳ではありませんし、安全は保証しますよ」
「よろしく。必ず取り戻しに行くので、それまでお嬢様を任せます」
「次こそは殺します。それでは、ごきげんよう」
そう言うと、サラとマリーは、転移魔法でいずこへと去ってしまった。
その場には、アコナイト一行とオウカが取り残される。
「……」
「……」
「……」
「……」
アコナイト以外の女性陣は黙っている。まんまと、サラの策略にはまった事に、何も言葉を発せられない。
「……行きますよ、ピンギ、ドロセラ、フロッガー」
そんな中、口を開いたのは、アコナイトである。
「我々捕食毒華の任務は、マリー様の護衛です。捕まったお嬢様を取り戻すのも、任務のうちです」
―—冷静になれ、アコナイト。これまでも、酷い任務や厄介な任務はやって来ただろう。それと比べて、別段、変わる事はない。お嬢様を探し出し、武力か知力を使って取り戻すだけだ。
そう、自分に言い聞かせる。そうして、少しの間、深呼吸をして気持ちを落ち着かせると、良い事に気がついた。
「ピンギ、お嬢様に、場所探知魔法を付与したネックレスを渡していましたよね? 私の指輪と同様の加工がしてあるやつ。あれを応用して、お嬢様の位置を特定出来たりしませんか? 」
「仕組み自体は私達の指輪と同じだから、やろうと思えば出来るかも! 」
それからピンギキュラは、少し顎に手を当てて、考え始めた。小難しい言葉を並べて、早口で独り言を呟き続ける。
「魔法波の信号を解析して……いや、それより、バルスキーの法則を……スラッグ理論を応用すれば……」
それから、持っていた手帳に、夢中で方程式と設計図を書き始めた。どうやら、頭の中のイメージを具現化する段階に入っているらしい。流石、元技術士官である。
「アコちゃん、私としても、出来る事があったら応援するわ~何でも言ってね~」
オウカも、流石に悔しさを滲ませつつ、いつもの穏やかな口調で協力を申し出てくれた。
「ありがとうございます。しかし、オウカの所も彼奴にやられた地下室の後始末で大変でしょう。お手を煩わせるわけには……」
「良いのよ~。私、困っている人を見捨てられない性格だもの」
「では、状況によっては、協力を頼むかもしれません。その時はよろしくおねがいします」
アコナイトの言葉に、オウカはにっこりと微笑んで返した。春の日差しの様に穏やかな笑顔で、なるほど、これならばどんなクレーマーでも丸め込まれてしまいそうだ。と、アコナイトは思った。
「……出来た! 大雑把なものだけど設計図。アコちゃんの探知指輪を改造する形なら、これで、おおよその位置が分かるはず」
一方、手帳に書き物をしていたピンギキュラは、それに描かれた設計図を見せた。字は走り書きなので、かなり癖があり、その上、専門用語まみれで、アコナイトには理解が出来なかったが、彼女の自信満々な様子を見るに、信頼して良いと思われる。
「流石、早いですね。私のリングを改造する形ですか? 」
「一から作っても良いけど、時間がかかるからね。基礎的な追跡システムはアコちゃんのリミッターリングに備え付けられているから、それを改造する方が早いよ」
「私がお嬢様探知機になるわけですか。改造には何時間かかりますか? 」
「6時間……いや、5時間あれば。ただ、素材が必要だから、ファントム様の店に、また行きたいな」
「良いでしょう。『リメイニング・シャイン』に行きましょう。姫様に報告もしないといけませんし」
アコナイト「この前、初めて誤字報告貰ったんですよ」
ドロセラ「ふむふむ、それで? 」
アコナイト「15話で、マリー様の台詞を『道理でドラゴンに詳しい訳です』という台詞を『通りでドラゴンに詳しい訳です』に誤記してたんですよ。これ、『どうり』と『どおり』って似た音でも違う意味になるんですよ。前者が納得する様で、後者が元と変わらない様を意味する言葉です」
ドロセラ「一話冒頭からオヴィラプトルの話を始めるわ、後書きをSS型クレクレの場にした挙句、大河ドラマの話をし始めるわ、こんな好き勝手やってる小説でも、しっかり読み込んでくれている人いるんだねぇ……ありがたや、ありがたや」
アコナイト「ほんと我ながら滅茶苦茶やってますね……。一応、投稿前に推敲はしているんですけどね。読み直す度に誤字を発見するのはどうしたものか……。この前も、アホ作者はオウカさんって書いたつもりが、実際はマリー様って書いてた事ありますし(修正済み)」
ドロセラ「自分で書いた文章読むときには、バイアスかかってるからねぇ……という訳で、誤字脱字報告も大歓迎です。確認後修正します」
アコナイト「日本語、ムズカシイネ……」




