35話 火中の生存者
サラは太刀から斬撃を放つ。それはラノダ人の3人へ向かって行くが、ドロセラの防御魔法で防がれる。
彼女は姉とは対照的に、水属性魔法を得意とする。今も、水の壁を展開し、斬撃の勢いを殺し、無力化した。
その間に、アコナイトとピンギキュラが得物を手に切りかかるが、アコナイトの戦斧は太刀に、ピンギキュラのスティレットは、間に割り込んで来たカラスに突き刺さり、それぞれ凌がれた。
「動物の力なぞ……なんだって? 」
「防御に使わないとは言っていない」
「テイマーの癖に、動物愛護の精神は無いらしいわね。卑しいノースズらしい! 」
「黙れ、血を好む残虐な蛮族共が! 」
罵声を浴びせ合いながら、1対2の激しい打ち合いの音が周囲に響き渡る。大した技量で、数的不利にも関わらず、サラはよく凌いでいる。
「ノスレプ人とラノダ人の確執……直に見ると、なんというか、醜いですね……」
ピンギキュラとサラの罵倒合戦を聞きながら、マリーは呆れ半分、困惑半分で言った。噂には聞いていたが、あのアコナイト一行が、ここまで悪意にまみれるとは。
「4000年の因縁ですからね。……他国の人には分かりませんよ」
マリーの脇で水属性の盾を貼りながら、ドロセラは言う。彼女はいくらか冷静であったが、彼女を見る目は冷たい。
「サラトガさん! 随分、アコ太郎達を恨んでるね! 何かあったのかな!? 」
そう言いながら、フロッガーは毒の単発レーザー『シクトキシン・ショット』を放った。『アコニチン・バックショット』の様な派手さは無いが、精密射撃を得意とする魔法だ。現に、アコナイトとピンギキュラの脇を通って、彼女に向かって行く。
更に、客を惨殺された事に怒っていたオウカも、対物ライフルで援護射撃を行っている。
数の暴力を生かした攻撃に対し、サラは、全方位に対し、防御魔法を貼る事で対応する。風の盾が現れている。彼女は風属性魔法使いなのだろう。
とはいえ、連続して叩き込まれる攻撃に、じりじりと彼女の盾の耐久度は削り取られていく。
「何かあっただと……私はなぁ……ラノに家族も、故郷も、何もかも奪われたんだよ……! 」
丁寧語を維持出来ない程、余裕が無くなっているのだろう。はたまた、怒りのせいか、サラは、激しい口調で語り始めた。
「共和国歴292年2月14日! 私は、お前達ラノがやったエーシ市焼き討ちの生き残りだ……! 」
「エーシ焼き討ち……?!」
その言葉を聞いた捕食毒華の動きが少し、緩慢になった。その隙に、サラは5mほど後ろへ飛びのき、距離を取る。ただの人間がここまで跳躍出来ない。身体強化魔法をかけている。
「ラノダコール・ノスレプ戦争で、お前たちがやった無差別爆撃! 忘れたとは言わせんぞ。あれのせいで、私は全てを狂わされたんだ! 父も母も兄も姉も皆生きたまま焼き殺された! 私も、爆弾に吹き飛ばされて、生死の淵をさまよった! 」
サラは、太刀を構えなおして、叫ぶ。そして、髪をかき上げ、見せつける様に火傷痕を撫でた。
「この火傷痕は、お前達への恨みを忘れない為の象徴だ。この太刀『無間憎悪』で、お前達ラノを1人でも多く殺してやる!」
「その太刀の銘ですか。ノースズらしい悪趣味なネーミングですね! 」
「減らず口を! いちいち煽らなければ会話出来ないのか!」
再び、遠距離斬撃が飛んでくる。
風を切りながら飛んでくるが、それをかわし、アコナイトは殺意を乗せて斧の刺頭をサラに向け、オレアンドリン・ピアーシングショットを放つ。十分に魔力が回復していない為、防御魔法を割るには至らないが、それでも削りには十分だ。目に見えて、風の盾の厚みが薄くなった。
「兄様、私がとどめを刺すよ! 魔力も回復していないでしょう! 」
「……よろしくお願いします。因縁的に、ドロセラがやった方が良いでしょう」
「それから……Mプランも用意を」
「分かりました。手に負えなければすぐ下がる様に」
アイコンタクトと、わずかな合図でドロセラの狙いを察したアコナイトは、素直に後方に下がる。
「姉様、援護を! 」
「任せて! 」
アコナイトの代わりに、ドロセラが前衛に立った。後衛には姉が立ち、引火の危険が少ない、威力が小さめの『ファイヤーボール』で、少しずつだが、確実にサラの盾を削り取っていく。
「さぁ、選手交代だよ。我がメイスのキルマークの1つになってもらおうかなぁ」
ドロセラは、メイスに刻まれたキルマークのうち、これみよがしに、ノスレプ共和国のマークを見せて挑発する。
「減らず口を! 」
サラは、斬撃を放つが、これはドロセラの水の盾に防がれた。
「良い事を教えてあげるよ! 私、ラノダコールの元航空竜騎士で、爆撃隊にいたの」
出来るだけ、邪悪な顔を作って、ドロセラは言い放つ。
「そう。お前の故郷のエーシを焼いたのは、私だよ! 」
「なっ……!」
「元ラノダコール王国空軍、第1航空師団第17近接攻撃大隊。私がその時いた部隊。あの夜、私の部隊は他の部隊と一緒に、エーシの上で、爆弾と焼夷弾をしこたま、ばら撒いていた。花火みたいで綺麗だったよ、お前の街が燃えるのは! 」
サラは、まず、仇と意外な形で遭遇した事に、唖然とした。過去の炎の記憶がフラッシュバックしたのだろう。一瞬、動きが止まったが、すぐに怒りで顔を歪ませた。
「貴様が……貴様かぁぁぁぁぁぁ!」
怒りで我を忘れながら、太刀を片手に突進してくるサラ。
「殺す! 殺してやる!貴様の首を、私の一族の墓に備えてやる! 」
その斬撃をいなしながら、ドロセラも怒りを露わにした。
「被害者ぶってるんじゃねぇぞ! ノ-スズ! 元はと言えば、先に侵略戦争を仕掛けてきたのはお前達だろうが! 」
2丁のメイスと、太刀は激しくぶつかり合い、火花を散らした。お互い溜まりに溜まった憎悪を剥き出しにしながらの戦闘だ。
「そもそも、エーシの無差別空襲自体が、クラーオス虐殺の報復だろうが! お前は、この時犠牲になったラノダ人の事を考えた事があるか? えぇ?!」
ドロセラは、戦闘をしつつ、航空竜騎士として初出撃となったクラ―オスの空を思い出した。
子供の頃から空とドラゴンに憧れて、若年にして航空竜騎士になって、念願の初出撃で飛んだ空はあまりにも血にまみれたものだった。
アコナイト「ドロセラと敵の女との因縁が明らかになった所で、次回に続きます」
ピンギキュラ「ドロセラちゃん、余裕が無くなると過激な言葉使いになるよね」
アコナイト「この口調は正室様の影響でしょうねぇ。一応、正室様、(毛嫌いしていたピンギと違って)ドロセラの事はかなり愛していまして、空に憧れて航空竜騎士になると言い出したドロセラには、心配性な親心から最後まで反対していました」
ピンギキュラ「最終的に、ドロセラちゃんが反対を押し切って、航空竜騎士学校に進学したっけ……。結果的にエースにまで成長したけど、その過程で、色々お辛い経験もしたよ」
アコナイト「続きは次回、語られますのでお楽しみに」
ピンギキュラ「続きが気になる方は、評価・ブックマークをしてくれると、作者のやる気が上がるよ」




