表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

35/86

35話 火中の生存者


 サラは太刀から斬撃を放つ。それはラノダ人の3人へ向かって行くが、ドロセラの防御魔法で防がれる。


 彼女は姉とは対照的に、水属性魔法を得意とする。今も、水の壁を展開し、斬撃の勢いを殺し、無力化した。


 その間に、アコナイトとピンギキュラが得物を手に切りかかるが、アコナイトの戦斧は太刀に、ピンギキュラのスティレットは、間に割り込んで来たカラスに突き刺さり、それぞれ凌がれた。


「動物の力なぞ……なんだって? 」


「防御に使わないとは言っていない」


「テイマーの癖に、動物愛護の精神は無いらしいわね。卑しいノースズらしい! 」


「黙れ、血を好む残虐な蛮族共が! 」


 罵声を浴びせ合いながら、1対2の激しい打ち合いの音が周囲に響き渡る。大した技量で、数的不利にも関わらず、サラはよく凌いでいる。


「ノスレプ人とラノダ人の確執……直に見ると、なんというか、醜いですね……」


 ピンギキュラとサラの罵倒合戦を聞きながら、マリーは呆れ半分、困惑半分で言った。噂には聞いていたが、あのアコナイト一行が、ここまで悪意にまみれるとは。


「4000年の因縁ですからね。……他国の人には分かりませんよ」


 マリーの脇で水属性の盾を貼りながら、ドロセラは言う。彼女はいくらか冷静であったが、彼女を見る目は冷たい。


 「サラトガさん! 随分、アコ太郎達を恨んでるね! 何かあったのかな!? 」


 そう言いながら、フロッガーは毒の単発レーザー『シクトキシン・ショット』を放った。『アコニチン・バックショット』の様な派手さは無いが、精密射撃を得意とする魔法だ。現に、アコナイトとピンギキュラの脇を通って、彼女に向かって行く。


 更に、客を惨殺された事に怒っていたオウカも、対物ライフルで援護射撃を行っている。


 数の暴力を生かした攻撃に対し、サラは、全方位に対し、防御魔法を貼る事で対応する。風の盾が現れている。彼女は風属性魔法使いなのだろう。


 とはいえ、連続して叩き込まれる攻撃に、じりじりと彼女の盾の耐久度は削り取られていく。


「何かあっただと……私はなぁ……ラノに家族も、故郷も、何もかも奪われたんだよ……! 」


 丁寧語を維持出来ない程、余裕が無くなっているのだろう。はたまた、怒りのせいか、サラは、激しい口調で語り始めた。


「共和国歴292年2月14日! 私は、お前達ラノがやったエーシ市焼き討ちの生き残りだ……! 」


「エーシ焼き討ち……?!」


 その言葉を聞いた捕食毒華の動きが少し、緩慢になった。その隙に、サラは5mほど後ろへ飛びのき、距離を取る。ただの人間がここまで跳躍出来ない。身体強化魔法をかけている。


「ラノダコール・ノスレプ戦争で、お前たちがやった無差別爆撃! 忘れたとは言わせんぞ。あれのせいで、私は全てを狂わされたんだ! 父も母も兄も姉も皆生きたまま焼き殺された! 私も、爆弾に吹き飛ばされて、生死の淵をさまよった! 」


 サラは、太刀を構えなおして、叫ぶ。そして、髪をかき上げ、見せつける様に火傷痕を撫でた。


「この火傷痕は、お前達への恨みを忘れない為の象徴だ。この太刀『無間憎悪』で、お前達ラノを1人でも多く殺してやる!」


「その太刀の銘ですか。ノースズらしい悪趣味なネーミングですね! 」


「減らず口を! いちいち煽らなければ会話出来ないのか!」


 再び、遠距離斬撃が飛んでくる。


 風を切りながら飛んでくるが、それをかわし、アコナイトは殺意を乗せて斧の刺頭をサラに向け、オレアンドリン・ピアーシングショットを放つ。十分に魔力が回復していない為、防御魔法を割るには至らないが、それでも削りには十分だ。目に見えて、風の盾の厚みが薄くなった。


「兄様、私がとどめを刺すよ! 魔力も回復していないでしょう! 」


「……よろしくお願いします。因縁的に、ドロセラがやった方が良いでしょう」


「それから……Mプランも用意を」


「分かりました。手に負えなければすぐ下がる様に」


 アイコンタクトと、わずかな合図でドロセラの狙いを察したアコナイトは、素直に後方に下がる。


「姉様、援護を! 」


「任せて! 」


 アコナイトの代わりに、ドロセラが前衛に立った。後衛には姉が立ち、引火の危険が少ない、威力が小さめの『ファイヤーボール』で、少しずつだが、確実にサラの盾を削り取っていく。


「さぁ、選手交代だよ。我がメイスのキルマークの1つになってもらおうかなぁ」


 ドロセラは、メイスに刻まれたキルマークのうち、これみよがしに、ノスレプ共和国のマーク(ラウンデル)を見せて挑発する。


「減らず口を! 」


 サラは、斬撃を放つが、これはドロセラの水の盾に防がれた。


「良い事を教えてあげるよ! 私、ラノダコールの元航空竜騎士で、爆撃隊にいたの」


 出来るだけ、邪悪な顔を作って、ドロセラは言い放つ。


「そう。お前の故郷のエーシを焼いたのは、私だよ! 」


「なっ……!」


「元ラノダコール王国空軍、第1航空師団第17近接攻撃大隊。私がその時いた部隊。あの夜、私の部隊は他の部隊と一緒に、エーシの上で、爆弾と焼夷弾をしこたま、ばら撒いていた。花火みたいで綺麗だったよ、お前の街が燃えるのは! 」


 サラは、まず、仇と意外な形で遭遇した事に、唖然とした。過去の炎の記憶がフラッシュバックしたのだろう。一瞬、動きが止まったが、すぐに怒りで顔を歪ませた。


「貴様が……貴様かぁぁぁぁぁぁ!」


 怒りで我を忘れながら、太刀を片手に突進してくるサラ。


「殺す! 殺してやる!貴様の首を、私の一族の墓に備えてやる! 」


 その斬撃をいなしながら、ドロセラも怒りを露わにした。


「被害者ぶってるんじゃねぇぞ! ノ-スズ! 元はと言えば、先に侵略戦争を仕掛けてきたのはお前達だろうが! 」


 2丁のメイスと、太刀は激しくぶつかり合い、火花を散らした。お互い溜まりに溜まった憎悪を剥き出しにしながらの戦闘だ。


「そもそも、エーシの無差別空襲自体が、クラーオス虐殺の報復だろうが! お前は、この時犠牲になったラノダ人の事を考えた事があるか? えぇ?!」


 ドロセラは、戦闘をしつつ、航空竜騎士として初出撃となったクラ―オスの空を思い出した。


 子供の頃から空とドラゴンに憧れて、若年にして航空竜騎士になって、念願の初出撃で飛んだ空はあまりにも血にまみれたものだった。



アコナイト「ドロセラと敵の女との因縁が明らかになった所で、次回に続きます」

ピンギキュラ「ドロセラちゃん、余裕が無くなると過激な言葉使いになるよね」

アコナイト「この口調は正室様の影響でしょうねぇ。一応、正室様、(毛嫌いしていたピンギと違って)ドロセラの事はかなり愛していまして、空に憧れて航空竜騎士になると言い出したドロセラには、心配性な親心から最後まで反対していました」

ピンギキュラ「最終的に、ドロセラちゃんが反対を押し切って、航空竜騎士学校に進学したっけ……。結果的にエースにまで成長したけど、その過程で、色々お辛い経験もしたよ」

アコナイト「続きは次回、語られますのでお楽しみに」

ピンギキュラ「続きが気になる方は、評価・ブックマークをしてくれると、作者のやる気が上がるよ」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ