34話 悪意の応酬
「偉大なる日輪よ、紫色の花に宿りし、おぞましく甘美なる毒よ、我と我に宿る地獄の番犬の名において、これを使役せん。我の前に顕現せよ。光あれ」
3つの首のうちの中心の頭が呪文を唱え、残りの2つの頭が口を開き、そこから魔法攻撃を発射する体勢になる。左右の頭は、頭脳というよりも、攻撃と防御の魔法をより効果的に行う為の砲というイメージが近い。
「2人とも、目をつぶって耳をふさいで! 」
中央の頭が叫ぶ。咄嗟に、2人は目を閉じ、耳を手で覆った。
「いっけぇぇぇ! アコニチン・バックショット&フラッシュ!! 」
左側の口からは、『アコニチン・バックショット』が、右側の口からは『閃光』の魔法が放たれた。
アコニチン・バックショットを使えるのはアコナイトだけではない。魔法を得意とするケルベロスも、当然使う事が出来る。
アコナイトと違うのは、彼女の場合、眩い光と轟音を発生させる『閃光』の魔法と同時に、これを使う事だろう。これにより、相手の視界と聴覚を奪う事で、ただでさえ防ぎにくい面制圧魔法の砲撃を、より当てやすくするという、えげつなささえ感じさせる戦術を用いる。
「くっ! エンペラーモール! 私を守れ! 」
しかし、そこは流石凄腕ビーストテイマー。サラは、使役していたエンペラーモールを操り、自身の前に立たせて盾にする事で、これを防いだ。
哀れ、エンペラーモールは猛毒のレーザーをもろに浴びて、倒れて動かなくなった。せめてもの救いは、ほぼ即死だった事だろう。
「なかなかやる……!」
サラは、照射が終わると、エンペラーモールの死体の陰から、そっとフロッガーの様子を伺った。しかし、すぐに第2射を撃つだろうという警戒と裏腹に、3人のは忽然と姿を消していたのである。
「! 逃げましたね」
気配や殺気自体が存在しない。『閃光』の光に紛れて離脱したのだろうという事は、サラにも分かった。
「護衛の冒険者達と合流するつもりですね……。最悪、彼らとも戦う羽目に……。ジンが仕留めてくれていると良いのですが。父上の手前、おめおめ失敗は出来ませんね」
そう、意味深にサラは呟くと。太刀をしまう。そして。ゆっくりとシェルターの入り口に足を運ぶ。歩みを進めながら、彼女は、使役するカラス達の視界を『支配使役』と呼ばれる、ビーストテイマー専門の魔法でジャックする。
使役獣の視界を自分の脳内に映し、更にその獣を意のままに操れる魔法。ビーストテイマーという、魔術師の根幹をなす魔法だ。脳内に、カラス達の視界が映し出される。
すると、左右2つの頭で、それぞれ2人の女性の襟を咥えた緑色のケルベロスが、宿から出て行くのが見えた。その先には、3人の冒険者。
「チッ……あのガキんちょ、しくじりましたか」
アコナイト達が無事な事に、サラは思わず舌打ちをした。同時に、腐っても腕は良い相棒を、彼女達が倒したという事実に、サラは警戒を強める。
「……一応、顔見せ位はしておきますか。それに……良い事も考えました」
サラは悪い顔をすると、倒れている3人の冒険者の血だまりの踏み越えた。ローブのすそに血が跳ねて付着するが、気にしない。無残な死体と血の海は彼女にとって、見慣れたものだったからだ。
* * *
「アーコーたーろー! 大変大変大変! 」
オオトリから飛び出したフロッガーは、中央の頭から声を出しながら、アコナイトの所へ駆け寄ってきた。
爆発音が聞こえ、急ぎオオトリへ向かっていたアコナイト達は、彼女の姿を見ると安心すると同時に、彼女が左右の頭で咥えているものを見て驚愕した。
「マリー様?! それにオウカさんも?! 」
「……アコナイトさん、ご機嫌よう」
「降ろして欲しいわ~」
器用に、首が締まらない位置で、2人の襟を咥えていたフロッガーは、ゆっくりと彼女達を地面に降ろした。
「実はね、大変な事が起こったんだよ! 」
興奮気味に、サラの事をフロッガーはアコナイトに報告した。若干、パニックをおこしているせいで分かりづらいが、何を言いたいかは分かる。
突如地中から、敵対的なビーストテイマーが襲撃してきた事。彼女が、遠距離攻撃も出来る太刀を得物としている事。魔法攻撃と機動性を生かした戦闘を得意とするフロッガーと、ライフルを得物にするオウカでは、狭い場所での戦闘は不利と判断し、撤退した事。
話を聞いたアコナイトは、もう一人厄介な奴が出てきた事に辟易した。
「なるほど、凄腕魔術師の次は、凄腕テイマーですか……」
「次から次へと厄介者が出てくるものだね。また、伝説の人物を名乗るんじゃない? 名乗っていた? 」
ドロセラの言葉に、フロッガーは自信満々に答える。
「サラトガ・クーラーさん! 」
「お嬢様、正解をどうぞ」
「サラ・ヴァイスハイトとか言っていましたわ」
フロッガーの記憶を全く信頼していないアコナイトである。
「雰囲気は、ドロセラちゃんに、どことなく似ていたわ~。歳も同じくらいかしら~」
「アコ太郎、誤射しないでね! 」
「私を誰だと思ってるんですか。誤射なんてありえません。馬鹿にしないでください」
「サラ・ヴァイスハイト……やっぱり、あのお伽噺から取ってるみたいだね」
ピンギキュラは、顎に手を当てながら、伝説に出てきた登場人物の名前を思い出している。サラ・ヴァイスハイトも、ヴェナートル・オクトのメンバーの一人だ。
「腕が良い分、生意気とか分不相応とか、言えないのが、厄介ですね……噂をすれば、なんとやら」
アコナイトの瞳は、白色髪の火傷痕がある少女の姿を捉えた。
オオトリの出入口から、サラが出てきた。彼女は、アコナイト達を認めると、太刀を鞘から抜く。
「護衛の皆さんお揃いで……。自己紹介は……その様子だと、ケルベロスから聞いている様ですね。お嬢様を渡してもらえますか? 」
今度はラープ語ではなく、帝国公用語だ。だが、かなり訛りがある。この特徴的なアクセントに、アコナイト達は聞き覚えがあった。
それは、仇敵ノスレプ人が使う言葉だった。
「……この下品な響き……。貴女、ノースズですか」
アコナイトの言葉に、姉妹二人も警戒と嫌悪感を露にする。それは、サラも同様だ。
「汚い言葉が聞こえますね。そういうあなた達はラノですか……ククク……ハハハ! 」
彼女は、意外そうな顔をした後、表情を悪意と憎悪にまみれた顔に変えた。
「なるほど、これは傑作ですねぇ。顔見せのつもりでしたが、相手がラノなら、本気で討ちにいきましょうか! 」
「ファッキン、ノースズ」
アコナイトもバトルアックスを構えると、敵意に染まった顔で中指を立てて挑発した。みるみるサラの顔が怒りに染まっていく。
「私は、お前達を許さない……。私から全てを奪ったお前達を……! 」
怒りを露にしたサラは、太刀を構えて、突進してくる。
「動物なんぞの力なぞいるものか! 私がじきじきになぶり殺しにしてやる! 」
フロッガー「いやー、アコ太郎達がここまで悪意まみれになるのは珍しいね」
マリー「敵とはいえ、仮にも女の子相手に、中指を立てる主人公とか色々と酷くありません? (白目)。普通、この手の主人公って女の子には甘くありませんこと? 」
フロッガー「美少女だからって容赦出来ないくらいに、憎悪ガンギマリ状態って事で一つ」
マリー「……4000年の因縁とか解決方法あるんですかコレ」
フロッガー「どっちかがどっちかを『最終的解決』して、完全に絶滅させるしか無いだろうねぇ。それか、嫌でも共闘せざるを得ない状況にするとか。悪意と憎悪の連鎖とか、コズ◯ック・イ◯かよって思った人は、ブクマ・評価よろしく!」
マリー「ガンダ◯好きですわね。アホの作者」




