32話 地中強襲
一方、『オオトリ』の地下シェルター。
広さは、ちょっとした倉庫くらいある。実際、普段は倉庫としても使われているのか、様々なものが置かれている。中に避難している客は20人程。
マリーは、ドロセラが中々帰ってこない事に、不安を覚えていた。
「ドロセラさん、無事でしょうか……? 」
「大丈夫だと思うけどなぁ。あの3人、殺しても死ぬようなタマじゃないし」
フロッガーは脇に座りながら、のんきにそんな事を言うが、マリーの不安は尽きない。
なにしろ、まさか、こんな展開になるとは思ってもみなかった。
トラブルがあっても、せいぜい、キングスピア家の人間がちょっかいをかけてくる程度を想像していた。シェルターの中に逃げ込んで来た人曰く、オークが空挺降下してきて、街をひっくり返すような騒ぎになっているらしい。こんな事になるとは誰が思うだろうか。
護衛3人と1匹のうち、3人は現在不在である。フロッガーもケルベロスとはいえ、格下いじめならともかく、実力自体は未知数だ。
「早く帰ってきて下さらないかしら……」
そんな侯爵令嬢の不安を逆なでする様に、声をかけてきた男達がいた。
「お姉さん、そんな幼女1人とだけじゃあ、不安じゃない? 」
「俺達と一緒に居ようぜ? 」
「へへへ……」
数は3人。善意で言っている様には見えない。ちょっかいをかけてきたのは、キングスピア家の人間ではなく、見るからに素行不良そうな冒険者達だった。
「その装備……貴方達、冒険者ですの? 」
「いかにも! 」
「俺達はこれでも桃級。結構強いんだよ? 」
「一緒に遊ぼうぜ? 」
マリーはため息をついた。単純に、自分にちょっかいをかけてきた事以上に、こいつらは、空襲警報が鳴り響き、少なくない数の冒険者や、軍人が外で戦っている中、こんな所に尻尾を巻いて隠れているのに呆れている。情けない事この上ない。
「すみません。私、今はいませんが、別の冒険者を雇っておりますの。お引き取りなすって」
「お嬢さん、スポンサー様だったのかい? こいつはいい! そいつらより俺らの方が強いよ、俺らと契約しなおさないか? 」
「はぁ? 」
つい、イラっときた為、口が悪くなった。
こいつらは桃級。ランクで言えば上から4番目。捕食毒華のランクは竹級。上から2番目。どうして、わざわざ乗り換える必要があるというのか? そもそも、こんな見るからに育ちの悪そうな男は、マリーは嫌いだ。
コバエを追い払うように、手を振って拒絶を示す。
「間に合っています。今は席を外していますが、貴方達よりよっぽど強い方達を雇っていますから! 」
「おお、怒った顔も素敵。どいつです、その冒険者パーティーは? ホーナーの所ですか? ゴールの所ですか? 俺達の方がよっぽど……」
いい加減、フロッガーもこの絡み具合にうざったくなってきたのか、鉄片入りの鞭を手にして、マリーに目で「こいつら、ちょっと痛い目に合わせて良い? 」と訴えている。
流石にそれはいけないと、目で「早まるな」とだけ返しておいた。このパーティーは言うべき事は言って、ツッコむ所はツッコまないと、何処までも暴走するタイプだという事は、マリーも分かってきている。
「捕食毒華です! アコナイト・ソードフィッシュの所です! 」
「……捕食毒華!? あの『要注意パーティー、捕食毒華』!? 」
「聞いたことがあるぜ。カタスト帝国の冒険者パーティーの中には、腕はいいが絶対に変に関わっちゃいけないパーティーが4つあるって……。その名も、『触らずの四天王』! 生半可な覚悟で触っちゃいけない祟り神みたいな連中……!」
「『タイラント・レイダース』、『7人大隊』、『ストラック・ワン』に並ぶ、悪名高い連中……! 特に、パーティーの女性陣には絶対に色目を使っちゃいけないって……。ラノダコールの残党とも裏で繋がってて、下手な事をすると、そいつらにお礼参りされるとか……」
ざわざわ、と、あきらかに動揺する3人。すぐに彼らは顔を青くして、去ってしまった。
残されたマリーは困惑を隠せない。
「……えっ、何ですか、この展開? 」
「ははは! うちのパーティー、有名人みたいだね! 」
のんきな事を言っているフロッガー。割と、とんでもない悪名が広まっている事に、マリーは困惑した。
「ほら、うちのパーティー、アコ太郎がアレで、アセロラさんがアレで、ギンピギンピさんがアレじゃない? 色々、陰である事無い事言われちゃってるみたいでさ」
「そんな悪名高い所に、プサラスのギルドは私の護衛を任せたんですか……」
「でも、何だかんだで、腕はいいし、良いじゃないの」
「それはそうですが……」
「ちなみに、本格的にやべー奴ら扱いになったのは、前にあった大規模盗賊追討で、アタシがちょーっと、ハッスルしちゃって以来なんだよね……何でかな? 」
「間違いなく、その時の暴虐のせいではないですか……?」
「えー。アコ太郎達の日頃の行いのせいもあるしー? 」
マリーはため息を1つついた。もう厄介な人間に絡まれた時、彼らの名を出せば手を引いてくれる様になる魔法の呪文を覚えた、と開き直る事にする。
その時である。
突如として、地面が揺れ始めた。かなり大きい揺れで、避難している人々も、動揺してパニックになっている。
「なっ……! こんな時に地震ですの?! 」
「いや、カタストじゃ、あんまり地震は起きないよ! 」
咄嗟に、頭を押さえるマリーを庇いながら、フロッガーは警戒する。腐っても召喚獣。アコナイトからのマリーを守れ、という命令は完遂する覚悟である。
揺れは収まるどころか、ますます大きくなる。そうするうち、轟音と共に、コンクリート造りのシェルターの壁の一部が崩れた。
幸い、そこに人はいなかったが、恐ろしい事に、崩れたシェルターの壁から、『巨大な顔』が現れた。
人間の顔ではない。それは一見鼠の様で、鼻先が細長く、目と耳は小さく退化していた。茶色の毛皮は泥だらけで、この生物が地中に住まうものだという事を示している。
「エンペラーモール?! 」
先程絡んで来た冒険者の1人が、驚愕の声を上げた。
顔の大きさから言って、全長は10m程あるだろう。巨大な巨大なモグラだから、皇帝モグラか、と、マリーは妙な所に気をとられていると、その巨大モグラの後ろから、人影が現れた。
その人影はローブを着ており、腰には太刀を下げている。顔はローブのフードに隠れていて、伺えない。
「お休み中の所、失礼しました。突然の無礼な訪問、お許しください」
謎の人物が口を開いた。若い女性の声だった。口調自体は丁寧だが、有無を言わせぬ雰囲気と、威圧感がある。
「お嬢様、故郷に帰りましょう」
マリー「一体何者なんですの?! この人! 」
フロッガー「果たしてローブの女の人は敵か味方か!? 」
マリー「いや、絶対に敵ですわよね……」
フロッガー「ちなみに、エンペラーモールの爪は鋼鉄並に硬くて、コンクリートの壁くらいならぶち抜ける設定だよ」
マリー「さらっと恐ろしい情報が……」
フロッガー「果たしてアコ太郎達はマリー様を守り抜けるのか!? 待て、次回! 」
マリー「評価・ブックマークもよろしくお願いしますわ」




