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30話 毒 VS 氷

 アコナイトは盾を維持しつつ、ピンギキュラの暴走の被害を少なくする事、目の前の凄腕魔術師を倒す事、この2つの難題を同時に処理せざるをえなくなった。


 頭を抱えたくなりつつも、冷静に行動を選択する。愛用の97式バトルアックスを硬く握り、集中する。


「桃色の花に宿りし、水を統べる水神よ、業火にも屈さぬ美しき毒よ、恵を我らの地に与えよ。我と我に宿る紺碧薔薇の魔女の名において命ずる……」


 体内で、闇、水の魔力を掛け合わせ、2つの魔法の詠唱を同時に行う。


 かすかに脳裏に残る、紺碧薔薇の魔女の残滓の記憶と経験に頼りながら、アコナイトは魔法の同時発動という、高度な芸当を行おうとしていた。ドロセラが炎魔法を放つタイミングに合わせて、毒魔法と、水魔法を、少しタイミングをずらし(・・・・・・・・・・)放った。


「消し飛べ! ファイヤーアトラス!」


「行け! オレアンドリン・ピアーシングショット! &サモン・レイニー!」


 盾系防禦魔法は、内側からの攻撃は通す特性がある。


 3つの魔法は『ファイヤーアトラス』、『オレアンドリン・ピアーシングショット』、『サモン・レイニー』の順でローブの男に向かっていく。


 『ファイヤーアトラス』は、巨大な火球を発生させる魔法だ。火球は、無限に生成される飛んでくる氷柱を全て飲み込み、蒸発させながら、ローブの男に迫った。


「ここで火炎魔法?! 引火が怖くないのか?! 」


 流石の男も、ピンギキュラが躊躇なく火炎魔法を放ってくるとは思わなかったらしい。氷柱攻撃をやめ、手に持った魔法杖を構え直し、咄嗟に防御魔法を唱え、盾を召喚する。ちょうど、魔法杖の先端から、盾が生えている様な構図だ。


 この様に、魔法使いは盾魔法(シールド)を使いながら戦う事が多い。前述の通り、内部からの攻撃は通るので泥仕合になりやすい。


 魔法使い同士の決闘は、先に相手の魔力を削り切って盾を維持出来なくさせるか、盾を貫ける程の攻撃で、相手の盾をたたき割るか、大体、そのどちらかで決着がつく。


 ピンギキュラとアコナイトが選択したのは後者だ。


 アコナイトが選択した魔法は、『オレアンドリン・ピアーシングショット』。徹甲弾(ピアーシングショット)の名の通り、盾魔法の貫通に特化した魔法で、『ファイアーアトラス』が防がれる事を読んで、それを承知の上で放っている。


 悔しいが、相手の魔術師は大した腕だ。当然、盾魔法も強力なものだろう、だが、どんな盾でも、強力な攻撃を何度も連続で受けたら、ガタ(・・)がくる。


 アコナイトの予想通り、『ファイヤーアトラス』は、男の張った氷の盾に防がれた。


 水属性魔法の派生の氷魔法は、相手を凍結させたり、スリップを誘発し、文字通り足元を崩したりといった事を得意とするトリッキーな魔法だ。一方、それを溶かし尽くせる、炎属性魔法には極めて弱い。それにも関わらず、まだ、盾自体は健在だ。


 『ファイヤーアトラス』の火球は、四散して周辺の土地に降り注ぐ。


 落下する火球の合間をぬって、『オレアンドリン・ピアーシングショット』のピンク色の光線は目標へ一直線。『ファイアーアトラス』が薄くした場所に命中する。


 それに一歩遅れる形で、『サモン・レイニー』の青色の光線は、男の脇を通って空に向かって曲がっていき、ある程度まで高度を上げると、光線の先頭が分裂した。そして、それらは木の枝の様な形を形成しつつ、立体的に広がっていき、その『枝先』の部分から土砂降りの様に水が放出される。


 落ちていく火球の破片を、水は、つぎつぎ消し止めていく。ついには、地上に落下して引火する前に、全て消し止める事が出来た。


 土砂降りの中、一方の『オレアンドリン・ピアーシングショット』は、氷の盾を貫通するには至らず、止められてしまう。


「オレアンドリン・ピアーシングショット!? 猛毒の貫通攻撃なんて、お姉さん、たちの悪い魔法を使うんだね! でも、僕の盾は貫けない!」


「まだまだ! 」


 火を消し止めた事で、アコナイトは、サモン・レイニーを消し、オレアンドリン・ピアーシングショットに、残った全魔力を注ぎ込む。


 更に、アコナイトの魔力攻撃に呼応する形で、先程髪につけた青い薔薇の髪飾りが光り輝いた。僅かながら、光線の貫通力が上昇するのを感じる。


「こちらには、恐ろしい魔女様の加護と、姉妹との愛がついています! 」


 頭で発光する、乳母姉との絆の証に、アコナイトの戦意は否が応でも高まった。


「私の猛毒の徹甲弾、とくと味わってください!」


「……?! 盾が!?」


 男の氷の盾は、ピンク色の光線の前に、ヒビが入る。そして、一瞬遅れて、粉々に砕け散った。


 ピンクの猛毒の光線は、そのまま、魔法杖ごと盾を構えていた右手を飲み込む。


「ぐあぁぁぁぁぁぁ! 」


 猛毒にひたされた右腕は、見るも無残にただれて、変色していった。男は、先程の余裕ぶった口調と打って変わって、苦悶の悲鳴を上げる。


「……毒属性の魔法は、致死量の数十倍の量の毒素を、体内に一瞬にして注入できる。すぐに、楽になりますよ。……おやすみなさい」


 すぐに苦しんで倒れる、とアコナイトは思っていたが、男は苦しみながらも、驚愕の行動をとった。


「水よ、我の名のもとに氷となりて敵を貫け。アサルト・アイシクル! 」


 狙いは、アコナイト達ではない。彼は、自らの被弾した腕に(・・)、躊躇なく、魔法を放った。

巨大な氷のナイフが形成され、ただれた腕は一息に切り落とさる。


「毒が回る前に、自らの腕を?! 」


「思い切りの良い魔術師ですね」


 アコナイトとドロセラが、彼の行動と判断に驚きの表情を浮かべていると、男の腕から噴き出していた血が止まった。どうやら回復魔法を使った様だ。


「いってぇ……ずいぶん、痛い事してくれたな」


「腕がその状態で、まだやる気ですか? 今度は、確実に楽にしてあげましょう」


 アコナイトは、97式バトルアックスの刺頭を男に向ける。


 実を言うとハッタリである。もう、彼に魔力は残っていない。このまま戦闘を継続すると、ジリ貧である。内心では、もう撤退してくれ、と願っていた。




ドロセラ「姉様、地味に火炎放射器無しで魔法を放ってるけど、魔法杖なんかの武器無しで魔法って使えるの? 」

アコナイト「魔法自体は使える設定です。ただし、攻撃魔法の様な大量の魔力を消費する魔法は、そうした媒体無しで放つと、疲労が激しく、体力を消耗します」

ドロセラ「ああ、だから魔法使いは魔法杖が必要なのね」

アコナイト「三角帽にも、それに似た効果がある設定ですね」

ドロセラ「姉様みたいな魔女っ娘萌えな方はブックマーク、評価よろしくね」

アコナイト「魔女っ娘……?(火炎放射器使いの25歳)」

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