28話 強襲
ドロセラがオークとの戦闘を始めていた頃。アコナイトとピンギキュラは、同じく、空から降下してくる落下傘に驚愕していた。
場所は『リメイニング・シャイン』の2階。窓越しに、地上へ降りてくるオークの群れを、アコナイトは困惑の表情で眺めている。
「ピンギキュラ。周辺国にオークを空挺部隊に使っている国ってありましたっけ? 」
「聞いた事無いよ」
「ですよね」
乳母姉とそんなやりとりをしたアコナイトは、ファントムへこうべを垂れる。
「ファントム様、名残惜しいですが、我々はここでお暇させていただきます」
「うちの地下にあるシェルターに入っていけ……と言っても聞いてはくれないよね」
「ドロセラと、お嬢様と、うちのペットを放っておくわけにはいきません。ご厚意だけ、いただきます」
「うむ……無事でね。君が失われるのは、個人的にもラノダコール残党としても辛い」
アコナイトとピンギキュラは、ファントムへ、ラノダコール式の敬礼をして、踵を返した。目指すは、『オオトリ』である。
店から一歩出ると、そこは物々しい空気が漂っていた。
ぽつぽつ、ブルー・シーの冒険者や、駐屯の軍人達の姿が見える。皆、表情は困惑と緊張の色をもっており、武器を抜いて戦闘態勢に入っている。オークが空挺降下してくるという、前代未聞の事態に混乱しているのだろう。
そんな者達の間をぬって、2人は『オオトリ』を目指す。
「こんな事なら、火炎放射器を置いてくるんじゃなかったよ」
「火炎放射器を背負ってデートする訳にはいきませんし、仕方ありませんよ」
ピンギキュラの後悔を、アコナイトはフォローした。彼女は、溜息を1つつき、しぶしぶ、はいているスカートの端をつまみ上げ、ストッキングにマウントして隠してあった物に手を伸ばす。
「これは、あまり使いたくなかったんだけど……。やっぱり、気持ち的に近接武器は持っておきたいよね」
ピンギキュラは、スカートに隠していた、刃渡り30㎝程の短剣を取り出した。
それは、刃はついておらず、尖端が鋭く、刺突に特化した形状になっている。かなり使い込まれており、汚れや傷が目立つ。
「久しぶりに見ましたよ、その刺突短剣」
「普段、アコちゃんの青薔薇と同じで、お守りに持っているものだからね。今日は母上に助けてもらうよ。街中で火炎魔法を撃つわけにもいかないし」
ピンギキュラはそう言って、刺突短剣の具合を確かめて、十分に使用に耐えられると判断すると、それを構えた。
この刺突短剣は、元々、彼女の母親が愛用していたものである。ラノダ砦からの逃亡前に、形見分けとして、ピンギキュラが引き継いだ。くたびれているのは、彼女の母親と、ドロセラの母親が殺し合いをする際に、幾度となく打ち合ったからだ。
そうこうするうち、『オオトリ』に近づいてきた。
すると、なんという事だろう。『オオトリ』の前の通りで、1人の少女が、1体のオークと戦闘をしている。アコナイトは、その少女がドロセラであることがすぐに分かった。
彼女の近くには1体のオークの死体が転がっていた。頭蓋が陥没している事から、彼女のメイスの錆になったのだろう。
「ドロセラ! 」
「ドロセラちゃん! 」
「兄様! 姉様! おかえりなさいませ! 」
ドロセラは、2人の姿を目で捉えると、あからさまに戦意を向上させる。オークが振り下ろした剣を、メイスで弾き返し、大声を上げた。
「我が主のお帰りだぁぁぁ! 道を開けろぉぉぉ! 下郎ぉぉぉぉぉぉ!」
彼女は、威嚇する様に鬨の声を上げ、それまで互角の戦いだったオークを圧倒し始めた。
オークの持つ剣を、腕への打撃で叩き落とすと、片方のメイスを捨て、代わりに、腰に下げたダガーを瞬時に構えた。それから、まったくの早業で、オークの懐に入り込むと、ダガーでオークの喉を突き刺した。
オークは、血が喉から噴き出すくぐもった音を出しながら、地面に筋肉質な体を倒れさせる。そのまま、ドロセラは片手に持ったメイスをオークの頸部に叩きつけて首の骨をへし折り、とどめを刺した。
「お見事です、ドロセラ! 」
「えへへ、兄様、もっと褒めてください! 」
先程の殺気に染まった瞳を、いつもの主人に対する狂信に染まった瞳に変えたドロセラは、2人の元へ駆け寄って来た。
奇しくも、決まり手に使ったダガーは、彼女の母親が愛用して、ラノダの戦いで娘に受け継がせたものだった。ピンギキュラのものと合わせ、かつて、幾度も刃を交えた剣2本が1ヶ所に集った形になる。
そのダガーについた血を拭いながら、ドロセラは状況を報告する。
「警報を受けて、外に様子を見て来たら、こいつらに絡まれてね。マリー様は、フロッガーと共に『オオトリ』の地下シェルターに」
「急ぎ、向かいましょう」
アコナイトは、宿の方を見る。何匹か、そちらにオークが向かっているのか、先程から『オオトリ』からは、轟音が響いている。恐らく、オウカがオーク相手に、窓から愛用の『87式12.7㎜多目的ライフル』をぶっ放しているのだろう。
しばらくは大丈夫だろうが、早めに援軍に行くに越したことは無い。
「ちょーっと、待った」
3人が、宿に足を向けようとした時、どこからか、声が響いてきた。声は高い男の声で、かなり年少のものに聞こえる。
「兄様、危ない! 」
ドロセラが咄嗟にアコナイトに抱き着いて、押し倒した。間髪入れず、先程までアコナイトの頭があった位置を、魔法攻撃が通過した。
それは、鋭い氷の塊を飛ばす攻撃だった。『哨戒』で、強化された五感を活かし、ドロセラが咄嗟に彼を庇わなければ、今頃、脳天に氷の柱が突き刺さっていた事だろう。
「勘がいいねぇ。腐っても、お嬢の護衛役じゃないか」
「白色の花に宿りし、おぞましく甘美なる毒よ、我と我に宿る紺碧薔薇の魔女の名において、これを使役せん……コンバラトキシン・ガード! 」
アコナイトは、第2射に備え、自身と姉妹を守る様に、防御魔法を展開する。猛毒に覆われた盾を周囲に展開する魔法『コンバラトキシン・ガード』を唱え、発動した。
間髪を入れず、再度、氷のつぶてが3人に襲い掛かってくる。今度は総大将狙いでは無く、面制圧射撃だ。が、それらは全て、毒の壁に吸収されて無力化された。
「コンバラトキシン・ガード……驚いた。まさか、ここまで使いこなせる奴がいるとは」
驚き半分、おちょくり半分といった口調で先程の声が響く。声の主は、アコナイト達のいる場所の目の前の3階建ての建物の屋上から響いていた。
アコナイト達が視線をそこに向けると、果たして、そこにいたのは、ローブを被った小柄な男だった。どうやら、少し前に、ドロセラに追い抜かれた追跡者と同一人物の様だ。
「こんにちは。魔法使いのお姉さん。謎の凄腕魔術師でーす。よろしくお願いします」
男は、先程の高い声で、挑発のつもりか定型句通りの挨拶をした。アコナイトを女性と勘違いしているのはご愛敬。
距離があるのと、ローブに隠れて、顔は見えないが。口調と声色的にきっと面倒くさいタイプの人間に違いない。そう、アコナイトは判断し、彼もウインクしながら挑発を込めた台詞を吐いた。
「こんにちは、魔術師さん。凄腕を自称する割に、私のコンバラトキシン・ガードは抜けませんでしたね。まだまだ修行が必要みたいですね! 頑張ってください! 」
アコナイト「いよいよ現れた強敵! という展開ですが、ここで読者の皆様に大事なお知らせがあります。書き溜めた話のストックが尽きました……」
ドロセラ「何で良い所で切れちゃうの……。読者さん今、クイズ番組で、答えはCMの後! された時みたいな顔してるよ」
アコナイト「いや、スタート時点でストック20話くらいあるし、ストック使っている間にキリの良い所まで書き進められるやろ。と見切り発車した結果、思いのほか書き進められなかったというか……。大体アホの作者の遅筆とサボタージュが原因です」
ピンギキュラ「これは梟首ものだねぇ……で、今後どうするの? 」
アコナイト「今まで、毎日投稿していましたが、今後は不定期更新になります。週一更新を目標にするので、生暖かく見守ってくださると幸いです」
ドロセラ「アホの作者、私達にかなり愛着あるみたいだから、なるべくエタる事はしたくないそうだけど、どうなる事やら……」
ピンギキュラ「一応、プロットはあるらしいけどね……」
アコナイト「という事ですので、読者の皆様には、もうしばらくお付き合いいただけると幸いです」
ドロセラ「それと、最後になりましたが、今までブックマーク、評価、いいねをくださった方々、本当にありがとうございました。この場を借りてお礼申し上げます」
ピンギキュラ「大変励みになっております。引き続き、見守りいただけると幸いです」
アコナイト「今まで連日ご愛読ありがとうございました。次回以降もよろしくお願いします」




