26話 空襲警報
「ここに1つはある。あと4つ。これが、まだどこかにあって、やろうと思えば、『P.E.A.C.E』をまた作り出す事ができる、なんて、考えただけでおぞましい」
ファントムは金庫を開けて、中から一体の偶像を取り出した。
それは、おどろおどろしい姿をした、奇怪な面を被った蛇の姿をしていた。口には、たいまつを持っている。
「今更、釈迦に説法だろうが、ここにあるのが火の邪像。まだ、水、風、闇、光の邪像がこの世界のどこかにある。君達の任務は極めて重要だ。僕はね、正直、『P.E.A.C.E』の事は嫌いなんだ。あ、平和って意味じゃないぞ。あの戦略兵器の事だ」
「それは……」
「意外。かい? 」
アコナイトの呟きに、ファントムは微笑みを浮かべながら返した。
「ファントム様の性格的に、「『P.E.A.C.E』を再制作して、祖国解放の一手にする!」とでも考えているのかと」
「君は、僕をそんなに手段を選ばない女だと思っていたのかい?」
呆れたように、ファントムは言う。
「僕はね、こう見えて結構、体裁とか、建前とかに気をつかうタイプなんだよ? 取り戻すべき自国領内でそんなものぶっぱなす訳にはいかないだろ? 」
「飄々として、そうは見えません」
「それもキャラ作りさ。こうした方が余裕ぶって見えるだろう? 」
にやにや顔をしながら、ファントムは言った。どうも、この少女は本音が分かりづらい。
「大量破壊兵器にはロマンってもんが無くていかない。スイッチ押して終わる戦争に、英雄もクソもないだろう? あれはいかん。それに、僕だって無益な虐殺は好きじゃない。あんなものは邪道だよ、邪道。この世に存在する事自体、腹立たしい」
「同意します。『引き金』としても、ね」
アコナイトは、目の前の姫様が倫理観的には、かなりマシな部類の人間なのであるし、案外小心者なのかもしれないと思った。
「とにかく、あんなものがもう二度と作られる事も、使われる事も無い様に、邪神像は早く、なんとかしないと」
そう、ファントムが言った直後の事である。
街中のサイレンが危機感を煽る様な不気味な音で、鳴り響いた。
これらは、魔法によってリンクがしてあり、中央の役所から声を届ける事が出来るようになっている。そこから響く声は、アコナイト達を驚愕させた。
ーー空襲警報! 空襲警報! 現在ブルー・シーに向かって巨鳥デイノアーラの群れが接近中! 民間人は避難を。冒険者及び軍人は迎撃態勢を整えてください! 繰り返します、繰り返します、空襲警報! 空襲警報! これは訓練ではない!
* * *
「マリー様! すぐにお風呂から上がってください! 緊急事態です」
今日の汗を流しているマリーを、浴場の扉の前で守っていたドロセラは、すぐに扉を開けて、彼女に風呂から上がる様に言った。
オウカが気を利かせて、マリーが入っている間、浴場の出入り口に『現在清掃中。しばらくお待ちください』と、書かれた立て札をしてくれていたが、残念ながら無駄になりそうだ。
「何事ですの?!」
「空襲警報です! すぐに服を着てください」
ドロセラは、風呂上りのマリーへ、彼女の服を投げてよこした。この時、彼女の下着がかなりえぐいものだった事が、何の脈絡もなく妙に気になった辺り、彼女も若干混乱している。
「わー、お嬢様ってこんなパンツはくんですねぇ。今度兄様とのお楽しみ時に、私もこういうエッチなのをはいて……じゃなくて! 大変です、巨鳥デイノアーラの群れが向かっているそうです! 明らかに異常事態です」
「デイノアーラ?! 」
「デイノアーラは普通、単独で行動するドラゴンです。繁殖期以外で群れを組むのはおかしいです。何か、悪い事がおこるかも。念のため、宿の地下のシェルターに入ってください」
マリーに手早く服を着せたドロセラは、浴場の前で、同じく護衛役に立っていたフロッガー(人間態で召喚済)と共にマリーを地下に連れて行った。地下室では既に、オウカが宿泊客を避難誘導していた。
彼女は、ぽややんとして雰囲気に合わぬ、対物仕様の無骨な銃を背負っている。
ゆるふわな雰囲気にも関わらず、彼女が射撃の腕が妙に良い事を、ドロセラは以前聞いたことがあった。
曰く、お客様の安全の為に、ある程度の力は必要。との事である。
「オウカさん、お嬢様もシェルターに入れてください」
「もちろんよ~。ドロセラちゃん達も入って」
オウカの好意に、ドロセラは首を横に振った。
「そうしてもいいですが、兄様達が心配です。それに、デイノアーラの様子も一応見ておきたいので、一度、外にいきます。お嬢様の護衛には……少し心配ですが、フロッガーを置いておきます」
フロッガーは、相変わらずのテンションの高さだ。
「任せて! お嬢様はアタシが守り抜くよ! ブルセラさんも気を付けてね! 」
「……その呼び方、なんか嫌だね」
「実際奥様達、アコ太郎の下着を時々くすねて、コレクションしてるじゃない」
「愛し合っているから、アコ兄様も分かってくれるよ。それに、貴族と腐敗は切っても切れない関係。洗濯担当時に下着を横領するのもセーフだよ」
「……ごめんなさい。その情報と言動は普通に引きましたわ」
唐突なカミングアウトに、マリーは引いている。ジト目でドロセラを見つめるマリーの横で、フロッガーはシンキングタイムを続ける。
「……ブブゼラさん? 」
「そしてフロッガーは、ますます酷くなってるよ? 」
「じゃあ、アセロラさん! 」
「元の名前から語感と植物って事しか合ってないじゃない。なんか、この駄犬に、マリーさんを預けるのが不安になってきた……」
「もしもの事があったら、獣形態になって、大暴れするから安心してって! 」
「あまり他のお客さんを怯えさせたり、ドン引きさせない様に。捕食毒華の評判に関わるからね」
「もう手遅れだと思いますが……」
漏れ出る話を聞いて、心無しか他の客は距離を取っている気がする。
それを気にせず、駄犬と漫才をしつつ、ドロセラは、マリーへすぐに戻ると言って、宿の外へ向かった。
ドロセラ「……何か、タイムリーな展開になりましたね(2022年10月5日現在)」
マリー「一応、本編を書いたのは1週間ほど前で、関連は無いんです。信じてくださいまし……」
ドロセラ「書き溜めていると、意図せずに時事ネタに被っちゃう事あるんですよね……。それは置いておいて、我々の事を指す時、時々『郎党』って表現してますが、ぶっちゃけヨーロッパ風の世界的には合ってないんですよ」
マリー「『郎党(ろうとう、ろうどう)は、中世日本の武士社会における主家の一族や従者。郎等とも。平安時代中期に承平天慶勲功者やその子孫の中から登場した武士階層は、田堵負名、すなわち田地経営者としての側面も持っていた。武士たちは在地にあって田地経営を行いながら武芸の鍛錬に励み、国衙から軍事動員が課せられたときは軍事活動に参加した。こうして彼らは国衙から「国内武士」としての認知を受け、それによって武士身分を獲得していた。(→国衙軍制)
上記のような在地武士たちは、戦力を一定以上確保するために、自らに従う者を「郎党」と呼んで主従関係を結んだ。郎党は、武士と同身分であるとは言い切れないものの、在地武士と同様に騎乗する権利を持ち、戦闘に参加する義務を負っていた。郎党の出自を見ると、下人・所従から郎党になった者もいれば、百姓身分の者が在地武士と主従関係を持って郎党となった者もいた。』以上、Wikipedia『郎党』より引用。という事なので、元々中世日本でしか使われていない単語っぽいんですよね……」
ドロセラ「ただ、我々と兄様との関係を表すのに、『部下』や『家来』『家臣』だと冷たい感じになってしまうし、『家人』だと、召使みたいなニュアンスにもとれるし、『義姉妹』『乳姉妹』だけだと、兄様と恋人兼忠誠を誓った主従という微妙な関係性が見え辛いし……と、悩んだ結果、一番しっくりきた表現が『郎党』だったんですよね」
マリー「あとあれですわね。アホの作者、鎌倉〇の13人にドハマりしているので、その影響」
ドロセラ「最近は父上退場してロスってますね……。本編にもちょくちょく、強い影響受けてるっぽい所がちらほら……」
マリー「まさかそのうち本編でも凄惨な政争・粛清要素が……」
ドロセラ「政争だの粛清だの、アホの作者が扱える代物じゃないんですよねぇ……。Wikipediaの引用部分なげーよ! と思った方はブックマーク・評価お願いします」




