24話 ステータス・オープン!
「ア・コ・ちゃ・ん・は・私・達・の・も・の・で・す」
ぎりぎり、主君という事で、殺意や敵意は向けていないが、警戒心をあらわにした表情で、ピンギキュラはファントムへ警告した。
警告を受けたファントムは、面白そうに笑う。
「あはは! アコ、愛されているみたいじゃないか」
「みたい、じゃなくて本当に愛されていますよ」
「そうだったね。結構! 結構! 大いに愛し合いなさい。別に僕は君達から、アコを寝取ろうとまでは思っていないよ。僕が君を好きと言ったのは、情欲的な色っぽい話じゃないんだ」
「LOVEではなく、LIKEという事ですか?」
「半分正解で半分間違いかな? 僕が愛しているのは、君の数字だ」
それからファントムは、指で銃の形を作るとアコナイトを指差した。そして、口を開いて、一言呟いた。
「ステータス・オープン」
彼女はそう言ったが、特に何も起こる事は無い。
ただ、不思議というか不気味というか、アコナイト達の姫様は、アコナイトをじろじろと見ながら、にやけた顔をしている。
「僕が好きなのはこれなんだ。アコ、君の数字はいつ見ても美しい。容姿と共に、こんな美しい数字を授けてくれるとは、君は神に感謝すべきだぞ。特にこの魔法能力関係。ほとんど全ての魔法を使う事が出来て、魔力も魔力生成能力も無限なんて、これ程に美しいデータがあるものか」
「? 」
アコナイトは、ファントムの言う事が今一つ分からず、首をかしげた。何かの呪文だろうか。
「ピンギはピンギで、これも興味深いステータス配分だ。技術力に火炎魔法の値が高いのは良いとして、忠誠心がカンストしている。もはや狂信といっても過言ではない程だ。妹の方も恐らく同値だろう。いやはや、アコは良い郎党を持ったものだね」
続いて、ピンギキュラの方を向いてファントムはそんな事を言う。彼女もアコナイト同様、警戒しつつも、頭には『? 』記号が浮かんでいた。
「……姫様。お二人は元貴族とはいえ、王家の人間ではありません。むやみに能力を見せつける様な真似は……」
「いいじゃないか。別に機密……ではあるけど、2人になら言っても問題ないだろう。今更裏切るもなにもないだろうしさ」
スペクターは苦言を呈したが、ファントムは手でそれを制した。
「いや、失礼、失礼。これは僕……というかラノダコール王家に伝わる伝統的な能力でね。『点検眼』という。他人の能力を数値化して見る事が出来るんだ。こう、脳内に見たい能力の数字が浮かぶイメージかな」
ファントムは、王家に伝わる能力をあっさりとバラした。為政者としてみるなら、便利な能力だろう。しかし、それを使って、自分の能力を見る事がどう関係するか、今一つ分からなかったアコナイトは、再度、いぶかしげに質問をぶつける。
「はぁ……それで他人の能力を見て、何か楽しいのですか?」
「楽しいさ。能力値は固定されている訳じゃない。日々、成長や、逆に、奢りサボりで上下する。人間観察にこれ程役立つ能力はない。色々応用が効くから商売にも有効活用出来るしね。それに……」
「それに? 」
「アコ。君みたいなチート使いの能力値は最高だ! 高い能力は見ているだけでニヤニヤ出来るし、それが僕の配下にいて、極論なんでも命令できる、というだけで最高に刺激的だ」
やや、狂気が入った目で、ファントムはアコナイトを見据えた。
「僕はね、アコ。別に君自身の事は正直、あまり興味はないんだ。あぁ。君の容姿は好きだよ? 美しい。何時間見ていても飽きない。でも、恋人、とか、人生の伴侶にしたいか? と言われると返答に困るんだよね」
「愛情が重すぎる、と?」
「それもある。君と四六時中いると流石に疲れそうだ。それに、寝取り趣味も無いしね。だから、ピンギはそう警戒しなくてもいいんだよ? 」
光の失った瞳を楽しそうに眺めながら、ファントムはピンギキュラの警戒を溶かす。
とはいえ、完全に油断はしていない様で、ピンギキュラはアコナイトに背中から抱き着いた。そして、自分のモノだと主張する様に、アコナイトの首筋を甘噛みする。
「ヤンデレは、あまり、おちょくるものではないな」
「今のは、姫様が悪いですよ。私の妻達が、別の男からあんな意味深長な言葉をかけられたら、睨みつけるどころでは済ましませんよ? 」
ピンギキュラのなすがままにされているアコナイトは、ファントムに不満を述べる。
「おお怖い怖い、すまん」
悪気があるのか無いのか、あいかわらず、癖の強い声でファントムは詫びた。
「アコ、ピンギ。私はね、昔から、特にこの能力に優れていてね。普通の王家の人間よりも何倍も高い精度で、相手の数字を見る事が出来たんだ」
「シリアスな雰囲気になってきましたね……」
「ああ。シリアスな空気だ。このまま姫の話に付き合ってくれたまえ」
真剣なのか、ふざけているのか良く分からない不思議な口調で、ファントムは言葉を続ける。
「結論から言えば、なまじ相手の能力が分かるから、そうして相手を見ていくうち、他人を外面内面ではなく、『性能』でしか見れなくなった。アコの数字だけを愛している、というのはその為さ」
「なんていうか、難儀な性癖ですね」
ピンギキュラの言葉を、ファントムは面白そうに繰り返した。
「ああ、難儀な性癖さ。他人と向き合う時、性格以上に、本人の性能を気にするようになってしまった。これに、末期のラノダコールの政情が絡んでごらんよ? 血筋だけ良くてぼんくらな腐敗貴族のおっさん達が、低いステータスを並べて政治を好き放題操っているんだよ? 日々、情勢が悪化する中で僕が歪むのは当たり前じゃないか」
ファントムは、悲しそうな顔をしたかと思うと、次の瞬間には笑顔になった。まったく、表情がコロコロ変わる女性もいたものである。
「だからアコ、君はこの数字を下げてはいけないよ? 奢りや慢心なんてもっての他だ」
「今、私、まさに、その数字が原因で起こる魔法汚染を避ける為に、リミッターかけてあるんですけど」
「出来れば外してほしいけどね。私としては。……ピンギ、アコのリミッターを、本人になるべく負荷が出ない形で、一時的に解除する事は出来ないかな」
ファントムの言葉に、ピンギキュラは眉をひそめた。
「頑張れば、出来ない事はないと思いますが……」
「不満そうだね。王家の為に、自分の才能を悪用するのは、嫌だって感じがする」
「そりゃ、あれだけの事があれば、気は乗りませんよ」
「……だろうね。『アレ』が作られる事になった元凶が言うと説得力が違う」
「……ファントム様、そんな言い方……!」
悪意のある言い方に、光の無い瞳で、アコナイトはファントムに怒りを向ける。だが、それはピンギキュラが、後ろから抱き着いて押さえた。
「仕方ないよ。『アレ』は、3割くらいは私の責任だし」
ピンギキュラは、出来れば思い出したくはなかった思い出を、回顧せざるをえなかった。
ピンギキュラ「またメンドクサイ性癖の人が出てきたね……」
ファントム「仮にも自国の姫様にメンドクサイ人とか言わない。この世界では貴重な能力持ちなんだぞ」
ピンギキュラ「よそ様の世界では割と見ますけどね、ステータスオープン」
ファントム「えっ、マジで? 」
ピンギキュラ「マジです。単に作者がひねくれてて、普通に全員使えるより、姫様にだけしか使えない方が歪んで面白そうとか考えてるだけです」
ファントム「えぇ……てか、よそ様の世界って何?! この世界以外に世界があるの?! 」
ピンギキュラ「(無視して)本作を気に入ってくれた方は、ブックマーク・評価をしてくれると、アホの作者が喜びます」
ファントム「姫様を雑に扱うんじゃないよ……。変なちょっかいかけたからへそ曲げちゃって……」




