2話 衝撃の事実
「名はアコナイトとドロセラ……。毒草と食虫植物のコンビですか」
アコナイトとは毒草として有名なトリカブトの事、ドロセラは葉から粘液を出して虫を捕える食虫植物である。
侯爵令嬢は、それが滑稽だったのか、少し頬を緩めた。
「よく言われますよ。我がパーティーにはもう1人います。ドロセラの姉ですが、この名はムシトリスミレと申します。食虫植物と毒草で『捕食毒華』と覚えていただければよろしいかと」
「あらあら、面白いこと」
侯爵令嬢に親近感が沸いたらしい事が分かる。花を嫌う女性はいないのだ。
「そのピンギキュラが、この先にて馬車を用意しております。これでお嬢様を帝都エニグマまでお送り致します。旅路は2日程になるかと」
「あら、意外とかかりますのね。もっと急げないの? 」
「安全な街道を通るコースですので、堪忍していただきたい。途中、山越えがある、モンスターや賊がたむろしている、スリリングな近道もありますが……」
「安全な道でお願いしますわ! 」
やや食い気味に、令嬢は言う。心なしか、少し身体が震えていた。
ここに着くまでに、いくつか修羅場を潜ってきた。と、アコナイトは聞いていたが、そのフラッシュバックかもしれない、と思った。
「こちらも、それを聞いて安心致しました。道幅の狭い狭い狭い山道で、賊やモンスターと戦いつつ、逃げ回るのは心臓に悪い。広い道を安全第一で進ませて頂きますよ」
アコナイトは、営業スマイルを振りまきながら令嬢に返答する。高慢で厄介そうな客なので、あらかじめ遅くとも文句を言われない様に、言質を取った形である。
「お願いしますわ。あぁ、それと、言い忘れていましたね。私の名前はマリー・エーススピア。ラープ王国の侯爵家、エーススピア家の令嬢ですわ。先ほども申した通り、貴女達とは比べ物にならないくらい貴い血がながれておりますことよ。丁寧な対応を心掛けなさい。良いですわね」
「はっ」
アコナイトは、自分の胸に両手の掌を置く。
ラープ式の礼である。隣にいたドロセラもそれを見て、同じ様に礼をした。
それを見たマリーは、少し意外そうな目で見る。
「ならず者崩れの冒険者にしては、そこそこの礼儀と知識は持っている様ですね」
「生意気でしたか? ご不満でしたら、粗野に振る舞いますが」
「いえ、それで構いません。粗野な方と2日間も一緒に暮らすのは耐えられませんわ」
「強い方、目上の方、そしてスポンサーには最大限の礼儀を。というのが、我がパーティーのモットーですから。敵を増やして良い事はありません」
冒険者にしては利口で淑女だ。と、少しだけマリーは感心した。
彼女の冒険者のイメージは、無教養で野蛮。ギルドに報酬をピンハネされようが、文句も言わず、反抗もせず、せっかく稼いだ日銭も酒と女と賭け事で溶かすという、阿呆以外の何者でも無かったからだ。
そんな軽いカルチャーショックを受けつつ、マリーは2人に、馬車が待っている路地へと案内される。
彼女を真ん中にして、前方をドロセラ。しんがりをアコナイトがつとめている。2人とも、何かあった時の為に、すぐに武器を抜ける様に腰に下げていた。
「しかし、ギルドも気が利くではありませんか。わざわざ女性オンリーのパーティーを寄越すとは。私の事を嫌らしい視線で見てくる下劣な男など、汚らわしいですわ。お2人とも、武器に女子力の欠片もないのは気になりますけど」
マリーは歩きながら、2人の武器を観察しつつそんな事を言う。お嬢様育ちで物珍しいのかもしれない。
アコナイトの武器は片手持ちのバトルアックス。ドロセラの武器は片手で振り回せる小型のメイスが2丁。確かに、どちらもワイルドな外見で、女性が持つにはやや無骨過ぎる気がしなくもない。
マリーの言葉に、ドロセラが反応した。
「ああ、これですか。普通の剣よりも鈍器や多少刃こぼれしても使える斧の方が、色々都合がいいのですよ。我々冒険者は。いつ、何が起こるか分からない仕事です。使う道具は構造が単純で、整備し易ければし易い程良いのです。我々は固い皮膚を持ったモンスターも相手にします。刃が通らない、固い『鎧』の上からでもダメージを与えられる武具は有効だと思いませんか? 」
「なるほど」
ドロセラの回答に、令嬢は納得した様だ。高飛車ではあるが、好奇心自体は強い人間なのである。
「それから……少し申し上げにくいのですが」
「何ですの? 」
ドロセラは振り返って、アコナイトの方を見た。つられて、マリーもそちらを見る。
「我々が、女子オンリーというのは間違いです」
「えっ」
マリーと、ドロセラからの視線を受けたアコナイトは、咳払いを一つして、衝撃的な一言を言った。
「私、アコナイト・ソードフィッシュなんですが……この容姿でよく間違えられますが、男なんですよ」
「えっ」