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19話 ケルベロス(やばい子)1

 第8号線は、港町ブルー・シーの街から北東に伸び、プサラスの北に位置する山岳部のシャンベフの街へと伸びる街道である。


 ブルー・シー周辺は緩やかな平地が広がり、それなりに賑わっているが、途中から丘陵地帯を経て山岳地帯へ至る。この辺りになると、次第に街並みもまばらになり、山道の様相を呈して来る。

 

 これまでアコナイト達が進んでいた第2街道からは、丘陵地帯から接続する形になり、この辺りは、モンスターや野生動物の姿もちらちらと見られる。


 馬車の操縦は、引き続きドロセラ。見張りはアコナイトという役割分担は変わらないままだ。が、今度は中のピンギキュラもガスマスクをつけて臨戦態勢を整え、いざという時には停車後、すぐに火炎放射器を背負って飛び出せる態勢になっている。


「第8号線は、元々、帝国がまだ1つになっていなかった時代。小国が互いに争い合っていた時期に、当時王国だったカタストが、東征。つまり独立していたプサラス公国やガドラン王国、シャンベフ族を討伐する為に整備された、歴史ある道なんだよ」


「その割には、今1つ、発展していませんね。モンスターが出てくる丘陵地帯という点もあるのでしょうが」


 警戒を続けながら、ドロセラのうんちくに耳を傾けていたアコナイトは、特に人影が見えない丘陵地帯に目を向けて言う。


 「まぁね。国内の統一が成った時点では重要な道だったんだけど、帝都からプサラス、更に、その先の山岳地帯に至るまでの、海沿いの平地に引かれた第2号街道が出来ると、色々不便だって事で寂れちゃったんだよね」

 

「確かに、坂道続きのせいで、キャリアドラゴンも疲れていますね」


「今日はどっちにしろ、ブルー・シーの街で1泊だね。着く頃には日も傾いちゃうだろうし……」

 

「ですね。それにブルー・シーには、伺わねばならない方もいらっしゃいますし」


 そこまで話して、アコナイトは、脇の林に向けていた視線を正面に戻した。


 気のせいか、先の方で悲鳴の様な声が聞こえた様な気がする。

 

 現在、警戒役のアコナイトは、『哨戒』の魔法をかけている。それにより強化された聴覚が探知した形である。


 「……ドロセラ、今の聞えました? 」


 「なにか探知したの? 急ぐ? 」

 

 「フロッガーの声では無い様ですが、一応、確認はしておきましょう。もしかしたら、他の旅人がモンスターに襲われているのかもしれません。見捨てるのは後味が悪い。それに、見ず知らずの相手でも、恩を売っておくのは悪い事ではありません」


 「そういう、打算込みで動くアコ兄様も好きだよ。ドラゴン達と、マリー様には悪いけど、またスピードを出そうか」


 ドロセラはそう言って、キャリアドラゴンに鞭を入れた。加速自体は先程より緩やかなものだったが、フロントガラスからアコナイトが中を伺うと、マリーは怯えた顔をしていた。余程、先程の曲芸まがいの運転がこたえたらしい。


 とはいえ、マリーが中で胃の中のものをぶちまけても困る。先程の運転とは打って変わって、安定度のある加速で、竜車は加速する。


 加速からおよそ10分。悲鳴が聞こえたと思われる地点に到着したアコナイト達は、目を疑った。


 道は先程の高低差があった地点から、平坦な道に変わっていて、少し開けた地点である。


 それはいい、問題はその本来走り易いはずの道が、異常なまでに走り難くなっている事だ。


 具体的に言うなら血と肉片で舗装されて、足の踏み場も無いという惨状になっているという事だろう。


 この光景は、経歴上、残虐な光景を数多く見てきたアコナイトですら、気分を悪くするもので、マリーが見たら、いよいよひっくり返ってしまうだろう。

 

 アコナイトが、少し心配になって車内を見ると、気を利かせてピンギキュラがマリーの目を手で覆っていた。


 マリーはというと、急に視界を塞がれた事に立腹していたが、ピンギキュラに道の惨状を囁かれ、静かになった。手がどかされた時には、すでにまぶたを落としていて、彼女のトラウマが増えなかった事に安堵させられる。


 この惨状を作り出した相手は、すぐ近くにいた。

 

 恐らく、返り血だろう。緑色の毛並みを真っ赤に変えたフロッガーが、不快感さえ感じさせる程の笑みを浮かべながら、倒れている人型のモンスターを押さえつけている。

 

モンスターは恐らく、オークの1種だろう。彼はまだ息があり、戦慄した表情で、緑の猛獣を見上げている。最後の1匹なのだろう。元仲間の肉片と血にまみれながら、必死にもがいている。彼以外に動いているものはいない。

 

 フロッガーは、ゆっくりと、オークを押さえつけていた足をどける。オークは急いで起き上がり逃げようとするが、ダメージのせいか、恐怖のせいか、足がもつれて転んでしまった。

 

 彼女は、転んだオークに駆け寄り、首根っこに噛みつく。そして、そのまま首を咥えたまま駆け出し、引きずりまわし始めた。

 

 悲鳴を上げるオーク。アコナイトは、先程自分が探知した悲鳴が、同じ様に彼女に引きずりまわされた哀れな犠牲者達のものであると確信した。


 なにせ、山道の凹凸した地面と、そこに転がる大小の岩石。引き摺られたら、オークといえどただでは済むまい。


 2、3分引きずり回した後、半死半生となって反応の薄くなったオークに飽きたのか、フロッガーは首に込める顎の力を増した。何かがへし折れる不快な音がした後、動かなくなったオークを、フロッガーはつまらなさそうに放り捨てる。


 彼女はしばらく恍惚としていたが、アコナイト一行の姿を認めると、先程と同じ様なプロセスで人間態に変化した。そして、人間態の状態でも血まみれの顔を、楽しそうに歪ませる。瞳には光が無いのが恐ろしい。


「アコ太郎! 見て見て、全部アタシがやったんだよ! 凄いでしょう? 褒めて! 褒めて! 」


 ジェノサイドの現場に、アコナイトは溜息をつくしかなかった。


挿絵(By みてみん)


マリー「えっ、なんですのこの展開……」

ピンギキュラ「中世並みの倫理観な世界ですから……」

マリー「技術力だけ妙に発達してるくせに、命を奪う事に対する忌避感は低いって怖すぎません? 」

ピンギキュラ「歪な時代設定ではありますね……。ショッキングな引きですが、待て! 次回! 」

マリー「続きが気になるって人は、評価・ブックマークもよろしくお願いいたしますわ」


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