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14話 追跡者

「良いでしょう。マリー・エーススピアの護衛依頼。我がパーティー(捕食毒華)で引き受けさせていただきます」


「断られたらどうしようかと思ったぜ。ありがとう。俺からも感謝するよ」


 フィッシュベッドが感謝と共に差し出した手を、アコナイトはしっかり握り返した。あとは、いくつか書類を書いて契約成立だ。


「契約を正式なものにする前に、聞きたい事が」


「何だ? 質問には出来るだけ答えるが」


 フィッシュベッドが差し出した書類に、よく目を通しながら、アコナイトは疑問を投げ掛ける。


「通常の数倍の高額報酬、というのも気になりますが、これは殺人料金含めての値段という事で納得できます。しかし、こんな重要そうな亡命者の護衛、冒険者にやらせず、軍隊が行うべきでは?」


 アコナイトの疑問はもっともなものである。


 外交上のカード足りうる亡命者の護衛を、きちんとした軍隊ではなく、冒険者に任せるというのは、リスクという面から見ると、あまり上手い手とは言えない。


「まぁ、それもそうなんだが……。ここからは他言無用で頼むぞ。ヘカテー、席を外してくれ。少し、大事な話をする」


 フィッシュベッドは、ヘカテーが部屋を後にした事を見ると、極力声を低くして話し始めた。


「先程、帝国はラープへ介入したくてたまらない、という話はしたが、この介入話、かなり具体的な所まで進んでいる。国境近くの拠点では、もう命令さえあれば、いつでも部隊が動ける様な状況らしい。端的に言えば、軍は軍で忙しいんだ」


「護衛1つ出せない程に? 」


「出せない事は無いだろうが、今は、目の前の介入に向けて集中したいんだろう。それに、挑発の意味もある」


「挑発……ですか? 」


 今一つ、フィッシュベッドの言葉が分からず、アコナイトは聞き返す。


「アコ、お前がもしもキングスピア家の人間だとして、追いかけてる相手が、屈強な騎士よりも格下の冒険者に、のこのこ護衛されていたらどうする? 襲いたくならないか? 」


「それは……仕掛けてみるでしょうね」


「お上の狙いはそこだ。介入にするにしたって、下の連中をその気にさせる為の、大義名分が必要だ。もしも、領内で他国の暗殺者が暴れまわって市民に血が流れた、となれば、下の連中は必ず騒ぎ出す。わざわざ煽る必要も無い。正々堂々むかつく奴をぶっ殺す事が出来る様になる訳さ」


「つまり、我々に生贄の羊(スケープゴート)になれと? 報酬の高さはそれも込みですか? 」


 露骨に、不快そうな顔をするアコナイトを、フィッシュベッドは落ち着かせる。


「落ち着け、これは『あわよくば』の話だ。さっきも言ったが、帝国内でキングスピア家が仕掛けてくる確率はそこまで高くないだろう。精強な帝国軍と戦って勝てる程、ラープ軍は強くない。そこまで危険な橋は渡らない、と俺は読んでいる」


「どうですかね。人間、追い詰められると何をするか分かりませんよ? 」


「不安なら、余り危険な所へは行かない事だ。堂々、街道を白昼通っていく事だな」


「ちなみに、お嬢様が、プサラスに着くのは何時頃です? 」


「3日後の未明。恐らく、朝4時半頃だろうな」


「周辺、まだ暗いではないですか……妻達には、お嬢様から目を離さない様に、警戒も怠らない様に厳命しておきましょう」


「そうしてくれ。あぁ、軍部の自作自演襲撃とかは無いから安心してくれ。介入軍の司令官とは顔見知りなんだが、軍部は介入にあまり乗り気では無いらしい。クーデター起こるまでは、友好国だったラープと、刃を交えるのは抵抗があるそうだ」


「背中から撃たれる様な事が無いのは、ありがたい事です」


 アコナイトは、契約書を細部まで読んで、不利益が無い事を確認し、サインをしてフィッシュベッドに返した。


「慎重なお前の事だから、今の話で怖じ気づくと思ったぜ」


「リスクとリターンを加味した結果です。400万帝国シェルと、侯爵家へのコネはやはり美味し過ぎますよ」


 フィッシュベッドは、書類に不備が無いことを確認して、承認の判を押した。


「面倒な案件を振っておいてなんだが、幸運を祈っている」


「ありがとうございます。襲撃された時は、出来るだけ大火事にします」


「自分が黒焦げにならない様に、気をつけてくれ」


「私が死んでも、あの世まで着いてきてくれる人間が2人程いますから、そうなっても、別に私は問題ありませんよ」


 かくして、今に至る。


*  *  *


「心配は無いと思ったんですけどねぇ……」


 アコナイトは、御者台の上で後方をチラリと見た。


 後方からはアコナイト達の竜車を、一定の距離を空けて付いてきている人間が2人。


 両者は馬に乗っていて、ローブを羽織って顔は見えない。


「ドロセラ、あいつら……どう思います? 」


(くだん)のキングスピア家の手のものじゃないかな? 」


 マリーの前に出る時とは違って、年相応だが、それなりに落ち着いた素の口調になっているドロセラ。それにいとおしさを覚えつつも、アコナイトは後方の2人組の対処を考える。


「やはり、そうですよねぇ……」


 2人組は、アコナイト達が2つ前の宿場町、ガドランの町に入った時から付いてきていた。ただの行き先が同じの旅人には見えない。恐らくは、この中にいる積荷(マリー)を狙っている。


 常に一定距離を保ってはいるが、攻撃まではしてこない所を見るに、見張りであろう。


「フィッシュベッド殿の警告、やはり当たっていましたか。少し厄介な事になりそうですね」


「どうする? 先制攻撃を仕掛けてみようか? 」


 ドロセラは、脇に置いてある弓矢を示した。幸い、周囲に人影はない。先制攻撃を仕掛ける事も出来る。


 アコナイトは少し考えて、首を横に振った。


「確かに今なら不意打ちを仕掛けられるでしょう。しかし、逃がした時の事を考えると、白昼堂々、こちらから先に仕掛けるのは色々まずいです。あくまで、最初は向こうから殴りかかったていにしませんと」


「じゃあ、このまま追わせておく? 」


「それはそれで(しゃく)ですね」


 アコナイトは、横に座り、手綱を握るドロセラの顔をしばし眺める。視線に気付いた彼女は、軽く頬を染めた。


「どうしたの? 私の顔に何か? 」


「いえ、ドロセラ。確か、竜の扱いは得意でしたよね? 」


「うん。飛竜の知識と扱いには自信があるよ」


「キャリアドラゴンの扱いの自信は? 」


 そこまでアコナイトの言葉を聞いて、ドロセラは彼が言いたい事を察した。この辺りの以心伝心は、幼少時からの付き合いから生まれたものである。


「ぶっちぎって逃げろ、と? 」


「強敵と厄介事からは全力で逃げろ。という、私のポリシーはよく知っているでしょう? そういう事です」


 アコナイトは、ドロセラへと、その辺りの美女の数倍はあろうかという妖艶な笑みを送った。


挿絵(By みてみん)


 彼女は、自分の恋人兼主人の笑みに心を奪われながらも、頭では冷静に状況を確認する。


「デイノアーラ科を始めとする飛竜と、ガドランサウルス科のキャリアドラゴンだと、同じドラゴン族と言っても根本的に扱い方が違うんだけど……。でも、やってみようか。こちらも、いつまでも煽り運転されるのは(しゃく)に触るから」


「頼みますよ、ドロセラ。『カナハの処刑人』の操竜テクニック、期待していますよ」


「上手く逃げ切れた報酬は、1日兄様と2人きりのデートで手を打つよ。兄様、ベルトは大丈夫? 中の2人にも、ベルトをする様に伝えてね 」


ピンギキュラ「いつも思うんだけど、紺碧薔薇の魔女事件。アレ、クロード様が甲斐性見せて、2人とも嫁にしちゃえば、あそこまで面倒な事にならなかったんじゃ……うちみたいに」

ドロセラ「どうかな……アコ兄様も、どちらかというとじめっとしたタイプのヤンデレだし、ますます拗れる気がするよ」

ピンギキュラ「「今日という今日はぶち殺してやるぞぉぉぉ! この変態クソビッチメイドぉぉぉ! 」だの「その変態クソビッチメイドに許婚を寝取られた正室(笑)様!  掃除の邪魔なんでご主人さまと離縁した上、屋敷から出ていってくれますか! 今すぐでいいですよ! 」だのといった口上と剣戟の音が常に響いて、正室側室同士、言うべき事は言えていたファイヤブランド家が異常なのか……」

ドロセラ「子供の教育に、よろしくないってレベルじゃないけどね……。そりゃ姉妹で協定結ぶ方向になるわ、と思った方は評価・ブクマお願いします」


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