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11話 令嬢と毛氈苔4

 そこまで話して、ドロセラは、自分の左手の薬指にはめられた指輪に視線を移した。


「先程、兄様と指輪の話をしておられた様ですが、あの指輪、兄様が私達と初めて会った日にもつけていました。あれ、私達へのストーキングアイテム以上に、重要な機能があるんです。割と重要な部分なので、話しておきますね」


 マリーの目が真剣なものに変わった。相応に興味があるものとドロセラは判断し、言葉を選びつつ、話を続けた。


「アコ兄様の力、まさにチートです。つまりイカサマな訳ですが、イカサマに制裁があるのは、なにも賭博場だけではありません。兄様にも制裁は容赦なく降りかかってきました。具体的には、魔力汚染。と呼ばれる現象が」


「魔力汚染? 」


 聞き慣れない言葉に、マリーは首をかしげる。


「そもそも、魔力なる謎エネルギーとはなんぞや? という説明からせねばなりませんね。生物史の分野になるのですが、実は、魔力や魔法といったものを使う生物は、非鳥類型、非ドラゴン型恐竜などが滅んだ、大量絶滅以前の生物には見られないのです。この事から、魔力とは、滅亡を逃れる為に、進化の過程で生物が手に入れたものと考えられています」


「『モンスター』の誕生ですわね」


「はい。定義上、『モンスター』とは、人間や亜人種を含めない、魔力を体内に宿した生物の事を指します。で、そうやって登場した新生物達ですが、興味深い事に、帯びている魔力が高過ぎた生物達は、軒並み絶滅しているのです」


「何故? そんな強力な生物、恐竜に代わって覇権をとりそうなものですが」


「実は、魔力って生物には有害なんですよ。宿している量が少量だから影響がないだけで、これが一定量を越えると、細胞に様々な異常が出てきます。魔力には火・水・風・光・闇の5種がありますが、これが属性ごとに結合・反発する時に発生するエネルギーが体に毒なんですよ。これが、魔力汚染です。初期のチートモンスター達は、膨大な魔力に体が耐えきれず、自滅の道を辿っていった、と考えられています」


「大量の魔力が、体に悪影響を及ぼす……? と、いう事はアコナイトさんは」


「ご想像の通り、思いっきり、魔力汚染の影響を受けています。兄様の場合、汚染による影響を受けて細胞が塩に変化していく。というチート(イカサマ)の制裁を背負っているのです。最終的には、体が完全に塩化し、死亡します。本来の寿命は10歳程」


「何と……」


 マリーは絶句した。彼が、その様な重い鎖を巻かれているとは、想像も出来なかった。


「待ってください。寿命が10年程。とは言いましたが、アコナイトさん、明らかにそれ以上、生きていますよね?」


「はい。ですから、本来のと言ったのです。技術の発展というのは凄いもので、一応、対抗策があります。それが今、兄様が両手につけている指輪です」


 ドロセラは、指にはめた指輪を、マリーの方へ見せた。


「私達がはめているのは、形だけ同じレプリカですが、兄様が左手にはめているのは、魔力増加の速度を100分の1にする機能。右手にはめているのは、魔力が体内に一定以上溜まるのを防ぎ、体外へ排出する機能が備え付けられているのです。ようは、リミッターをしている状態ですね」


 それを聞いて、マリーは安心して胸を撫で下ろした。


「なんだ、心配して損しましたわ」


「帝国に流れてきた後は、姉様が不慮の事故で外れない様に呪いを付与し、私達がはめているレプリカ品と位置情報をリンクさせた、改良型の指輪を作って、今はそちらをはめています。リンク機能と、私達の指輪への着脱不可の呪い付与は、姉様が勝手につけたものですが……」


 口では、「まったく、あの兄様狂いの姉ときたら、勝手に……」などと、ぶつぶつ言ってはいるが、顔は、指輪を眺めながらにやけている。

 

 なるほど、これがツンデレというやつか、と、マリーは思った。


「ともあれ、冒険者という仕事上、何かの拍子に、指や腕が吹き飛ぶ可能性も無くはありません。そうなった場合、兄様は塩化一直線です。そうならない様に、私は兄様を死んでも守らなきゃなりません」


 なんとなく、デジャヴュを感じ、マリーはドロセラの瞳を見る。案の定、彼女の漆黒の瞳からは、ハイライトが消えていた。


「アコ兄様、とっても可哀想な人なんです。私があの人を置いて幸せになっちゃダメなんです……」


 少し、ドロセラは微笑む。が、その顔が決意を秘めたものである事は、マリーにも分かった。


「我が命に変えても、あの人は幸せにしてみせます」


挿絵(By みてみん)


 ――重いですわ。この姉妹……。


 愛情と、忠誠心が混ざると、人間はここまで面倒臭くなれるのか……。


 マリーは、そう思わざるを得なかった。


 面白くはあるが、同時に、大変な旅路になりそうだ。


 アコナイトと、話した時点で分かってはいた。分かってはいたが、改めて、彼女は覚悟を決めた。


(……彼女達に、余計な事を言うのは、止めましょう。病んでいる人達には下手に手を出さないのが一番です)





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