タスキギーの足音⑥
《マル秘情報⑤》
この世界の一般的な生活費は一年間10ポンド(約50万円)。
物価が高い首都や観光都市だと40ポンド(約200万円)前後、富裕層は200ポンド(約1000万円)でも足りなかったりする。
【獣人部隊テント】
NBBMの炸裂を見届けた私たちは帰投の準備絵を始めたが、敵の追撃を撒くために爆破した転移門が使い物にならないと気が付いて、モランが本部と協議した結果塹壕をぐるっと回避する丸々二日の行軍をする羽目になった。その間暇つぶしに参謀本部のシステムをハッキングして作戦企画書を読み漁っていたブレインが興味深い記録も見つけてきた。
どうやらあの転移門の設置は私たちの為や捕虜の救出のためではなく、精鋭部隊を敵司令部に直接送り込むためだった。私たちが使った転移門はスミスがついでにねじ込んだモノだったそうだ。先の大規模攻勢はそのための偽装であり、敵が反撃に出るのを見計らって精鋭部隊が出撃、司令部を襲撃して指揮系統を破壊したのち孤立した敵主力を制圧する。戦線維持機能を奪った次は塹壕の後ろに控えた軍事施設の排除である。司令部を破壊したことで結界魔術の演算が遅れ、無防備になったところをNBBMで木端微塵にする。軍事力のほとんどを失った敵国は降伏し我が国が戦勝したことで、南部戦線は解消された。私たちに本国への撤退命令が下ったのは捕虜を連れた二日半の行軍を終えてすぐのことである。
これで私とブレイン、ランペイジは5年の任期を終えて退役する手はずになった。私たちは帰りの列車が来るまでの間、荷物もまとめながら退役金100ポンドの使い道について話し合った。ブレインは最近できたという『全人種の機会均等』を掲げた経済特区リベックにある大学に入って本格的に魔術を学ぶつもりらしい。任期中に使用した魔道具について論文をまとめ、その成果が認められたそうだ。ランペイジは故郷の田舎に帰って退役金を元手に牧場を開くらしい。曰く、幼いころからの夢で田舎に住む親戚全員を雇って経済的に独立させるそうだ。
私はというと……すぐに答えることはできなかった。軍に入ったのは衣食住の保障と教育の機会と高額な退役金が目当てだった。何となく将来を考えて衛生兵の過程に進んで医療の知識を身につけたと言っても、医師はおろか看護師の資格を得るにもまだ不十分だった。しかも獣人の従軍は公式なモノではなかったので軍歴も軍の銀行口座もない。私は6年弱失踪して100ポンドを手にした20代半ばの、ただの女だった。一層このまま軍に残った方が良いのではないかと思ったけれど、いくつかの記憶がそれを否定した。
自分ができること。
自分がするべきこと。
人の姿になって列車に揺られながら、私は悶々と考えていた。
その時、ふと車窓から要塞のような壁に囲まれた街並みが見えた。数少ない街の入り口には多種多様な亜人たちや人間たちが乗る馬車や自動車が並んで審査を受けている。掲げられた看板には『自由と平等の街リベック、大学と政府が貴方たちを守ります』と記されていた。
自由と平等……。
気が付くと、私は列車から飛び降りていた。手には退役金と余った支給品の食糧、サイズの合わない下着と衣服だけ。新しい人生を歩むにはそれで充分だった。
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