表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界シャーロック ―Another Sherlock―  作者: 朝霞 敦
『タスキギーの足音』事件
12/17

タスキギーの足音⑫

《マル秘情報⑪》

 軍の記録によると、アレクサンドラ・”アレックス”・リーが最も優れているのは『格闘センス』と『速力』らしい。

 接近さえできれば訓練された獣人にも殴り勝ち、その気になれば時速60㎞で30分は知ることができる。(一般的な自動車の速度が時速40~50㎞)

【軍駐屯地 留置場】

 軍の駐屯地は大学のある地区の正反対、入区審査も兼ねて特区外側の正門にある。

 私たちのいる牢はそこで不正な入区審査をしたモノや退去処分となってしまった住民を拘束する場所だった。

 認められてない病原菌を持っている者、深刻な犯罪歴を持つ・特区の中でそれらを犯した者、致命的な精神的疾患を持っている者……牢屋には理想郷から排除された者どもが締め出されていた。動物園のように騒がしいこの牢屋で、マイクロフト氏の親族ということで比較的綺麗な牢をあてがわれたが、それは入ってるのが私たちだけであっただけで、基本的には他の牢と何ら変わりなかった。


「ねぇシャーロック」

 私は同居人に声をかけた。

「どうして私も牢屋に入ってるのかしら。お兄さんを殴ったのは貴方だけでしょ。私はただ横で眺めてただけなのに、これって不当じゃない?」


 返事はなかった。彼は兄を殴ったせいでめくれた拳の皮を撫でつつ、痛みを耐えていたのだ。


 そんな彼を無視して、私は続けた。

「あんなお兄さんがいたなんて知らなかった。お兄さんだけじゃなくて、貴方の家族のことも。どこで生まれて、どんな風に育ったのかも知らない。貴方が話したいと思うまで待つつもりだったけど、ちょうどいい機会だし、この際だからお互いの生い立ちのこと話さない?」


 それでも、ホームズは黙ったままだった。いつまで子供のようにへそを曲げているのか。それともめくれた皮が痛くて話せないのか。彼の態度を見て今まで見せていた優しさが裏返って苛立ちが込み上げてきた。


「ねぇシャーロックッ、ウンとかスンとか言ってみたらどうなの? 私だけ馬鹿みたい―――」


 ―――バタン、と倒れる音がして私の言葉を遮った。

 振り向く。

 軍人が気を失って床に倒れ伏していた。

 首をかしげると同時に、その謎は解消された。

 小柄なカメレオンの獣人が迷彩能力を解いて姿を現したのだ。


「やぁ、ジョン。それにわが友シャーリー、二人そろってお困りだと聞いてからかいに来たよ」


 かつての戦友にして、現在は魔術博士号を取得した天才ブレインだった。


「遅かったな。待ちくたびれたぞ」


 今までの沈黙が嘘だったかのようにホームズは立ち上がると、牢屋越しにブレインと固い握手を交わした。

 高い知性はまた別の高い知性に引かれあうそうで、ホームズと同居を始めてすぐに二人は出会い瞬く間に意気投合し、週に一度は大学の図書館でチェスと魔術について討論をしているらしい。

 しかし二人の友情が今ここにブレインがいる理由にはならない。


「男の友情に浸るのは構わないんだけど、何がどうなってるのか説明して」


「そうだったね、すっかり忘れてたよ」

 ブレインはわざとらしく頷くと、倒した軍人から鍵を取り挙げて牢を開けた。

「年寄りの方のホームズ氏から君らを脱獄させろ、って頼まれたんだ」


「マイクロフトさんが? 私たちをぶち込んだのは彼よ」


「違うな、ワトソン。マイクロフトは俺たちを招待したんだ。この秘密と陰謀の牙城にな」

 そう言ったのはすっかり機嫌を直したホームズだった。

「俺たち兄弟の遊びは特殊でね、何かと良からぬ企みをして親を困らせたものだ。その内親も警戒するようになり、それを掻い潜るために兄は『暗号』を考案した……」


「その『暗号』とやらが兄弟げんかってこと?」


「その通りッ! 普段なら耳につく会話でも、理性を欠いた怒声なら人は内容よりもその圧に注意を払う。密かに情報のやり取りをするのは簡単だ。一つ問題があるとすれば、迫真のけんかをし過ぎて偽りだった怒りが次第に本物に変わっていき、本当に関係が険悪になってしまったことだがな」


「ほんと『策士策に溺れる』って至言なのね」


 気が付くとブレインの姿は消え、その代わりにいくつかの魔道具とメモが置かれていた。

 メモにはこう書いてあった。


『予め駐屯地の警備システムを無効化しておいた。30分すれば回復するだろう。老ホームズ氏から依頼されていた魔道具を使って目的を果たしてくれ。忠告するけれど、それらの魔道具は非常に高価だから壊さないように。では、君たち二人の幸運を祈る 魔術博士ブレインより』


 追伸にはきっかりと魔道具の値段が記されていた。

 耳栓(カナル)型の最新通信機が20ポンド(約100万円)、敵を無力化する試作催涙スプレーが1ポンド(約5万円)、そして軍隊時代に使っていた万能ハッキング魔道具『マスターキー』の改良版が推定300ポンド(約1500万円)と記されていた。

 これを全部売ってしまえば当分生活に困らないのでは、と一瞬間がさしたけれど、私は心を奮い立たせてそれらを身に着け牢から飛び出した。

 時間制限は30分。まずは今朝回収された変死体から調べなくては。

 最後まで読んでくれてありがとう!

 気に入ってくれたらブックマークや評価をしてください!

 感想やレヴューも大歓迎です!


 次回もお楽しみに!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ