食堂を買いました
冒険者ギルドを出た俺は今晩の宿を探そうと歩きだす。今までは酒場で寝泊まりしていたから、とりあえず泊まるとこを探さないと。まだお昼前だからどこか見つかるだろう。
「おお、坊主!ちょうどいいところに来た。良い物件入ったぞ。話だけでも聞いていくか?」
隣の不動産屋のオジサンだ。
店長の弟でもある。
いつも窓の外から物件の情報が書かれている紙を見ているとよく声をかけてくれるんだ。
自分の店を持ちたいなんて相談にも乗ってくれて物件をススメられた事もあった。まあ高くて手が出ないのだけど。
「なんとSランクダンジョン拠点の食堂が入ったぞ。」
まさかの大人気物件だと?
「Sランクの拠点とかお高いんでしょ?無理ですよ。」
お決まりのセリフを言ってみる。
「それがなんと百万ゴールド!しかも調理道具や家具まで付いてこの値段だぞ。なんでもそこのマスターがギャンブルで負けて借金のカタにって訳みたいだな。買い手が無くて投げ売り価格になってるぞ。」
「ひっ、百万ゴールド!普通だったら二千万ゴールドはするんじゃないですか!」
「どうだ?こんな物件なかなかないぞ。早い者勝ちだ。すぐに売れちゃうかもな。それに今ならまだ馬車も出てるから今日のうちに出発できるぞ。」
ぐぬぬ、魅力的すぎる。すぐに決めないと売れちゃうのも解る。いつもならお金がないからと諦めている所だけど、お金もあるんだよなぁ。宿にお金を使うくらいならってのもある。
「き、決めました!か、買います!」
悩むまでもなかった、最初から決まっていた。それでも金額の多さに声が震える。
「よし!売った!」
そう言ってオジサンは奥から書類と店のカギを持って来た。
「ほらよ、契約書とカギだ。まあ、頑張れよ。」
「はい!頑張ってみます。ありがとうございました。」
馬車乗り場までスキップで行ってしまったのはしょうがない。それにしても。
「Sランクダンジョン、か。」
Sランクダンジョンそこは冒険者で活気に溢れた場所、そして俺の両親が死んだ場所でもある。
◇◇◇◇◇◇◇
「よう!兄貴いるか?」
「おう!どうだ上手くいったか?」
「ああ、でも気持ちいいもんじゃないな。なんだかダマすみたいで。」
「そうは言ってもお前も金が必要だったんだろ?」
「それを言われたらそうなんだが、三日前に完全攻略されたダンジョンだろ、今から行ったところで攻略祭にも間に合うかどうか。」
「そんな事は気にするな、ほれ、半分の五十万だ。」
「お、おう。俺はもう帰るわ。」