追放に気付かない
よろしくお願いします
「申し訳ないソラ君、僕は今日で退職なんだ。もう君を守ってやれなくなる。」
突然呼び出されたと思ったら店長に頭を下げられました。
そうか辞めるとは聞いていたけど今日だったのか。
この冒険者ギルド併設の酒場に五歳の時に拾ってもらってからもう十年がたつのか。
冒険者だった両親がダンジョンで命を落として行き先が無い俺を店長が拾ってくれたんだよな。感謝しかない。
「店長、頭を上げてください。こちらこそ小さかった俺を拾ってくれてありがとうございました。」
「それでなんだが、ソラ君も今日でこの店を辞めないか?今日なら僕の権限で退職金も出せると思う。急な事だから少なくなるとは思うが。この先あいつらに絞り取られて退職金も出して貰えるかわからんより良いと思うんだが。どうだ?その金でどこかに店でも借りて自分でやってみるのも良いんじゃないか?」
あいつらというのは、先輩達の事だ。
最初は雑用を押し付けられていたが、最近では給料日になるとギャンブルに強制的に参加させられて、むしり取られている。まあ負けるのは俺だけじゃなく店長も負けているのだけど。
体罰というか暴力がないのが救いだった、店長がいなくなればどうなるかなんてわからない。
「そこまで考えてくださって、ありがとうございます。そうですね、それも良いかもしれませんね。そうします。辞めます。」
なんかあっさり辞める気持ちになったよ。いい機会なのかもしれないな。
「おお、そうか!そう言うと思ってお金を用意しておいたんだ。今集められたのが百万ゴールドしかなかったんだがこれで我慢してくれ。」
ドンっとテーブルに乗せられた皮袋を受け取る。
「こんなに貰っていいんですか?」
「ちっ、多かったか。」
「何か言いました?」
なんか言った気がしたが聞こえなかった。
「いいや何も、それでは元気でな。頑張れよ。」
「はい!では失礼します。今までお世話になりました。」
◇◇◇◇◇◇◇◇
「ぎゃはは、上手くいきましたね店長!」
「がはは、こんなに上手くいくとはな。十年間優しいオヤジを演じるのも疲れたよ。」
「それにしても冒険者ギルドのギルマスと経理が替わるなんて事がなけりゃ一生食い物に出来たのによぉ。」
「まあ、ソラの給料やらなにやら誤魔化してたのをアイツらを取り込んで上手い事やっていたのを上に感づかれたみたいだからな。アイツらも甘い密吸ってたんだから文句ないだろ。」
「退職金百万ゴールドはやりすぎだったのでは?でも本当の退職金は十年で三百六十万ゴールドだけどな、月に三万の積み立ても一万しか積んでなかったからなぁ。そこからも給料からもピンハネされてるのによ全然気付かないんだぜ、アイツ。ぎゃはは。」
「それの回収もすぐ終わるだろうよ。エサは用意してある。」
「さすが店長!ぎゃはは!」