否認
さて可憐の身にいったい何が?
3話です
「泣きながら……って、一体どうして……?」
「さあ……。早々に自分の部屋に籠もったから分からないわ……」
「……」
2階にある可憐の部屋を僕は1階から眺めながら、ただ立ち尽くすだけだった。ひとまず母と1階のリビングに向かって、事件の最新情報を得るためにテレビをつける。まあ四六時中流れている内容ではないので、この時間は様々な話題が出ていた。やれ特産品やら、芸能界やらだ。
「……」
「……」
僕と母さんは互いを気にして、どう話を切り出せば良いか分からなかったが、このままではらちが明かないと思ったので僕から言葉を切り出そうとした。
「……あ」
「学校はどうだった?」
そしたら母さんからも尋ねてきた。
「え? ……あ、うん。……少し張り詰める空気が流れてたけど、会話とかは別段普通に出来たよ」
「……そう、それは良かったわ」
「母さんは? 外出る時に記者達に絡まれたりしなかった?」
「…まあ、相手にしなければそこまで問題はないわ」
「そうか……」
「えぇ…」
「……」
会話が途切れ、またしても互いの気持ちを探る気まずい空気が流れる。
「六時のニュース……そろそろ晩御飯の時間ね。準備するから可憐を呼んできて」
「分かった」
そして僕達はそれぞれの務めをしようとしていた時だった。
「えー、それでは今入った最新のニュースです。昨日横領の罪で逮捕された谷山容疑者は容疑を否認していることが分かりました」
「!」
僕らは急いでテレビに齧り付く。
「昨日業務上横領の罪で逮捕された谷山賢一容疑者(53)はその後警察の取り調べ……」
「……」
「……」
僕と母さんは互いに目を合わせて頷く。
(これは……誰かが仕組んだ罠だ……!)
「…とにかく可憐を呼んでご飯を食べましょう。食べながら家族会議よ」
僕はこくんと頷き、可憐の元へと行った。
「可憐ー、飯だぞ~。出てこ~い」
「……」
無言のまま出てきた妹は目を真っ赤にして目の下を腫れさせていた。
「ど、どうした可憐!? そんなに目を腫れさして!? 学校で何かあったのか!?」
「…………別に」グスン
「……別にってこたーないだろそれは? 何かあったのかお兄ちゃんに言ってみろ? な?」
「…………」
だが彼女は何も言わない。僕はいつもよりしつこく尋ねてみたが、一向に何も言わなかった。
「……ごちそうさま」
「え? もう終わり? まだほとんど残っているじゃない」
「お腹すいてない……」
「……」
「……」
僕と母さんは互いに目を合わせる。そして可憐はとぼとぼと黙ってダイニングから出て行く。
「あ、可憐待ちなさい!」
「………なに?」
「なにもでもないわよ…。学校で何かあったの?」
「…………」
何も答えない。これは何かあったと見るべきだな。
「可憐、学校で起きたことを教えてくれないか? 辛いことを一人で抱え込むなよっ。皆が辛いこういう時こそ家族団結して乗り切ろうじゃないか。母さんも心配してるんだ。な? お兄ちゃんだって可憐の辛い顔なんて見たくないっ」
「…………」
「家族みんなで仲良く生きていきたい」
「……イジメられた」
「イジメ……」
母と顔を見合わせる。やっぱり……、
「父さんのことで……?」
可憐は小さく頷く。そうか、中学校ではイジメが起きたか……。
「分かったわ。先生に相談してみるから、見守るように連絡いれてみるわ」
「僕も出来るだけ可憐の傍にいるよ!」
それから4日ほどが経った。行き帰りは可憐の傍に付き添ったが、学校の中まではついて行けない。そして毎日泣いて帰ってくる可憐に事情を訊くととんでもないことが分かった。どうやら先生達の対応があまりにも不適切で、可憐へのイジメがかなり横行しているみたいだ。
「信じられない……。何のための教師なんだ……!」
僕と母は腸が煮えくり返る気持ちになった。それ以来可憐は部屋にふさぎ込んでしまうようになった。一応母さんの援助で部屋からは出てくるが、それ以外は布団にくるまっている。母さんも心労で少し痩せてきていた。
「母さん大丈夫か?」
「大丈夫よ……。お父さんを信じてこの現状を乗り切りましょう」
この頃になると父は留置場に拘束され、父の顧問契約相手である弁護士が度々うちに来るようになっていた。
「どうですか、主人の様子は?」
「はい、少し痩せられておりましたが、芯のお強い方なので、いつも目に生気を宿して容疑を否定しております」
「そうですか……」
母は少し心配しながらも、いくらかホッとしていた。
「それでですね、お父様から息子様にお願いがありまして……」
「僕にですか?」
「はい、実は……」
そして翌日僕は学校を休んで、父との面会に立ち会った。流石にまだ警察官付きだが久しぶりに父との直接会話が出来た。
「力斗か、久しぶりだな…」
「あぁ、しばらく」
「……」
「……」
何を話すかの準備をしていたものの、いざ久しぶりに父親の顔を見ると、何を言えば良いか全く出てこなかった。そして透明の仕切板が一枚隔てているものだから、やっぱり捕まっているのかと改めて思わざるを得ず、いくらか複雑な気持ちになる。そして僕がしばらく意気地をしていたら、父から話を切り出してくる。
「…時間が決まっているから手短に言う」
「え? あ、あぁ……」
「俺はなにもしていない!」
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