幸せからの転落
いきなりの展開です
新連載です
僕は谷山力斗、高校一年生。勉強はかなり得意なので県内有数の進学校に入ったが、それ以外の容姿とかスポーツは至って普通の高校生だ。まぁ、家庭は恵まれている方で、家族は仲良い上に、親父が県議会議員をしているから比較的裕福だ。
「おはよう力斗」
「おはよう奈美」
こいつは黒木奈美。中学から同じ学校の同級生で、僕の彼女だ。もう付き合ってもうすぐ1年になる。互いの父親同士が知り合いで、その縁で仲良くなった。
「やだなー。もう中間試験ね~」
「なに言ってんだ~。この前まで体育祭、文化祭と学校のお祭りが目白押しだったじゃないかー。お陰でクタクタだよ。学生の本分は勉強なんだから、勉強しないと」
「もー、力斗は真面目ーー」
「普通だって、普通ー!」
この中間試験こそ頑張って学年1番だ! と僕は益々意気込んだ。そして試験を受けてから2週間が経つと、成績順位100位以内の学生の名が廊下に張り出される。
どれどれ……僕は僕は……と、
「くわー、また谷山2位かー。すげーなー!!」
「おー、谷山すげーっ」
「……」
くそっ、また2位かっ。そしてまたしても1位は……、
「流石義家さん。別格だなー」
「なんたって、県警本部のお偉いさんって話だ。谷山とは格が違うわな」
「……」
「おい見ろよ、義家さんだ。綺麗だなー」
廊下を歩いている彼女、義家正美。成績優秀、スポーツ万能で、黒髪は背中まであるロングヘアーで少しつり目の美少女だ。もう歩く姿は百合の花状態だ。しかもその容姿と勉強と父親譲りの正義感からか、この学校の生徒会副会長までしている。もはや出来過ぎて、何を目指しているのかよく分からない状態だ。
「力斗ドンマ~イ」
奈美がニヤニヤしながら、からかいにやってくる。
「くそー、次こそは負けねー」
そう僕は息巻いた。とは言う物のそれとは別に僕には大切な用事がある。そう奈美とも1年記念プレゼントだ。何を買えば良いか悩んでいる。妹の可憐に訊いても、
「ちゃんと奈美さんのこと想ったら、欲しいものくらいパッと分かるのはずよ!」
と言われ、何を買えば良いか教えてくれなかった。ショッピングモールを色々回ったが、今日も何を買えば良いか分からず、そのまま帰宅した。
「おー、お帰り~」
「お、なんか久しぶりに父さんを見た」
「まあな、帰れる時に家に帰らないと。家族を大切に出来ないものが、県民を幸せに出来ないと思っているからな」
「出たよ、親父の力説が」
清廉潔白な政治を旨とし、県をこよなく愛する公職者の鑑のような県議会議員だ。時に厳しく、時に優しく家族を常に気にかけている、なんだかんだ僕が尊敬する父親である。
「どうだ? 黒木の娘とは上手くいってるのか?」
「ま、……まあまあかな?」
「もうそろそろ1年じゃないのか? プレゼント買ったのか?」
「まだ悩み中……」
「えー、まだ買ってないのー。早く買ってあげなよー」
「可憐の言う通りだ。彼女一人幸せに出来ないものが、勉強が出来てたとしても、立派な人間にはなれないぞ」
「だー、うるさいなー。分かったよ、明日までには買うよ!」
「よしよしっ」
「はい皆~、ご飯出来たわよ~」
「はーい」
そうして久しぶりに家族4人揃って、団欒してご飯を食べるのであった。翌日になり僕が起きた時には、親父はもう家にいなかった。母に訊くと、今日も遅くなるらしい。県議とはとても忙しい職業のようだ。朝は可憐と一緒に登校するのだが、彼女はまだ中学2年なので、僕は中学校の近くまで送る。本人は嫌がっているのだが、まあまだ小さいから兄としてはやはり気になってしまう。
そして可憐と別れた後に、奈美と会う……のだが、今日は元気がない。
「どうかしたか奈美? 風邪か?」
「え? ううん。違うわ……」
「じゃあ、どうした?」
「ううん。何でもないわ……」
恋人一人幸せにするのも難しいなーと僕は親父の顔を思い出しながら、思い悩むのであった。
「谷山~、今日のグラビア見たか?」
「いや、見てない」
「今週号のグラビアで優衣ちゃんが水着だぞ!」
「おー、マジで!?」
「見てみろ、見てみろ!? このくびれの美しさを」
「おほーっ、く、食い込みがエ、エロ……」
「ちょっと男子ー? そんなの教室で見てたら、先生に言いつけてやるわよー」
「うるさいな~。少しぐらい良いじゃねーか、なー、谷山~?」
「そうだぞ~。これぐらいで学校の校則は破れないぞー?」
「むー……。奈美~、なんとか言ってよー」
「まぁ、これぐらい男子なんだから良いんじゃない?」
「もう、彼氏の肩持つんだからー」
「流石は奈美だ。分かってる~♪」
「……」
そして放課後になって部活終わり、僕は急いでショッピングモールへ行き、僕とお揃いのキーホルダーを買った。
「まぁ、嫌……とは思わないだろう……」
僕は呑気に鼻歌を歌いながら、家に帰って玄関のドアを開けた。その後に我が家の平穏な日常が崩壊することを露ほども知らずに……。
「たっだいまー」
「力斗!」
母がよたよたしながら、涙目で廊下に慌ててくる。
「どうかした?」
「大変、お父さんが……」
「え? 父さんがどうかしたのか!?」
「お兄ちゃん……」
可憐も辛そうな顔してこっちにくる。
「テ、テレビ……」
僕は急いでテレビを見に行った。そうしたらその画面には、デカデカと文字が書かれていて、ある一人の男性が警察に連れられていく衝撃映像が流れていた。
『谷山県議、公金横領の容疑で逮捕』
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