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ルーンゲルド その8

 ルーンゲルドは幻影魔法を剥がされ、城中の兵士たちから追われていた。


「ほっほっほ。なるほどのう。相対してみて初めてわかる事もあるようじゃ。頼りない奴等じゃと思っておったが、なかなかどうして。やるではないか!」


 筋力強化の魔法によって高められた身体能力で駆け抜けるルーンゲルドに、前後から宮廷魔術師の拘束魔法が放たれる。


 正確に魔力を感知したルーンゲルドは魔法が発動する前に向上した身体能力でそれを避けた。


 目標を失った拘束魔法は最初にぶつかった兵士を捕縛する。


「邪魔じゃ。どけい!」


 ルーンゲルドは前方でうろたえている宮廷魔術師を拘束魔法で捕縛すると、透過魔法で壁の向こうの部屋の中を確認する。


「下から全部見てきたんじゃが、最上階のここにもおらんとなると……。ちぃ、ラウゼルの奴め。まさか王国騎士団と手を組んだのか!?」


 走りながら浮遊魔法を構築すると、ルーンゲルドは廊下の窓から飛び降りた。


「落ちた! 追い込まれて自殺したか!?」


「いや、あの団長だぞ? あれくらいで死ぬはずがない。急いで追うんだ! 下の者に合図を送れ!」


 宮廷魔術師のひとりが光の初級魔法で仲間に信号を送った。


 ルーンゲルドは星明かりの影に紛れながら再び幻影魔法を構築すると、その姿を眩ました。


「光の信号はわしが考案した連絡方法じゃが、それは信号の意味が相手に知られていない場合にのみ有効じゃというのに。与えられたものを与えられたまま、何ら疑問を抱くことなくただ使っているからそれに気づけぬのじゃ。少しは見直したばかりじゃというのに、この愚か者共めが!」


 遅延発動の図式を組み込んだいくつかの光の魔法を紡ぐと、それを機動制御して射出する魔力図に組み込んだ。


 魔法の発動と共に光の遅延魔法が射出される。それらは発動すべき目的地を目指して散って行った。


 数刻後、あちこちで光の信号があがるだろう。


 そしてその信号の意味を知る宮廷魔術師達はルーンゲルドが発した嘘の信号に惑わされ、混乱を極めるはずである。


「これで十分な時間が稼げるじゃろうて。さて、のんびりと行くとするかのう。魔法の資質も持たぬ王国騎士団の兵士なぞ、物の数には入らぬからのう。ほっほっほ」


 王国騎士団の宿泊棟の入り口に降り立ったルーンゲルドは、城内を走り回る騎士達の横を堂々と歩いて進入を果たした。



 廊下を歩きながら透過魔法で部屋の中を確認すること数階分。


 ついにルーンゲルドはレンジ・カナムラサキの姿を捉えた。


「やっと見つけたわい。それにしても傍らに立つあの男、エルガン・エスカフォードじゃな。厄介極まりないのう。奴は王との謁見の後、街を出たものと思っておったのじゃが……。よりによってレンジの見張りに立っておるとはのう。騎士団長の差し金か? 侮れぬ男よ」


 ルーンゲルドは発動中の幻影魔法と浮遊魔法、筋力強化の魔力図に魔力を注ぎ、効果時間を延長させた。


 そしてわずかに浮き上がると壁抜けの魔力図を2つ構築する。


 浮遊魔法で足音を消して移動し、1つ目の壁抜けで進入。その勢いのままレンジを掴み2つ目の壁抜けにて宿泊棟の外へ飛び出す。というのが彼の考えた作戦だった。


 理想はエルガンに気づかれない事だが仮にレンジを連れて壁抜けする所を気づかれても、外へ出てしまえば壁がエルガンの視線を遮っているうちに闇夜に紛れて隠れられる。


 そのあとはいかようにも逃げられるだろうと踏んだのだった。


「奴は純粋な戦士じゃ。それもただならない実力者じゃ。かような者を相手に地に足をついて接近戦なんぞやっとられんわい」


 ルーンゲルドにして、エルガンの実力はまったく無視できなかった。


 何よりも距離を取れない室内となれば、大魔導士といえども他の魔法使い同様、明らかに不利だ。


 あまり魔法を多用すると魔力感知される恐れがあったが、ここまで室内のエルガンに変わった様子は見当たらない。


 おそらく、それほど魔力感知能力が優れている訳ではないのだろう。


 そう読んだルーンゲルドは、保険としてオリジナルの物理防御の魔法を自身にかけた。


 竜種の牙すら弾く自慢の物理防御魔法に身を包み、壁抜けの魔法を放った。


 浮遊しながら室内への侵入に成功する。


 目の前のレンジに手を伸ばした瞬間、エルガンの太い蹴り足がルーンゲルドの視界を埋め尽くした。


「がふっ!!」


 いきなり蹴り飛ばされたルーンゲルドは壁抜けの魔法が切れた後ろの壁に背中を強打し、その衝撃で嗚咽を漏らす。


「手応え、いや、足応えありだな。見えないが、ルーンゲルドか?」


「な、何故わかったのじゃ!」


「息遣い、体温、気配、風の流れ。すべてが教えてくれるぞ?」


「この化け物めがッ!!」


 ルーンゲルドは幻影魔法を解除した。無駄なことに限られた魔力のリソースを割き続ける事に意味がないと悟ったからだ。


「あ! おいじじい! 約束はどうなってんだ!!」


「うるさいわい! じゃからこうしてお前を迎えに来たんじゃろうが!」


「なんだとこのクソじじい! こっちは頼まれたから来てやってんだぞ!!」


「ええい! 少し黙っとれ! いまはお前と問答しとる場合ではないのじゃ!!」


 しゃべりながら構築していた複数の拘束魔法を放つ。


 床から生えたいくつもの木の蔓が足元からエルガンを縛り上げていく。


「見た事がある魔法だな。確か縛り上げた後、硬質化する拘束魔法だったか? だがその前に引きちぎれば済む話だな。ぬん!」


 一気に膨れ上がった筋肉にすべての蔓が耐え切れずに千切れた。


「ぐぬぅ、この筋肉達磨めっ! 馬鹿馬鹿しいやり方で拘束を無力化しおる!」


 ルーンゲルドは次々と拘束魔法を放ちながら、魔力図構築の合間の隙を埋めるように岩の射出魔法も絡め始めたが、そのことごとくはエルガンの手によって無力化されてしまう。


 この狭い部屋の中ではエルガンからの反撃の手を止めるだけで精一杯だった。


「埒があかぬわい。レンジ、逃げるぞ! わしに掴まれい!」


「じじいになんか抱きつきたくねーんだけどな」


 文句を言いながらもレンジが掴まったのを確認すると、ルーンゲルドは保持していた2つ目の壁抜けの魔法を使い、外へ向かって一気に壁を抜けようとした。


「逃がさん!」


 ルーンゲルドの壁抜け中の背中に向かってエルガンの蹴り足が上から下へ叩きつけるように振り抜かれた。


 爆音と共に、壁と床の一部が吹き飛ぶ。


「うわあああああああ!!」


「ぐっ、なんて出鱈目な男なんじゃ!!」


 錐揉みしながらも浮遊魔法をコントロールして落下の衝撃を緩和させつつ、別棟の屋根の上に落ちたルーンゲルドは忌々しく叫んだ。


「なんなんだよ、あのおっさん! ありゃ人間か!?」


「奴は英雄と呼ばれる手練じゃ! 人の身で巨竜を討伐せしめし実力者なんじゃ!!」


「はぁ!? そんなすげーのがいるなんて聞いてねーぞ!」


「話をする時間なぞなかったじゃろうが! なっ、あの高さを飛び降りるじゃと!?」


 ルーンゲルドの目に差し引き3階分はある高さから魔法も使わずに肉体だけの力で、同じ屋根の上に飛び降りてくるエルガンの姿が映る。


「しっかり掴まるのじゃ。上空なら追ってこれまいて」


 ルーンゲルドはレンジを抱えたまま浮遊魔法で上空へ飛び上がり、寸でのところで飛び掛ってきたエルガンの手を逃れた。


「ふむ。浮遊魔法か。だが……」


 エルガンは上空を見上げながら呟くと、浮遊魔法の魔力図を構築し始めた。


 剣術と比べて魔法はあまり得意ではなかったが、優秀な魔法使いの教師を得たおかげで、数年間の自主訓練の末、いくつかの魔法を実用的なレベルにまで鍛え上げていた。


 ルーンゲルドと比較すればその構築速度は大人と幼児の駆けっこの様相であったが、しかし着実にエルガンは自身の魔力をコントロールし、魔力図を描いていく。


 上空から見下ろしていたルーンゲルドは、すぐにエルガンの魔力の高まりを感じ取った。


「まさか……奴め魔法も使えるのか!」


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