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VRゲーマーお嬢様はeスポーツ動画配信でご飯が食べたい  作者: 五月晴くく
Playlist04 わたくし、夏休みをエンジョイいたしますの ~お泊り会編~
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7本目 無茶ぶり




 ゲーム内に戻ってきたわたくしたちは二組に分かれて行動することにした。分け方は不知火さんとわたくし、九条院さんと成瀬さんである。ゲーム内ネームで言えば、それぞれ不夜さんとむむこ、ナイン・フラワーさんとしっきーさんである。


 分かれると言っても場所は相変わらず初心者向けの草原だ。初心者組お二人のプレイスキルを上げるために、近接型のプレイヤーは近接型のプレイヤーで、遠距離型のプレイヤーは遠距離型のプレイヤーで分かれて練習することにしたのだ。

 しっきーさんがナイン・フラワーさんに近距離戦での立ち回りを教え、わたくしが不夜さんに遠距離戦での立ち回りを教えるといった具合だ。


 このアドバイスタイムを生かして、不夜さんにアスレチックeスポーツゲームでの、本当の戦い方を教えようと考えている。

 もちろん、不夜さんはプロゲーマーとして活動しているわけで、わたくしよりゲームがうまく、理解が深い可能性は高い。

 けれども、先程の質問で感じた印象からするとまだもう一歩足りていないような気がしたのだ。万が一でもわたくしがお役に立てる可能性があるなら、たとえお節介や蛇足になったとしても助けになりたい。


「それでは不夜さん」

「はい」

「今のところ、七色龍に乗る際にはスキルで補助しておりますわよね?」

「ええ、もちろん」


 まず今の不夜さんに必要なのは、全身でゲームを楽しみ、全身でゲームを感じ取ることだろう。だから、これから無茶ぶりをしてみようと思う。


「それをやめましょう。巨大化スキル以外のスキルを使わずに、その子に乗ってください」

「へ? 何を言ってるんですか?」

「そのままですよ。生身のまま、七色龍に乗ってくださいと申し上げました」

「無理に決まってます!」


 ごねる不夜さんを無理やり七色龍の背中に乗せる。見るからにしぶしぶとした様子ではあったが 、一応はわたくしの指示に従ってくれた。

 まあ生身で七色龍の上に乗って空を飛ぶなんてこと、普通は嫌だろう。わたくしだって嫌だ。

 落下への恐怖が常につきまとうわけなのだから、とてつもなく怖いに決まっている。

 

 それに空を飛んでいると言う事は向かい風を多く受けると言うことである。それだけでも辛いのに、七色龍の筋肉の動き、傾き、重力などなど、様々なシチュエーションに対して、己の力一つで抵抗しなければいけない。


 それでも、わたくしはこの方法がアスレチックeスポーツのポテンシャルを引き出すためにできる最善の策だと思うのだ。


「無茶なのはわかっておりますわ。けれども、アスレチックeスポーツにおいて、無茶をすることがいかに重要かと言う事なのですわ」

「いまいちピンときません」

「想いの力とは、脳が自らの体が生身であることを忘れたときにようやく発揮されるものなのですわ」

「それは存じ上げておりますが、何の関係があるんですか!?」


 不夜さんの話を聞く限り、昨今のeモータースポーツでは、メタ――そのときよく使われている戦略――の激しい変化に対応するため、プロゲーマーたちはゲームに対する知識や戦略への理解を深めようと日々努力をしているように感じた。

 もちろんメタの理解は大切なことだが、レースというよりも戦略ゲームの様相を呈しているのではないだろうか。


 アスレチックeスポーツは戦略だけで勝つことができない。想いの力を活用しなければトップクラスの戦いを制することは不可能だ。まずは小難しい思考なんてかなぐり捨てて、ゲームに熱中することが重要なのだ。

 今回の生身で空を飛ぶチャレンジで、その感覚を思い出してもらおうじゃないか。


「意識的に思考を導くと言うのは非常に難しいことですの。ですので、体の方から脳に語りかけていただきましょうと言うわけなのですわ」

「あの、むむこさま? 聞いておりますか?」

「言ってしまえば、想いの力が発動されている状況とは、一種の現実逃避のような状況ですわね」

「むむこさまー?」


 意思や感情をコントロールして熱中状態にするのは非常に難しい。特にプレイ中に思考し過ぎる癖がついてしまうとなおさら難しくなる。

 

 それならば思考をできなくすれば良いのだ。


「現実逃避をせざるを得ない状況にまで身体を追い詰めることで、自然と良い状態で想いの力が発動できる、気がするのですわ。火事場の馬鹿力作戦ですの」

「筋が通っているような通っていないような……」

「御託はいいから早く飛んでくださいまし。巨大化の効果時間が尽きてしまいますわ」

「御託を並べていたのはむむこさまですよね!?」


 ひと悶着の後、わたくしの意志の硬さに折れた不夜さんが、悲鳴をあげながら空へと舞って行った。

 遠目にだが、時々振り落とされそうになりながらもギリギリで耐えているように見える。


 けれどもまだ足りない。あれではただ七色龍にしがみついているだけである。しがみつくのではない、乗りこなしてほしいのだ。


 先ほど不夜さんは、ベルさんがチュートリアルで言った言葉をこう引用していた。


 「この二つのスキルを使わないと普通は乗ることすらできない」と。


 普通はの部分がミソだ。裏を返せば、普通じゃなければスキル無しで飛べると言うことなのだ。


 もちろん、この「普通ではない」という部分が、何らかの職業についていることや何らかのアイテムを使っていることを指している可能性は十分にある。


 ただ、わたくしの直感が囁くのだ。このゲームはそれだけではないと。わざわざeスポーツゲームであると大々的に宣伝しているこのゲームが、そんな生易しいわけがないと。


「不夜さまー! 感覚を研ぎすますのですわよー!」

「無ー理ーでーすー!!! きゃあああ!!!!」


 ……さすがにぶっつけで「生身でドラゴンに乗って空を飛べ!」はやりすぎたかもしれない。



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