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VRゲーマーお嬢様はeスポーツ動画配信でご飯が食べたい  作者: 五月晴くく
Playlist04 わたくし、夏休みをエンジョイいたしますの ~お泊り会編~
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4本目 むむこ



 配信者としてやっていく上で、注意すべきことがいくつかある。その内の一つが身バレだ。


 身バレ、すなわち現実での素性がバレることである。本名をハンドルネームとして使っているわたくしが偉そうに言えたことでは無いが、身バレ対策は非常に重要だ。


 特にわたくしのように現実で配信者活動を隠しているような人間からすると、身バレによる現実への悪影響はとても困る。

 成瀬さんなどは特に顕著だろう。ゲーム内でたまに汚い言葉を吐き散らかしているなんてこと、家族や友人には知られたくないに違いない。わたくしは知ってしまったが。


 わたくしと成瀬さんのゲーム内ネームやゲーム内アバターの風貌はそれなりに知られてしまっている。

 だから、もしわたくしたちがお嬢様らしき二人組とお嬢様言葉で会話をしながらゲームをプレイしている様子を見られでもしたら、身バレに繋がりかねないのだ。

 身バレまではつながらなくとも、「そのお嬢様たちは誰!?」となるだろう。


 一応わたくしはお嬢様キャラでやっているものの、まさか本当に白薔薇学園のようなお嬢様御用達(ごようたし)な学園に通っていると考えている視聴者は少ないだろうし、もっと言えばノルセさん――成瀬さんのハンドルネームだ――がまさか現実では大物政治家家系の娘さんだなんて思わないだろう。

 そんなわたくしたちのインターネット上でのイメージを壊さないためにも、現実とインターネットの線引きは重要なのだ。


 じゃあどうすれば良いかというと、そこは天下のブレファンだ。配信による口コミ宣伝の効果を理解しているのか、配信者に優しい課金要素がいくつか用意されている。

 その一つが、わたくしが今使っているこの仮装アバター機能だ。

 仮装アバター機能を使うと、アバターの見た目とネームタグの内容をいじることができる。ただし、仮装アバター機能を使っていることはネームタグに表示されるので、迂闊(うかつ)なことはできない。

 これを用いることで、注目されがちな配信者やトッププレイヤーがお忍びで街を探索したり、知り合いに内緒でプレイしたり、変わったところでは「アバターの容姿を変えてオシャレがしたい」という要望に応えたりもできる。

 ただし、フレンドに内緒でプレイするには、フレンド設定から「ログインを非表示にする」機能を有効にする必要があるので注意だ。成瀬さんあらためノルセさんはこの設定を知らないようだったので教えてさしあげたら「ありがとう。ま、フレンドいないから関係ないけどね」と暗い顔で言われてしまった。なんだか申し訳ないことをいたしましたわ……。


 さて、そんなこんなで今頃チュートリアルをしているであろう九条院さんと不知火さんより先に、仮装アバターを設定し終えたわたくしたちは街中の喫茶店で落ち合った。


「それで、えーっと、むむこさん……?」

「なにかしら」

「それ、隠す気があるの?」

「もちろんですことよ」


 わたくしの仮装ネームはむむこである。普段呼ばれているものとはかけ離れた名前で呼ばれても気づくことができない自信があるので、ギリギリ自分の名前に近い形にしてみた。


「そういうあなたは、しっきーさん、ですの?」

「うん。そうだよ。これなら九条院さんや不知火さんにもわかりやすいでしょ?」

「そうかもしれませんわね」


 成瀬さんの下の名前は四季乃(しきの)なので、そこから取ったのだろう。安直なネーミングセンスだが、たまにしか使わない仮装アバターなのだからこれで十分だろう。

 見た目は結構変えてしまっているが、動きからはどことなく小動物らしい可愛らしさを感じる。ゲームをしているときの成瀬さん――ノルセさんらしい動きだ。油断すると撫でたくなってしまう。

 こんな動きが見られるのはゲーム内だけである。この機会に成瀬さんの可愛い一面を九条院さんや不知火さんと共有できるのは悪くないだろう。


「それにしても、あのお二人もゲームに使えるアバター自体は持っているみたいでしたわね」

「まあお嬢様だし、高精度フォーマットアバターの一つや二つや三つ持っていてもおかしくないよね」

「二つもいりまして?」

「いらないだろうねえ」


 コーヒーをすすりながらだらだらと会話をする。VR空間での食べ物の味は薄めに抑えられているので、コーヒーもそこまで美味しいわけでは無いのだが、何も口にしないよりは口にするほうが話しやすい。


 薄くしている理由は技術的に味覚を再現することが難しかった過去の名残(なごり)だとか、VR空間での食事にハマってしまい帰ってこられなくなるのを防ぐためだとか諸説あるのだが、実際のところはよくわからない。ゲームやアプリを作っている人たちにしかわからない都合があるのだろう。


「あ、二人からメッセージが来てるね。チュートリアルは終わって、ギルドの前にいるみたい」

「本当ですわね。お迎えに上がりましょうか」


 コーヒーを飲み干して席を立つ。代金は前払いなので、店員さんへはごちそうさまでしたとだけ告げてカフェを出た。

 ギルド本社近くに居心地の良いカフェがあるのはとてもありがたい。最初の頃は近代的な街並みにずいぶん困惑していたが、VRMMOゲームを楽しむ上では、案外近代的なほうが使いやすい施設が多くなり遊びやすいのかもしれない。


「あれかしら、しっきーさん」

「っぽいですわね、むむこさん。二人ともリアルアバターですわ」

「あら、口調は戻すんですのね」

「そりゃ、まあ……」


 さて、お二人にこのゲームを楽しんでもらえるだろうか。


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