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VRゲーマーお嬢様はeスポーツ動画配信でご飯が食べたい  作者: 五月晴くく
Playlist04 わたくし、夏休みをエンジョイいたしますの ~お泊り会編~
31/37

3本目 ゲームをしましょう




「ゲームをしましょう」


 そう切り出したのは九条院さんだ。つまり、そういうことになった。



 なにがどうしてそういうことやねん、とわたくしの中の関西人がツッコミを入れてきたのでなにが起きたかを振り返るわけなのだが、こうなってしまった原因に関してだけはわかりきっている。わたくしと成瀬さんが詰問に弱かったことに尽きる。


 あとわたくしは案外、表情にすぐ出るタイプなのかもしれない。自分ではわからないので、後々人に聞いたり鏡を前に訓練したりする必要があるような気がする。


 それはそれとして、言ってしまえばわたくしと成瀬さんが妙になれなれしかったことが一番いけないのだ。夏休み、久々に会った友人たちのうち二人が妙に仲が良い様子で、なんなら片方は下の名前で呼んでいるなんてことがあれば、それは気になるに決まっているだろう。

 そんなこともわたくしたちは気づかなかったわけで、夜のおしゃべり会は気づいたときには九条院さんと不知火さんによる詰問会へと変化していたのだ。

 不知火さんの悩みを聞き出す前に、九条院さんの押しによりわたくしたちの間に起きたことを白状させられていた。


 最初は「大学外の趣味で会った」という話でぼかそうとしていたのに、なにがどうしてなのか気づけばその趣味がオンラインゲームということまで言ってしまっていたのだ。

 お嬢様が本気になって詰め寄ったときの攻撃力はとてつもなく高いということを、否が応でも理解させられた。


「それで、お二人が遊んでいるゲームの名前を教えてくださるかしら?」

「あ、えーと、そこまでは」

「わたくしは仲間はずれですの……?」


 これだ。こちらが言いよどむたびに少し泣きそうな声と顔で懇願してくるのだ。抗えるわけがないだろう。


「……Brave(ブレイブ) Fantasy(ファンタジー)22ですわ」

「ぶれいぶ、ふぁんたじい……これかしら?」

「それですわね」


 聞いた途端に素早くスマートデバイスで検索してみせるところから、もしかしたら泣きそうなのは演技なのかもしれないが、内緒にしていた後ろめたさからどうしても逆らえない気持ちになってしまう。もうどうにでもなれですわ!


「不知火さんは持っていませんわよね?」

「ええ、持っていません」

「じゃあどうぞ。ギフトですわ。メッセージアプリで送ったのでお受け取りくださいませ」


 既にゲームソフトを購入し、なんなら不知火さんの分まで買って外堀を埋め始める始末である。

 包囲網の敷き方がプロのそれだ。彼女なら、わたくしがよくプレイするVRFPSのSpecial(スペシャル) Force(フォース) Heavens(ヘブンズ)が向いているかもしれない。

 基本的な攻撃方法が敵の位置を探って追い詰めていくことだからだ。相手の弱いところを突っついて攻めていくいやらしさも重要な要素である。


「さて、インストールは長くとも今晩中には終わりますわよね。明日一緒にやりますわよ。仲間外れなんて許しませんからね?」


 冗談を脳内で繰り広げて現実逃避しているうちに、妙に乗り気な不知火さんも巻き込んで四人でゲームをやることになっていた。

 自前の体感型VRデバイスはもちろん持ってきている上に、わたくしがいつも持ち運んでいるのはハイスペックなゲーミングVRデバイスなので、外部デバイスによる補助なしに単体でゲームができてしまう。だからデバイスを理由にお断りするわけにもいかない。成瀬さんも同様だ。意外なところで、不知火さんも高スペックな体感型VRデバイスを持ってきているようだった。


 そもそも、この別荘なら体感型VRデバイスの一つや二つストックがあるに決まっている。持ってくるのを忘れたと言っても、すぐに「貸しますわよ!」とお高いデバイスを持ってきてくれることだろう。

 九条院さんに(いぶか)しがられた時点でこの結末は決まっていたというわけだ。


「ふわあ。あら、もうこんな時間ですわね。今日のところはそろそろ消灯いたしましょうか」


 あくびをする九条院さん。眠そうな表情から見るに、夏休みでも普段から規則正しい生活を心がけているのだろう。

 規則正しいに越したことはない。ランチもディナーも絶品だったので、寝坊して朝食を食べられないという事態はできれば避けたいし、ここで寝ることはやぶさかではない。

 お風呂に入って火照(ほて)った身体もちょうど冷め始めているし、一番寝やすい時間だ。


 けれども、このゲームをしよう云々(うんぬん)の話をここで終わらせてしまったら、起きたときには「明日ブレファンをする」ということが既成事実になっているだろう。どうにかして拒否できないだろうか。どうにかして……。


「そうですね。わたくしも眠いのでそろそろ寝ます」


 悩むわたくしに、不知火さんの追撃が飛んでくる。半数が眠いと言っているのに、引き止めることなんてできない。なんならわたくしもちょっと眠い。


「ですわね。それではおやすみなさいませ」


 なにか言いたそうな成瀬さんを無視して、ふかふかのベッドに深くもぐる。事実上の敗北宣言である。明日のことは明日考える。もうそれでいいですわよね。


 今は一旦全部忘れて、心地良いまどろみに身をまかせても良いだろう。眠いときは寝るのだ。ふわあ。




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