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『グランドスラム』のテイマーに?


「? ? ?」


 な、なぜ突然一人で納得?

 思わず後ろに下がってしまうと、あっ、と声がしてガンズさんは腕を組む。


「わ、わり。まあ、そのなんつーか、あれだ。……このモンスターたちは『グランドスラム』のとある部屋の扉の前に描かれたモンスターだったからまあ、そのつい、な」

「? 『グランドスラム』って……」


『グランドスラム』とは──。

 一握りの上級プレイヤーが困難なクエストの報酬として行く事の出来る、最も高難易度な大陸。

 出てくるモンスターは全てダンジョンボスクラスのビッグ種で、その大陸のダンジョンボスはいくつものパーティーがレイドを組んで向かわなければ勝つ事など出来ないレベル。

 そんなところの、部屋の扉?

 部屋の扉に描かれたモンスター?

 どういう事?


「えっと、意味が、ちょっと……」

「あ、ああ、だよな。えーと、『グランドスラム』は知っているか?」

「はい。上級プレイヤー専用フィールド、ですよね?」

「ああ。……実は、そこの中央神殿の一画には誰も入れない区画が存在しているんだ。俺も他の奴らに誘われて、素材集めでその神殿には何度も入ったんだが……」


 ごくり。

 多分、こんな話は滅多に聞けない。

 そして、ガンズさんの話だとその神殿の、誰も入れない区画の扉には十二体のモンスターが描かれているのだとか。


「十二体ってんだからよぉ、最初は十二支とか十二星座のアレとかと思ったんだ」

「……十二支……」

「けどよく見ると違うし、下にちゃんとモンスターの名前が書いてあった」

「……」


 注意力不足だったの?

 いや、それは良い。

 ……というか、まさか……。


「これがその写真だ。見てみ?」

「……っ」


 ぽちぽちとガンズさんが宙を指先で押すと、一枚の写真が現れる。

 そこには白い床、そして十二のモンスターが並ぶ壁画となにも乗っていない台座があった。

 モンスターの絵柄を見てみると、その中に白銀の狼と黒い九尾の狐……。

 他には、青い龍、赤い鳥、白い虎、黒い亀、藍色の蛇、赤黒い牛、黒檀の悪魔像、大鎌を持った幽霊、三つの頭を持った獣、紅白の獅子……。


「……な、なにこれ……」

「この四つは分かりやすい。四神ってやつだ。ほれ、東に青龍、南に朱雀、西に白虎、北に玄武」

「あ、は、はい」


 ゲームでよく見るやつね。

 あ、ああ、この四体がそうなのか。

 でも他のは?

 写真じゃ文字が小さくて分かりづらいな。


「藍色の蛇はリヴァイアサンだ。海の最大モンスターって言われてる」

「あ、ああ……」

「そしてこの牛はベヒーモス。悪魔像はガーゴイル。幽霊はグランドレイス。『グランドスラム』のダンジョンボスだ。三つの頭は分かるな?」

「……ケルベロス、ですね」

「そう、こいつと、この紅白の獅子……グランドレオも『グランドスラム』のダンジョンボス。トップの奴らがレイドを組まねーと戦う事さえ出来ねぇ最強どもだ」

「…………」

「そして黒い九尾と白銀の狼フェンリルは、いろんなところを旅したが誰も見つけられてなかった。地図歩きのシーカルアでさえ!」

「え!」


 シーカルアさんって、私が使ってる地図を作った人!

 今『グランドスラム』にいるの!?

 さ、さすがプロ?

 でも、地図作りのためにこの世界中を歩き回ったシーカルアさんでさえ、あんことだいふく……いや、黒い九尾の狐と白銀のフェンリルを見つけ出せなかった?


「嬢ちゃんよ、その二匹のモンスターとはどこで会ったんだ? どうやってテイムした? 頼む! 教えてくれ! タダとは言わねぇ! 好きな装備持ってって良いし、なんなら今から嬢ちゃんのプレイスタイルに合った装備を作る!」

「え! ええぇと! そ、そんな……あの、あんことだいふくとは——……」


 そんな頭を下げられるような話ではないので、とりあえず顔を上げてもらい、『氷結の洞窟』であった事を説明した。

 それを聞いてガンズさんは……。


「……………………」


 …………とても、とてもショックを受け、絶望に打ちひしがれた表情で固まった。


「……そんな……そんな序盤……こんな序盤のダンジョンに、ヒントが……そんな……」

「……え、えーと、その、でも、あの、ぐ、偶然が重なったというか……」

「つ、つーか、その賢者のエージェントプレイヤーよぉ、本当に弟がこの世界の元プレイヤーっつったのか? ……それって……」


 私もそれは、思った事だ。

 おそらく……多分、だけど……ビクトールさんの弟さんが『頂きの虹』の一人だった『黒の賢者』なんだろう。

 その『黒の賢者』のアバターを、ビクトールさんはコンバートして使っている。


「………………」


 そりゃ……そんなの素人が使ったら、ああなるよ……。


「だがしかし、そうか。それだけの実力がなけりゃ、『氷結の洞窟』に隠されていたクエストはクリア出来なかったって事だ」

「な、なるほど」

「そして鍵になるモンスターを、嬢ちゃんはテイムした。つまりだ」

「へ? は、はい」

「『グランドスラム』未開の区画は、壁画に描かれたモンスターをテイムした『テイマー』がいなければ開かれない! 嬢ちゃん! つまりあんただ!」

「え……ええええええっ!?」


 ガシッと肩を掴まれて、なんだかとんでもない事を言われてるー!?

 待って待って待って!

『グランドスラム』って上級プレイヤー専用フィールドでしょ!?

 SPに不安しかない私には、とても行けない場所だよ!


「モンスターは一度テイムすると『売却』か『野生化させる』以外ない。あんたそのつもりはあるのか?」

「いやです!」

「だ、だろう!? つまりやっぱりあんたが他の十体のモンスターを集めて『グランドスラム』の中央神殿の扉を開けるしか、あの区画を調べる術はねぇって事だ!」

「うっ……で、でもそんな事を言われましても……」


 ちら、とあんことだいふくを見る。

 この小さくて可愛もふもふしたあんことだいふくが、上級プレイヤー専用フィールドの区画を開く鍵だなんてぇ!


「ほ、他のテイマーさんとか……」

「いねぇ」

「え?」

「少なくとも『グランドスラム』を拠点にしてるプレイヤーに『テイマー』はいねぇんだよ」

「…………」


 お、おっふぅ……。


「それってさー、上位プレイヤーに『テイマー』を極めてる人がいないって事?」

「そうだ。みんな普通のゲームみたいに自分を鍛えてるんだ」

「あー、なるほどね。だからその『グランドスラム』に『テイマー』がいないんじゃん」

「うっ。……ま、まぁ、そういう事なんだが……」


 でも普通、そこまで『テイマー』を究める人もいないだろう。

 これは普通のゲームではないので、『テイマー』は選択しやすい職業のような気もするんだけど……。

 だからといってやっぱり『グランドスラム』へ行くほど究める人はいない、よねぇ。


「そ、そうは言われても……私……生産職希望で、この世界でお金を貯めてリアルに戻ってからお店を開きたいという目標がありまして」

「え、嬢ちゃんリアルに戻る気あんのか?」

「はい。リアルでも自分のお店を持つのが夢なんです!」

「! …………自分の店……」

「はい! 今年の冬に、このゲーム内通貨が仮想通貨として認められるそうですから……このゲーム内でお金を貯めれば、リアルでもすぐ一人で生活出来ると思って」

「…………」


 あれ?

 ガンズさんも、急につらそうな表情に……?

 な、なんで? 私変な事言ったかな?


「あの、ガンズさん……?」

「……自分の、店、か……仮想通貨で、金を貯めて……そうか……」

「?」

「…………。いや、そうなんだな。よし、生産系に進むんなら、俺様が嬢ちゃんに色々教えてやるよ」

「え? え! ほ、ほ、本当ですか!? 良いんですか!?」

「おう! ただし、俺様が他のプレイヤーに伝授出来るのは『鍛治師』のスキルだけだ。それでもいいか?」

「はい!」


 なんだかよく分からないけど『鍛治師』のスキルを教えてもらえる事になったぁー!

 やったぁー!


「その代わり、嬢ちゃんはこの壁画のモンスターを集めてくれねぇか?」

「えっ?」


 なんですと!?

 ちょ、ちょっと待って、対価が無茶ぶりすぎる!

 いくらあんことだいふくが壁画のモンスターかもしれなくても、も、もしかしたら他に生息地的なものがあるかもしれないじゃないですかぁ!


「いや、あの!」

「……頼む。多分、集めてくれるなら他の『頂きの虹』連中も嬢ちゃんへ協力を惜しまねーはずだ」

「っ……そ、そんな事を、言われましても」

「『グランドスラム』でしか採れない素材とか、採ってきてくれるぞ」

「…………」


 そ、それは非常に、非常に魅力的……。


「い、い、いや、あの、でも……えーと、その、ほ、他のモンスターの場所とか、よく分かりませんし……」

「大丈夫だ、情報ももちろん提供させてもらう! 他にもキャンペーンクエストが必要な場所に行く時に、情報ももちろんだが同行してサポートもする! 他国や別大陸に行きやすくなるぞ!」

「う……」


 ものすごく! ものすごく魅力的ー!

 で、でも、あんことだいふくに出会ったのは本当に偶然だし、そんなレアモンスターたちをテイムとか出来る気がしないし〜。


「装備も俺が作るし! 教えられる事は全部教えるぞ!」

「うううっ」

「めちゃくちゃ悩んでるなー」


 横でうるさいチナツくん。

 ……あ、そうだ、チナツくんといえばバアルさん。

 バアルさんは『魔法使い』志望なんたっけ。


「あ、あの……そういえば『魔法スキル』ってどこで一番最初に覚えられるんですかねぇ?」

「『魔法スキル』か? 『魔法スキル』は魔法使いか魔女を探さないといけねーんだが、どっちも移動してる事が多い。地図持ってるか? 貸してみ?」

「あ、は、はい」


 地図を取り出して渡すと、ココとココとココと……と、場所を指で教えてくれた。

 あ、暗記してるの? すご。


「……ここは……」


 その一つ。

『桜葉の国』へと行く道に、『クノ街道温泉』という場所がある。

 その道に魔女が現れる事があるらしい。

 この国で『魔法スキル』を得られるのはそこと他の三国への道すがらとなる。

 ふむふむ、それなら……。


「バアルさん、ここへ『魔法スキル』が覚えられないか行ってみる気はありませんか?」

「……お、王都から結構離れるんですね……」

「あ、えーと、でも地図を買ってあれば一瞬で戻ってこれますし?」

「そ、そうなんだ。……そうか、それじゃあ……行ってみよう、かな……」

「そうしましょう。私たちも一緒に行きますから大丈夫です!」

「おぉん!」

「みぃ!」


 あんことだいふくがぴょんぴょん跳ねながら返事をすると、バアルさんの瞳が優しく細くなる。

 うーん、アニマルセラピ〜!

 ……もっと『テイマー』は浸透するべきでは?



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