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新キャラバアルさん【前編】



 翌朝、朝食を食べたあとテーブルで地図とにらめっこ。

 足元ではころころとあんことだいふくがじゃれあっている。

 お茶を一口飲み、地図をアップにしていく。

 うーん……。


「!」


 かたん、と人の気配がして振り返る。

 ロディさんかと思ったが……なんとプレイヤーだった。

 この支援宿舎を一ヶ月使ってるけど、他のプレイヤーなんて初めて見た……というか、初めて遭遇したんだけど……え?


「え、あ……」

「あ、どうぞ?」


 広いので、他のプレイヤーが食事を摂るのは問題ない。

 なのに、促すとその人は勢いよく走り出して行った。

 薄い紫の髪はボサボサで、目の下にはクマがあり、軽く臭いもしたので……きっと『不潔』になってるんだろうなぁ。


「…………」


 さっきのプレイヤー、性別も分からなくなっていた。

 まあ、まだ出られないなら仕方ないよね。

 ゆっくり元気になってくださいって事で……あ、あの人これからご飯食べようとしてたのかな?

 じゃあ私、退けた方が良いか。


「……あ……」

「おはよう、シア! 朝ご飯はちゃんと食べたかい?」

「は、はい、おはようございます、ロディさん」


 食堂を出ると、この宿舎のお世話役で管理人(大家さん?)のロディさんと遭遇。

 いかにもみんなのお母さんって感じのおばさんだけど、この人もリアルの人に人格提供されたNPCなのかな?

 現実に生きている人の人格が提供されたNPCがいる。

 ……キャリーやハイル様、サイファーさん。

 ゲームの中なのに、その事実はここをより現実に近づける。

 そしてそれは……現実にもこんな優しい人たちが存在するのだという証明。


「……ロディさんも人格提供されたNPCなんですか?」

「あら、誰かに聞いたのかい? そうだよ」


 やっぱりそうなんだ。

 笑顔で頷くロディさん。

 もちろん、ロディさんは『人格提供者(オリジナル)』がどんな人間なのかは知らない。

 でも、オリジナルがどんな意図で人格提供をしたのかは分かる気がすると語る。


「人の世話が好きだったんだろう。そうする事で自分が救われるって思ってたんだ。それは分かるよ。今のアタシがそうだからね」

「……」

「それから、ゲームの中ならずっと生きていられる。もちろんデータが破損したら終わりだけどさ。きっとそういうお節介な自己満足が、こんな形になったんだと思うよ」

「…………」


 ぽん、と頭を撫でられた。

 ロディさんはいつも元気で、笑顔で……こんな人間が現実にもいるのか。

 すごいな。

 どこにそんなエネルギーがあるのだろう。

 ……私の洋服デザインに対する情熱が、ロディさんにとっての『人の世話』なのだろうけど……。


「さあ、今日も元気に行っておいで」

「…………あの、あの……あの、ですね」

「ん?」

「隣の国に行こうと思うんです。でも、四つほど選択肢がありまして」

「ああ! そうだね」


『桜葉の国』に行ってみたいけど、パーティーじゃないと大変そう。

 そう相談すると腕を組んだロディさんに「そうだね」と思いっきり同意された。

 やはりパーティーを組まないと厳しいのか。


「支援協会か、もしくは現地で人数を募集しているパーティーを探してみるといい。シアみたいに序盤で魔法スキルを習得出来たプレイヤーはまずいないから、引っ張りだこになるはずだよ!」

「……そ、そうでしょうか」

「そうとも! 自信をお持ち! それにテイマーも多くない。ましてこんな珍しいモンスターをテイムした子はこの五年でアタシも初めて見た! 大丈夫さ! 治癒魔法スキルは絶対重宝する!」

「……、……は、はい! ダメで元々の気持ちで行ってみる事にします!」

「ああ! いつでも帰ってきて良いんだしね! 転移魔法については聞いてるかい?」

「はい! お城にあるんですよね」


 地図があれば、一度行った場所ならすぐ転移も出来る。

 くっ、この事を知っていればもっと遠くまでマッピング出来たのに!

 ……まあ、確かに普通地図持ってれば気づくはずだったかもね。

 持ってるのに近場ばかりで満足していた私のヘマである。


「あとは……そうだね、『桜葉の国』付近なら多分時々『ミミックNPC』がいるから探してごらんな」

「……ミ、ミミックNPC……? な、なんですか、それ」

「NPCカーソルの『エージェントプレイヤー』さね。時々NPCに危害を加えてくるプレイヤーが現れるから、擬態してそういうプレイヤーを狩ってるんだ。NPCに擬態してるから一定の場所からは動かない。聞いてみてもはぐらかされるだろうけど、シアは『カルマ値』を感じないから大丈夫」

「……NPCに危害を加えたら『カルマ値』が上がるんですね」

「もちろんそうさ。他のプレイヤーに危害を加えれば比じゃなく跳ね上がるよ。ものを盗んだり、暴言を吐いたりしても上がる。可視化出来ないけど、一定数値を超えるとNPCには分かるようになるんだ。シアは全然感じないから、きっとゼロだね」

「ほああ……」


 NPCって『カルマ値』を感じる……まあ、多分数値として見えないだけでおおよその通知のようなものがデータとして届くんだろうけど……分かるのは羨ましいな。

 私たちプレイヤーにも『カルマ値』って感じられるようにならないのかな?

 聞いてみたところ『騎士』や『賞金首ハンター』に転職すると『カルマ感知』というスキルが習得出来るんだって。

 さ、さすが『賞金首ハンター』。


「あとは『探究者』の『鑑定[(きわめ)]』や『探索』と合わせると使えるかねぇ。このレベルになると分からん事はほとんどなくなるだろうけど……多分この領域に達したプレイヤーはまだいないはずだよ」

「か、『鑑定[極]』ってなんですか」

「噂で聞いただけだけど、とにかくめちゃくちゃ多種多様な事を調べまくって『鑑定』スキルを上げまくり、職業を『探究者』にするとようやく到達するって話だねぇ。『鑑定』のスキルを極めた者。まあ『称号』持ちの特殊スキルの一つだろう」

「…………」


 ぜ、絶対すごいやつじゃん……。


「あとは『暗殺者(アサシン)』職の『危機察知』スキルを[熟練度5]まで上げれば『カルマ感知』を覚えられたはずだけど……」

「な、なる予定はないです」

「だよねぇ」


 ま、まあ、結局意外とプレイヤーも『カルマ値』は分かるようになるという事ですね!

 そして『ミミックNPC』……どえらいNPCまでいたものですね。

 つまるところ覆面調査官って感じかな?

 公安プレイヤー?

 おお、なんかそう考えるとカッコいい……。

 そして狩られたプレイヤーは『監獄島』行きというわけですね、分かります。


「でも、どうしてそのミミックさんを探した方がいいんですか?」

「『ミミックNPC』と言っても中身はエージェントプレイヤーだからね。事情を話せば必ずプレイヤーに協力してくれるはずさ。エージェントってのはプレイヤーをサポートするのが仕事だ。その辺の冒険者NPCより、ずっと強くて頼りになる」

「!」


 なるほど!

 ビクトールさんと違ってちゃんとお仕事を出来ているエージェントプレイヤーだからか!

 ……いや、ビクトールさんもお仕事頑張ってると思うけどね?

 平日はリアルで普通に働いてるらしいもの。


「そっか! 分かりました! 探してみます!」

「ああ、疲れたらいつでも帰っておいで」

「は、はい!」


 決めた!

 私、やっぱり難しくても『桜葉の国』へ行ってみたい!

 着物!

 着物ドレス!

 着物っぽい小物!

 キャリーはダークブラウンの髪と瞳だから和風のドレスも似合うと思うんだ。

 あんなのとか、こんなのとか……。

 和服の構造とか教わったり出来るかな?

 ゲームの中の着替えなんて、パッとしてシュッて感じだから構造とか正しい着方とか作法的なものとかは無理だろうか?

 まあ、だとしても和服のデザインをじっくり観察してデッサンしておくのは無意味ではないはず。


「行ってきます!」

「…………」

「…………ッッッ」


 と、玄関から飛び出そうとした時、私は見てしまったのだ。カウンター横の階段でこちらをじーっと見ている……プレイヤーの姿を。

 ……さっきご飯食べに来た人だな?

 え、なんなの怖い。

 なんでこっちを見ているの?


「…………。……あの子はバアル。最近頑張ってご飯を食べに来てくれるんだ。シア、良ければなんだけど……あの子の装備を見繕ってはくれないかねぇ。外に出すのはちと不安なんだよ。いつもはセラピストプレイヤーが一緒に行ってくれるんだけど……リアルの方でお休みに入ったらしくて最近担当が変わったんだ。それでその……」


 また引きこもりがちになったけど、暇すぎてやっぱり出たいのね。

 あれぇ?

 昨日も私、新規のお世話したんだけどー?

 いや、この人下手したらゲーム開始時期は私より先輩……うーん。


「その前にお風呂に入ってもらった方が良いような?」

「ああ、それもそうだね。バアル、出かける気持ちがあるならお風呂に入っておいで。待っててくれるってさ」


 言ってませんけど!

 ……まあ、良いわ。

 国から出るなら少し装備は見直しておこう。

 最近治癒魔法に頼りきりで毒消しとか麻痺消しの薬が不足気味だし買い足して……チーカさんのところで『桜葉の国』の地図を買って……。


「……」


 ぺこってされた。

 一応出かける気持ちはあるんだ?

 笑い返してはみたけど、大丈夫かなぁ。

 名前めっちゃ厨二臭だったし。

 いや、いいけど。

 ゲームの中だし。


「ちなみに男性、女性どちらなのでしょう?」

「男の子って言ってたねぇ」


 また男の子かぁ。

 見た目若そうだけど、あれはアバターの年齢だしね?

 まあ、それを言ったらアバターの中の方が男の子かどうかも分からないわけなんだけど。


「まあ、あまり突っ込んだ話はせず、ゲームのシステムなんかを教えてやるだけで良いさ。ここはゲームの中だからね。リアルの話はお互いしたくないだろ?」

「心得てますとも」


 オンラインゲーム暗黙のルール!

 リアルとゲームは完全に分ける!

『バアル』なんてプレイヤーネーム付ける時点で、ゲーム経験者に違いない。

 その辺は向こうもわきまえているはず。

 ……バアルってアレでしょう?

 確か、神様だか魔神だかの名前よね。

 よくソシャゲとかで見かけるから間違いなく、オタク!


「ありがとよ。あんたが近く旅立つのは盗み聞きしてたから知ってるだろう。分からない事はサポートNPCに丸投げして構わないから」

「はい」

「ま! アタシらも知ってる情報には限りがあるんだけどね! やっぱ情報収集はこういうゲームの醍醐味だろう?」

「はい!」


 ……若干NPCの人が「ゲーム、ゲーム」言うのはどうなんだろうと思わないでもないけど。

 いや、ゲームの中であるという事を忘れさせない配慮かな?

 私たちには戻るべきリアルがある、と。


「どれ、あの子が戻るまでプリンでもご馳走してやろうかね」

「わぁい! プリン!」

「みぃ!」

「わん!」



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