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しがない異世界一兵卒の日常  作者: 剣吾郎
一章 しがない訓練兵の日常
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08 教官たちの思惑

 


 無事に森を抜けられたルークたちは、すぐに野営地へ戻った。


 クラウスとアーノルドは教官たちに先のゴブリンのことを報告に行き、ルークはフランクとルーナに支えられながら医療班がいる仮設テントに向かった。



 テント内に入ると、順次戻って来る怪我人が幾人か休んでいるのが見える。

 辺りを見回しているとすぐに、医療班の一員であるリリアが駆け寄って来た。

 白に近い灰色の髪に、青い瞳を持つ小柄な少女だ。


「ルーク、状態は?」


 リリアは支えられて歩くルークを見て大まかな容態を認識すると、ルークにより詳しい状態確認をするためそう問いかけた。


「ちょっとヘマしてね、足を捻った」


 ルークが簡単にそう答えると、リリアは「座って」と言って組み立て式の簡易椅子に座らせた。

 すぐに裾上げして足を露出させると、リリアは手慣れた様子で診察を始めた。


「腫れがひどい。けど、骨は折れてないからすぐに直せる」


 リリアはそういうと、ルークの赤く腫れ上がった足に手をかざして魔法を使った。

 リリアの手から温かな白い光が放たれ、腫れた患部を包み込んだ。


 原理はよくわからないが、足にむず痒い感覚を覚えながらみるみるうちに腫れが引いていき、痛みもほとんどなくなった。

 そのあと薬を塗り、手早く包帯を巻いて足を固定する。


 リリアの手際に感心していると、ルーナが水の入った桶を持ってきた。

 リリアがその桶を受け取って手をかざすと、中の水が徐々に凍りつき、拳大ほどの氷塊ができあがる。それを簡単に砕くと、布で包んで患部に当てた。


「これでいい。あとは半日もすれば治る」


「ありがとうリリア」


 そう礼をいった後、ルークは簡単に足の調子を確かめてみた。


 一旦氷をどかし、座ったまま動かしたり立って軽く歩いたりしてみる。歩くと少し痛むが、それでももうほとんど問題なかった。


 リリアの腕の良さを再確認し再度お礼をいうと、ルークの足が問題なさそうなことを見てリリアは他の訓練兵の元へ向かった。


「さすがよね。難しい治癒魔法を、あそこまで巧みに使いこなすなんて」


「そうだな。彼女たち医療班のお陰で、俺たちはちょっとやそっとの傷では恐れずに訓練や演習に取り組めるんだ」


 ルーナの賞賛に、ルークも実感を込めて頷いた。


 治癒魔法は、繊細で高度な魔力操作・制御の技能に、高度な医学や薬学などの知識が必要とされる。

 半端な技術では逆に病状を悪化させたり、人体組織を破壊したりする恐れもあるため、ああもあっさりとルークの傷を癒したのはリリアが優秀な証だ。


「しかし、相変わらずリリアちゃんは儚げで可愛いなぁ。どっかの暴力女も見習ってほしいくらいだ」


「それはいったい誰のことを言っているのかしら?」


 フランクの軽口に、それを聞いていたルーナがギロリと睨みを利かせて問うた。


「あらま自覚が無い?」


「ふんっ!!」


「ぶへっ!?」


 ルーナが女性にしては野太い声でフランクを殴り飛ばし、フランクは殴り飛ばされて倒れた。


 二人のいつものやりとりに、ルークもちょっと調子付いて早くももう一人の怪我人の手当てを終えたリリアに呼びかけた。


「おーいリリア!こっちに怪我人が出た!」


「それは自業自得」


 リリアはこちらをちらりと見て、全く表情を変えずに一言そういった後、再び順次戻ってくる訓練兵たちの容体を見に戻った。


「リリアがちょっと呆れてたぞ」


「脈なしねフランク」


「それは心にくるなぁ」


 フランクがそう言って笑いながら、殴られたにしては軽快な足取りで戻ってくる。

 一応殴られたお腹をかばうように手で押さえてはいるが、その割にはとても満足した笑顔を浮かべている。

 やはり変態であったか。


 そんなことを思いながら三人で軽口を言い合ってしばらく医療班のテントで休んでいると、報告を終えたクラウスたちがやってきた。


「戻ったな二人とも。どうしたんだしかめっ面して?」


 二人を迎え入れながらルークがそういって問うと、クラウスは少し困ったように笑った。


「ああ、まあそれは後でいい。それより、その調子だと足は問題なさそうだな?」


「ああ、リリアが直してくれたよ。もうほとんど痛みはない」


「それは良かった。彼女は優秀だからな」


 ルークが問題無いと見て、クラウスは今度こそ安心したように笑った。


「クラウス。ルークたちにも先に話した方がいいのではないか?」


「うーむ、まあそうするか」


 アーノルドの言葉に、少し躊躇いを見せながらもクラウスはそう言って頷いた。


「なんだ話って?」


「まあ、まずは俺たちのテントに戻ろうか。そこで詳しく話そう」


 フランクが疑問の声を上げると、クラウスはそういって外へと促した。


 ルークがクラウスの手を借りて歩き、皆でテントに戻った。


「で、話ってなんだ?」


 戻り次第、皆が椅子を並べて座ると、さっそくフランクがクラウスに問いかけた。


「ああ、さっきゴブリンの報告を教官たちにしてきたんだが、どうやら教官たちはその事を事前に知っていた様なんだ」


 クラウスの言葉に、皆不可解な気持ちになって首を傾げた。


「んん?ということは、俺たちはあえてゴブリンがはびこる森を探索させられてたってことか?」


「ああ。明言はしなかったが、おそらくそうだろう」


 フランクが疑問の声を上げ、クラウスもそれに答えて頷いた。


「そんな!?あの数のゴブリンだったのよ?下手をしたら死者だって出かねないわ」


「ああ。だから俺たちの班をゴブリンの本拠地がある方面へ向かわせたんだろう。班の実力からして、一番生存率が高いからな。そして俺たちは無事逃げられた。まあルークが負傷したが……」


 ルーナの言葉に、アーノルドが教官たちの思惑を代弁するように述べた。


「――しかしなんのために?」


「それは、この演習のついでに、ゴブリン退治でもやらせられるんじゃねーの?」


 解せないといった顔のルークの疑問に、フランクが適当に答えた。


「それ、めちゃくちゃありそうだな」


「えぇ〜嘘だろまじかよ。相手は少なくとも三百を超える数の群れだぞ?」


 フランクが、そうであってほしいという願望も込めて自分で自分の意見を否定した。


「しかし、危険はあっても俺たち訓練兵が全員で戦うのならば、勝てない相手ではないかもしれん」


「そうだ。そしてここで戦うなら、教官たちや付き添いの兵士たちもいる。戦力は十分に揃っているな」


 アーノルドとクラウスが、フランクの意見を補完するようにいった。


「だけど、ゴブリンの魔力持ちもいた群れだぞ?」


 ルークの言葉に、皆ハッとしたように顔を見合わせた。


「……まあ、ゴブリンへの対処については夕食の後にでもまた教官たちから話されるだろう」


 クラウスの言葉に、皆はいつ戦闘が宣告されていいようにと心の準備をした。


 その後、付き添いの兵士たちが準備してくれた夕食を食べるために、皆でテントを出た。





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