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しがない異世界一兵卒の日常  作者: 剣吾郎
一章 しがない訓練兵の日常
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05 団欒と一日の終わり

 



 訓練終えた兵士たちは、浴場の準備のために大浴場へと集まった。

 訓練が終わり次第、居残り組を除いた訓練兵たちは超特急で浴場の準備をしている。

 夕食の時間に間にあわせるため、すぐに作業を始めた兵士たちは浴槽を一度綺麗に洗った後に分担して次の作業に当たった。

 近くを流れる小川から水を汲んで浴槽を満たすもの、薪を使って火焚きをする者などに分かれて作業を続ける。

 浴場の準備も訓練の一環であり、魔法を使いながら一から湯を沸かすのだ。

 大浴場は兵士たちにとっては日々の訓練の疲れを癒す憩いの場でもあるため、訓練で疲れた兵士たちもこれが最後の仕事だと黙々と自分の役割をこなしている。


 今日は居残り訓練を免れたので、ルークも皆と一緒にこれに参加していた。

 斧を振り上げ、振り下ろす。

 今日つかって減った分の薪を補充するため、ルークはひたすら薪割りをしていた。

 薪を綺麗に割るにはコツがいるが、慣れてしまえばただそれを繰り返すだけの単純作業だ。

 強化した身体能力でひたすら斧を振り続けるただの薪割りマシーンと化したルークは、ひたすら薪の山を積み上げていく。


「ルーク!薪はもうそのくらいでいいぞ!」


 火焚きをしていた同期の男が、積み上がった薪の量を見てそう呼びかけた。

 薪割りを終えて、割った薪を整理して倉庫に保管していると、浴槽を満たすために小川と浴場を往復していた組も作業を終えて戻ってきた。


 総勢50人近い訓練兵たちが使う大浴場の準備は、本来重労働で時間もかかる。

 しかし、それを行う兵士たち自身は力ある魔法使いたちだ。

 数十人の人手と魔法の力もあって、浴場は一時間もかからず温かなお湯が張られた。


 皆が浴場の準備を終えると、今度は食堂へ移動して夕食を食べる。

 ルークが夕食を受け取るカウンターに向かうと、顔見知りの食堂のおばちゃんが話しかけてきた。

 おばちゃんは四十近い年齢のはずだが、見る人によってはまだ二十代にも見えるほど若々しい女性だった。


「あらルーク君。今日は居残りしなかったのね。せっかく作った料理が無駄にならなくてよかったわぁ」


 そう言って笑うおばちゃんに、ルークは少しムッとして反論する。


「いやいやおばちゃん、俺がいつも居残りしてるみたいに言わないでくれないか。俺が居残りするのは、耐久訓練の時だけだろう?」


 そういって反論してみるも、おばちゃんは可笑しそうに笑う。


「ふふふ、それでも週ニくらいで居残りじゃない。ルーク君は線が細いんだから、しっかり食べてスタミナつけなきゃねぇ」


「そう思うのなら、俺が居残りした時くらい夕食を残しておいてくれよ」


 ルークが力なくそう言うと、おばちゃんはあらあらといって苦笑した。


「それとこれとは話しが別よ。こっちも明日の仕込みに入るために後片付けしなきゃいけないもの。夕食を食べたいなら、頑張って今日みたいに時間通りに来なさいな」


 そう言われて何も反論できないルークは、おばちゃんに「また」といってしぶしぶと友人たちの待つ席に向かった。


 席につくと、ルークを待っていたクラウス達も夕食を食べ始める。

 するとすぐに、フランクが先の格闘戦の結果について聞いてきた。


「おいルーク!今日はアンドレイのやつに勝てたのかよ」


「ああ。これであいつとの戦績は同率だ。次は俺が勝ち越してやる」


「まじかよ、俺は今日エリックのやつに負けちまったんだよなぁ」


 フランクが不貞腐れたようにそう言うと、すかさずルーナがそれに突っ込んだ。


「あなたはいつも訓練で手を抜いてるでしょう?それで勝とうなんて、エリックが聞いたら怒るわよ」


「えっ!?……バレてた?」


「ハハハ!フランク、見てればバレバレだぞ。お前たまに教官にそれで居残りさせられてるだろう?ルークのことを言えないな」


 クラウスがフランクの反応にそう言って笑った。


「ちなみにフランク。俺も今日勝ったぞ」


 フランクの隣に座っていたアーノルドもそう言って会話に入ってきた。


「えーまじかよ。クラウスとルーナはまあ引き分けとして、今日負けたのは俺だけか?やばいな次の訓練真面目にやろ」


 フランクの軽い決意表明に、ルーナは呆れて言った。


「次のじゃなくて次からはでしょう?継続して頑張り続けないと意味がないわよ」


 そんなルーナの言葉にフランクもウンザリした顔をして言った。


「もぉ〜うるさいなぁ。お前は俺のオカンかよ」


 そういったフランクに、ルーナがややキレ気味に返す。


「あなたみたいな子どもはごめんだわ。それ以上馬鹿を言うなら教官に今までのことチクるわよ」


「げぇっ!す、すみませんでした!」


 ルーナのチクる発言に、心当たりがありすぎるフランクはビクビクしながら謝った。

 そんなフランクの様子に皆が笑い合い、その後も話題は尽きず明るいテーブルには夕食時間の終わりまで談笑が続いた。

 そうして、平和な夕食が過ぎていった。


 夕食を食べた後、ルークたちは浴場に向かった。

 女性用の方へ向かったルーナとは別れ、ルークたちは脱衣所で手早く服を脱ぐと、ぞろぞろと浴室へ入っていく。

 浴場は、室内と露天風呂の二つに別れていた。

 兵士の基地にしては広く豪華だが、これも過去の訓練兵達が自ら作った物でその恩恵だった。

 隅に並ぶ篝火が、明るく夜の浴室を照らしている。


「ルーク。背中洗ってやるよ」


「ああありがとうクラウス。じゃあみんなで並んで洗いっこでもするか」


 そう言うと、四人はふざけあいながら体を洗い合い、それが終わると天気がいいので露天風呂の方で湯に浸かる。


「あぁ〜いきかえるぜぇ〜」


「ほんとにな〜」


 フランクの呟きがオヤジ臭いと思いながらも、同じような声を出してそれに同意する。


「うわっ!今さらながらに気づいたけどアーノルドのやつデカいな!くそ、俺もちょっと自信があったのに、お前には負けたぜ」


 その下品なフランクの言葉に、アーノルドは自慢げに反応する。


「ふっ。俺に勝てる奴は同期の中にもいないな」


「はっ!調子になるなよ。顔では俺の方がイケメンなんだからな!」


「それはない。クラウスやルークならともかく、俺は容姿でもお前に勝っている」


「なんだとこの野郎!」


 そんなフランクとアーノルドのたわいもない馬鹿話を眺めて笑っているクラウスの横で、ルークは肩まで浴槽に浸かりながら綺麗な星空を見上げていた。


 風呂を終えた後、皆は解散してまた明日からも続く訓練のためにそれぞれの部屋と戻って行く。


 そうしてしがない訓練兵たちの一日が終わった。




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