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そうして俺は体の中でグツグツと煮え滾る怒りと闘争心を秘めながらレベルデン王国へと帰って来ると、その足でそのままG組の皆が魔法の練習をしている草原へと向かった。
いつもの草原へと着くと、俺は少しだが落ち着く事が出来た。
それはパウルに対して最初は怖がっていた生徒達が、今では親しんで交流している姿を見たからだ。
パウルは言語を発する事は出来ないが、意思疎通は出来る。
だから返事がしやすい質問をして、それにパウルが答えていく姿を見て俺は、彼らがパウルに対しても平等に接してくれた事を嬉しく思う。
俺はそう思うと、リーゼロッテ先生が教えている魔法の練習を少し離れた所から観察する。
その理由は、今のG組の生徒達とA組の生徒達の実力をどれくらい違うのかしっかりと確認するためだ。
先程のトロールを倒したA組の生徒達がA組の中では弱い部類と仮定すると、今のG組の生徒達では魔法1発の威力は負けているが、精度と魔力の適切な使い方は彼らよりも上手に扱っている。
後は魔法の威力だが、これはもう彼らの魔力の使い方としか言いようがない。
つまり今俺に出来る事は、
「パウルと一緒に、魔法を避けたりして精度の強化に貢献する事だな」
そう独り言を言い、生徒達とパウルに近づいて行く。
その後、俺とパウルは協力して生徒達の魔法訓練を乗り切り解散となった。
パウルに任せていた故に少し離れた所から見ていても成長が分かってはいたが、自分が標的にされると生徒達の技術が格段と上達しているのが身をもって体験できた。
そうして時間は過ぎていき、いつも通りに日が沈み切る前に解散となった。
リーゼロッテ先生に呼び止められる事もなく、俺はパウルを塔へ送った後に自分も塔へと帰る。
…今日は体の疲れはあまり感じないな、アンジェの指輪で静かに後を尾行していただけだからな。
G組の生徒達の魔法を避けるのは、大した体力を使っていた訳でもなかったしな。
俺はそう思うと、装備を外して身動きが取りやすい格好になると
「よっこいしょ」
ソファーに座って本の中の世界を開く。
エルヴァンとアンリが塔から出て外の世界に興味を持ってくれたのは嬉しいが、やはり心配してしまうな。
少しだけ会ったから、まだ距離が離れている訳では無いし何かあればすぐに駆けつけるのだが、俺はともかく2人は第一級冒険者として遠方へ依頼完遂の為に移動しないといけないからな。
どうしても簡単に行ける距離では無くなってしまうし、目の届く範囲にいる間はサポートしたい。
俺はそう思いつつ、エルヴァンとアンリの状態を確認するが、特に変化はなくいつも通りの様子の様だ。
俺はその事に安心しつつ、他にもページを開いて仮契約した者達の健康状態などを見ていく。
だが皆健康状態は異常も無く、精神面もここへ来た当初に比べれば安定してきている。
とりあえず、皆の精神面がそこそこ安定しているのは良い事だろう。
あの名無しの少女でさえ、精神面では安定してきている。
今までの状況が状況なだけに怯えてはいるが、それもルミルフルがいてくれるお陰で僅かにだが周りの皆の事を安心だと信頼しようと考えてくれている。
そう思ってくれているだけでも、十分に保護をして良かったと思える。
俺はそう思うと、
「たまには長風呂でもするか」
そう呟いて立ち上がり自室を後にする。
塔の廊下を歩いていると、
「おかえりなさいませ、ヴァルダ様」
セシリアが反対方向からやって来て挨拶をしてくれる。
そう言えば、いつもなら俺が帰ってきたらすぐに挨拶に来るセシリアが、今日は突然現れる事も無く普通に来て挨拶をしたな。
俺はそう思いつつも、
「ただいまセシリア。今日も1日、塔の様々な事をしてくれてありがとう」
セシリアにそう言うと、彼女は首をゆっくりと振り、
「ヴァルダ様、私はシルキーです。家事を迅速に行いヴァルダ様の過ごしやすい家にするのが、私の生きがいです」
嬉しい事を言ってくれる。
だが、
「ありがとうセシリア。しかしシルキーという種族だから、家事をする事だけが重要ではないぞ。それは一種の仕事の様なモノだ。それが十分に出来ているのなら、好きな事をして欲しいと俺は思っている。何か趣味とかは無いのか?」
俺はセシリアに、感謝の言葉と仕事以外にも目を向けて欲しいと言う。
俺の言葉を聞いたセシリアは、
「趣味でしょうか…」
そう言って少し考える素振りを見せる。
考え込んでしまう時点で、趣味が無いのと言っている様な気がする。
まぁわざわざ言う必要はないが…。
俺がそう思っていると、
「そうですね。塔で過ごしている者達を眺めているのは比較的楽しんでいるような気がします」
セシリアが少し恥ずかしそうにそう言った。
なるほど、セシリアらしい趣味というか、彼女が一番好きでしている様な事だろう。
シルキーとは、そういうモノだと前に調べた事がある。
俺がそう考えていると、
「今度、皆さんに気づかれない様にお話し合いに参加して、気づかれそうになりましたら消えるという悪戯をしてみたいです」
セシリアが苦笑しながらそう言う。
完全にシルキーとしての趣味だな。
俺はそう思いながら彼女の言葉を聞き、
「子供達は喜びそうだな」
メアリーの2人とか、凄く首を傾けながらセシリアの姿を探す光景を想像してしまう。
そんな2人の姿を後ろで苦笑しながら見守るルミルフルと、彼女の後ろにくっ付いている名無しの少女の姿も同時に想像してしまう。
俺はそこまで想像して、
「そうだ、この前メアリーの2人を探す時に言った事を覚えているか?色々とセシリアに任せっきりだったから、そのお礼をしたいのだが…」
そう話し出す。
その言葉を聞いたセシリアは、その言葉を聞いて何故か少し恥ずかしそうに顔を赤らめた後、俺から少し視線を逸らした。
俺はそんなセシリアの事を見て、どんなお礼をした方が良いのだろうかと考える。
服などの装備系も少し考えたが、まず機能性と個人的な趣味嗜好の装備しか持っていない所為で、服などは今プレゼント出来ない…。
俺はそう思いながら、チラッと俺の事を見ては顔を逸らすセシリアの事を改めて見た。
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