96頁
A組のパーティーの後を追いかけて歩き、30分するかしないかでボロボロの小屋が見えた。
出入り口であろう玄関の扉は崩れてしまって開けっ放しの状態で、屋根も穴が開いている部分があるのが少し見える。
何かの植物の蔓や苔が青々しく育っており、人が住んでいる様には見えない。
俺がそう思っていると、
「依頼の紙には、小屋に住み着いてたって書いてあったけど、あそこにいるんだろうな?」
フレイムランスを発動した男子生徒が少し声を押し殺してそう呟いた。
その言葉に、
「あぁ。それにトロールは元々宮殿に住むといわれているモンスターだ。まぁ宮殿などは無いが、人が住める環境での暮らしに慣れていると思われる」
消火に徹していた男子生徒がそんな呟きに豆知識を加えて答える。
それにしても、あれだけの魔法を使えるなら何故こんなにも身を隠しているのだろうか?
俺がそう思っていると、
「とりあえず、何か物音を立てて中にいるであろうトロールを外に出さないと、私達も建物の巻き添えで下敷きになっちゃうよ」
女子生徒が心配そうな表情でそう言い、3人の男子生徒を順番に見回す。
すると、
「俺が行くから、その隙に援護をよろしく」
今まで特に動こうとしなかった男子生徒が、静かにそう言って近くにあった石を掴むと、3人の仲間は特に意見を言うことなく素直に従う。
ここに来て更にこのパーティーの人間関係と言うか、力関係が分からなくなったぞ…。
俺がそう思うと、フレイムランスの男子生徒が左側に動いて行き、消火班の男子生徒が右側に移動を開始した。
女子生徒は少し後ろに下がり、補助系の魔法を使うために準備を始める。
指示を出した男子生徒は左右に移動した仲間の動きが止まるのを確認すると、前にゆっくりと物音を立てずに移動し、まず拾った石を小屋に向かって投げる。
小屋のボロボロの壁に命中すると、再度落ちている石を拾い直す。
すると、壊れていた小屋の扉からトロールが重い体を動かして外の様子を確認してくる姿を確認した。
顔と体躯はゴブリンと同じ様だが、大きさと全身に生えている体毛がゴブリンとは異なっている。
…4mくらいだろうか?
俺がそう思っていると、トロールは自身の体では通りにくい扉をなんとか抜け出そうとする。
それを見ていると、石を拾った男子生徒が更に扉を抜け出せていないトロールに向かって石を投げる。
トロールの肩の辺りに石がぶつかると、
「ァァアアアアッッ!!」
トロールが咆哮した。
言葉は話せない様だな、冷静な思考能力も無いようだ。
怒りかは分からないが咆哮を上げて扉を破壊して外に出てくる。
その瞬間、
「ウィンドストーム!」
石を投げた男子生徒が風魔法を発動して、トロールの体を無理矢理空中に浮かせる。
ウィンドストームって、一応切断系の魔法の筈なのに…。
俺がその魔法に驚いていると、トロールがドンドン上昇していく。
そして、結構な高さまでトロールが上空に行った瞬間、魔法が解除されてトロールが凄まじいスピードで上から落ちてきて、激しい振動と肉と骨が衝撃で砕け弾け飛ぶ音が聞こえてきた。
うわ、いくら討伐対象でもこれは酷い。
俺がそう思っていると、
「よっしゃ!これで決まっただろ!」
フレイムランスの男子生徒が喜んだ声を出して立ち上がり、動かないトロールの側まで移動する。
他の生徒達もその男子生徒の言葉を聞いて立ち上がり、フレイムランスの男子生徒と同じ様にトロールの元に歩み寄る。
ウィンドストームを使って上空に持ち上げるのは素直に凄いとは思ったが、あれがあえて切断する程の強さにしなかったのか、それとも単純にあれが全力の魔法だったのだろうか?
俺はそう思い風魔法を使った男子生徒を見ると、俺は後者の考えを思い直す事にした。
特に疲れている様にも見えず、ここまでの道中と同じ様な表情をしている。
たいして疲れている様子はない、おそらくただトロールを倒すためだけに魔法を解除したのだろう。
そう考えると、単純に魔法で倒すよりも酷い殺し方をした様に感じる。
俺がそう思って彼らを眺めていると、
「モンスターの分際で、人と同じように屋根がある場所で暮らしてるんじゃねぇッ!」
フレイムランスの生徒がそう言って死んでいるトロールの亡骸を踏みつけた…。
「止めろ、汚い物が靴に付くぞ」
死体を踏みつける事に注意したかと一瞬思ったが、その言葉にはモンスターに対する侮蔑の意味と感情が込められていた。
「そ、そうだよ。ばい菌とか、感染症に罹っちゃうかもしれないし、私達がわざわざ魔法で倒したのだって、汚い物に触れない為なんだから」
続けてそう言う女子生徒に、俺は怒りの感情が沸き上がるのを感じる。
確かに人からしたら意思疎通が出来ないモンスターは、討伐する対象になってしまう。
それは俺だって襲われれば反撃をし、殺す事も厭わないだろう。
故に、依頼を受けて討伐する彼らを責める事はしない。
だが、既に死体となり人の脅威で無くなったモンスターを侮辱する事を、俺は許す事は出来ない。
俺はそう思うのと同時に、今の怒りはこの場で晴らす事は出来ないと思う。
ここで彼らを倒す事は簡単だが、その所為で魔法学院側が生徒達の安全を考えてクラス対抗戦を止める可能性もある。
そうしたら、G組の旧校舎は機会もなく取り壊されてしまう可能性だって大いにある。
それに魔法学院の生徒を殺したら、今教えているG組の生徒達とリーゼロッテ先生に顔向けが出来ない。
この怒りは、クラス対抗戦でG組の皆にして貰おう。
俺はそう思いながら、彼らの顔をしっかりと覚える。
4人共容姿は良い、成績も優秀。
魔法学院からしたら、貴族でありこれから出世するであろう期待の者達だ。
もしかしたら魔法学院で上位クラスに入るのには、実力だけでは無いのかもしれない。
貴族である事以上に、学院側に対する寄付金や補助の類。
外見も査定されるかもしれない。
そして何より、純粋な亜人やモンスターに対する迫害思想。
…G組の生徒がどれだけこの世界ではしっかりとした人間であるか、改めて確認できたような気がする。
俺はそう思うと、トロールの亡骸から素材を剥ぎ取ろうと言い争って喧嘩をし始めているA組生徒達に背を向けた。
読んでくださった皆様、ありがとうございます!
ブックマークしてくださった方、ありがとうございます!
評価や感想、ブックマークをしてくださると嬉しいです。
誤字脱字がありましたら、感想などで報告してくださると嬉しいです。
よろしくお願いします。




