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塔に帰って来ると、やはり慣れない事をした所為で一気に疲れがやってくる。
俺は疲れから来るため息を吐くと、
「癒されたい」
そう呟いた。
モフモフしたモノに包まれたり、顔を押しつけて深呼吸をしたリ、単純に抱きしめたりしたい。
だが時間的に他の者の所へ行くには遅いな。
俺はそう思い直し、とりあえず近くにあったソファーに倒れる様に座り勢いそのままに横になる。
明日は冒険者ギルドに行ってA組の生徒の実力を見るのか。
今日よりかは忙しくないだろうが、それでも大変な事に変わりは無い。
…早めに寝て明日に備えるか。
俺はそう思うとすぐに体を起こし、風呂に入ってから夕食を済ませ眠りについた。
翌朝、俺は目覚めると体の調子を確認する。
そういえば、この体になってから昨日の疲れとか完全に無くなってるな。
まぁ慣れない事をしているから、体の疲れというよりも精神的な疲れの方が目立つけど…。
俺はそう思いながらも、一度眠ることで体力が完全回復される「UFO」のシステムが働いているのではないかと考察する。
そうなると、「UFO」から来た俺達は回復できているかもしれないが、元々こちらの世界の住人だった人達は完全に回復できてはいないだろう。
名無しの少女が一晩明けても腕が治っていなかった所を見ると、この仮説が正しい。
あの子の腕を治せるような医者がいてくれれば良いのだが、今は我慢してもらうしかないな。
俺はそう思いつつ、自室を出て食堂に行くと、
「この野菜は、どうやって作られてるんだ?」
ダグスが葉野菜を齧っては見つめ、齧っては見つめを繰り返しながら独り言を呟いている。
そこから少し離れた所では、
「…う゛ぅ゛~~…。食べたい…」
「ダメだってば!また太い自分に逆戻りだよ!」
バルドゥの所で過ごしている女性達が、何故か空になった皿を凝視してそんな事を言っている。
あれだけ見ると、何か別の依存性の物を口にしているみたいでヤバいな…。
塔の食料に、危ない物は入ってないですからね?
俺はそう思いつつ、自分の軽く食べられる物を注文しようとすると、
「何食べる~?」
「食べたいのいっぱいあって選べな~い!」
「…残り…」
「駄目よ。残り物なんて無いだろうし成長期の貴女には栄養をしっかり取って貰わないと。2人も迷っちゃうのは良いけど、今日のお昼も夜も食べられるんだから今一番食べたい物にしなさい。後の人の迷惑になるわ」
2人のメアリーがメニューの多さに何にしようか首を左右に振りまくり、名無しの少女はオドオドと残飯と言おうとすると、ルミルフルがそれを遮って姉の様に甲斐甲斐しく3人の面倒を見ている。
名無しの少女の様子はまだ時間が足りないとは思っていたが、2人のメアリーとルミルフルは意外と元気そうで良かった。
4人が注文を終えて席に移動していく姿を見送った後、俺は自分の注文を済ませてすぐに食べ始める。
そういえば、塔のメニューは日本でもよく見られたメニューがほとんどだが、こちら側の世界の人達の口には合っているのだろうか?
…料理が出来るかもしれないバルドゥの元で暮らしている女性達に頼むのもアリかもしれないが、機会があれば異世界の料理人とか迎えて、塔に来る人達が予想しやすい料理を作ってくれたら良いかもしれないな。
俺はこれからもこの塔がより住みやすい環境になれる様に考えつつ朝食を済ませ、レベルデン王国に戻った。
レベルデン王国魔法学院に着くと、やはり周りから視線を感じる。
すると、
「!」
ラーラさんとアーデさんが俺に気づいて、軽く会釈をしてきた。
俺は同じ様に軽く会釈で返すと、2人はお勤めに戻っていく。
さて、今日も1日頑張るか。
俺はそう思い、旧校舎へと向かって行く。
旧校舎へ入り廊下を歩きながら、今日はG組の生徒達を学院内で見ないなと思い出しなが教室の前に辿り着き、教室の扉を開けると、
「おはようございますヴァルダ先生」
「おはようございます」
「おはようございます!」
「はよざいまーす」
教室内にいたリーゼロッテ先生と、生徒達全員が俺に朝の挨拶をしてきた。
俺はその様子に驚きつつ、
「お、おはようございます」
何とか皆に挨拶を返す事が出来た。
な、何で皆こんなにも早いんだ?
俺はそう思いつつも改めて教室を見てみると、生徒達は少し厚い本を開き羽ペンで何かを書いている様だった。
俺はそれを確認し、今度はリーゼロッテ先生のいる教室の前の方を見ると、そこには黒板を埋め尽くす文字が見えた。
どうやらいつもよりも早く全員が集まって座学をしていた様だ。
俺が来てから、ほとんど体を動かしていたからな。
リーゼロッテ先生の判断で、足りていない座学の勉強をしていたのだろう。
俺はそう思い、
「いえすみません突然に入ってきてしまって。校舎の外で見かけないなとは思っていましたが、早くに来て勉強していたとは思いませんでした」
そう謝る。
すると、
「いえ、昨日生徒達からもう少し疲れない魔法の使い方とかは無いかと聞かれてしまって、少し早めに皆で集まって自分達の魔力の節約の仕方を出し合い、どれが良い節約の仕方かを考えていたんです。こちらは、私の方が得意ですからね。皆さんもそう思うでしょう?」
リーゼロッテ先生が微笑みながらそう言い、生徒達に同意を求めるようにそう聞くと、生徒達はうんうんと何度か頷いてリーゼロッテ先生の言葉に同意する。
俺はその様子を見て、
「じゃあ今日は座学にしましょうか?」
生徒達やリーゼロッテ先生にそう聞くと、全員が首を振って、
「いえ、先程まで試行錯誤していた魔力の節約の仕方をパウルさんで試すんです。そのためにいつもよりも早くに集まったんですから。それに魔力を少しでも使わないと、前日までの体や魔力の動きが鈍る可能性もあります。今日も外に行きましょう。ヴァルダ先生は今日は少し用事で抜けられるのですよね?」
代表してリーゼロッテ先生が俺にそう言ってきた。
俺はその言葉を聞いて、
「分かりました。そうですね。いつ帰れるかハッキリとは分からないので、パウルはその場に残して帰ってくださって構いません」
俺はそう言って本の中の世界を開いた。
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