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アーデさんと別れた後、G組の生徒達の戻ってきた俺が見た光景は……。
「ヴぁー」
魔法を使いすぎた所為地べたに倒れて青い顔をしている生徒と、その中心にパウルが立っているといういったい何があったのか理解できない光景だった。
いや、生徒達が魔法を使いすぎて疲れ果ててしまっているのは理解できる。
だが、パウルの周りに皆が集まっているのが分からない。
慣れてきていたとは言え、あんなにパウルに近づいているのが不思議に見える。
俺がそう思っていると、
「あ、ヴァルダ先生」
少し離れた所で座っていたリーゼロッテ先生が、俺に気が付いてそう声を掛けながら立ち上がった。
「お疲れ様ですリーゼロッテ先生。…この状態はいったい?」
俺が彼女にそう質問をすると、リーゼロッテ先生は何故か嬉しそうに微笑みながら、
「パウルさんに皆が慣れたらしくて、魔法の練習以外だとパウルさんに質問とかしていたんですよ。でもパウルさん、言葉が全部ヴぁーしか言えない様で、身振り手振りで表現しようとしていたのが可愛いってなって、魔法の時は真剣に練習をしてそれ以外はパウルさんともっと仲良くなれる様にって、こんな感じの休憩態勢になったんです」
俺の質問にそう答えてくれる。
…何だろう、俺よりも生徒達に好かれてる様な気がする。
俺がそう思いながらパウルを見ていると、
「ヴぁ~」
パウルが少し胸を張るようにして、そう声を出した。
まるで、子供がえっへんとする様に。
俺はパウルの様子を見て、生徒達に怖がれているより遥かにマシだなと思い、
「ありがとうなパウル」
パウルにそうお礼の言葉を言う。
俺の言葉を聞いたパウルは一度硬直すると、
「ヴぁ~!」
少し元気な声で返事をした。
そうして休憩が終わり最後の練習を生徒達の限界まで行い、今日は解散となって生徒達を見送った。
その際に、
「またねパウル」
「じゃあねパウル」
「また明日なパウル」
と、生徒達に言われてパウルも手を生徒1人1人に振って見送っていた。
俺よりも生徒に名前を呼ばれて、また明日と言われていた…。
臨時とはいえ、先生としてこれはどうなんだろうか?
俺がそう思って少し落ち込んでいると、
「パウルさん、皆さんと接する事ができて良かったですね」
リーゼロッテ先生がそう言って近づいてくる。
「…そうですね」
俺はリーゼロッテ先生の言葉に肯定の言葉を返し、
「パウル、今日もありがとうな。明日もよろしく頼む。ゆっくりと休んでおけ」
「ヴぁー」
パウルにそう言って本の中の世界を開いて、パウルを帰還を塔に帰す。
しっかりとパウルが帰還する事を確認した後、本の中の世界を再度首に提げようとすると、リーゼロッテ先生が俺の手元にある本の中の世界を凝視している事に気がつく。
「どうしたんですか?」
俺がそう聞くと、リーゼロッテ先生は本の中の世界を指差し、
「それも魔導書なんですか?」
俺にそう聞いてきた。
まぁ、何回も大きくしたり小さくしたりしているから、注目されるのは仕方がないよな。
俺はそう思いつつ、
「そうですね。召喚士の装備ではありますけど、これも一種の魔導書に分類されると思います。リーゼロッテ先生や生徒の皆さんに読ませた魔導書とは、少し違いますがね」
リーゼロッテ先生の質問にそう答える。
俺の答えを聞いたリーゼロッテ先生は、やはり興味があるのか本の中の世界を見つめてくる。
だが、流石にこれを簡単に手渡したり貸したりする事は出来ない。
俺がそう思ってどうしようかと思っていると、
「世界には様々な物があるんですね」
リーゼロッテ先生はそう言って話を終わらせてくれる。
俺がその事に安心していると、
「今日、いつもより厳しく出来ていたでしょうか?」
リーゼロッテ先生が少し自信無さそうな表情でそう聞いてきた。
俺はその言葉を聞いて、
「俺は今日、リーゼロッテ先生の授業を全部見ていた訳ではありませんが、生徒達の疲れている表情と態度から昨日よりかは厳しく練習しているのが俺でも分かりました。安心してください」
そう答えると、彼女は少しだけ表情を和らげた。
それに、リーゼロッテ先生のお陰でG組の生徒達は魔法技術はそれなりに高い方だ。
今日は時間が足りずにA組を見る事は叶わなかったが、それ以外のクラスの生徒には勝ち目は十分にある。
この調子でクラスの皆がなるべく多くの属性魔法を得意の魔法と同じくらいに精度が高くなれば、他のクラスとは大きな差が出来るだろう。
だが、今日は確認できなかったA組がやはり最大の敵だろう。
明日もリーゼロッテ先生に生徒達とパウルを頼んで、俺は冒険者ギルドにすぐに行くべきだろうな。
俺はそう思い、
「すみませんリーゼロッテ先生。明日もパウルを任せても大丈夫でしょうか?」
リーゼロッテ先生にそう聞いてみると、彼女は不思議そうな顔をしながらも、
「それは大丈夫ですけど、何かご用事があるんですか?」
良い返事をしてくれたのだが、やはり二日連続だと疑問に思われてしまう。
俺はその言葉に、正直に話した方が良いか考える。
まだ知り合って間もないが、彼女が良い人だという事は十分に分かる。
そんな人が、敵情視察を許してくれるだろうか?
俺はそう考えて、
「少し冒険者ギルドに用がありまして、そちらに行きたいんです」
本当の事と嘘の半々の言葉を発する。
俺の言葉を聞いたリーゼロッテ先生はそれ以上は何も言わずに、お疲れ様でしたと言ってレベルデン王国に帰って行った。
…少し気まずかったな、やはり本当の事を話しておくべきか?
そう一瞬思ってしまったが、彼女には生徒達の事を一番に考えて欲しいと思いこのままクラス対抗戦で優勝するまでは黙っていようと思い直す。
「…帰るか」
俺はそう呟くと、ついさっき閉じたばかりの本の中の世界を開いて、帰還と囁いて塔の世界に帰る。
…人に言えないというのも、なかなか苦しいんだな。
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