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俺の言葉を聞いた女性は、少し疑う様な目で俺を見てくる。
この顔立ちは、狐かな?
少し目が鋭いというか、可愛いよりも美人系の顔立ち。
人寄りではなく、獣寄りの見た目。
手なども毛が生えており、爪も長く見える。
尻尾は見えないが、おそらく来ている服の下にあるのだろう。
俺はそう思いつつ、
「今なら誰も見ていないですから、これを飲んで下さい。…見た所、風邪の症状に見えますけど、これで治れば良いんですが…」
俺の事を見てくる女性にそう言い、蓋を開けたポーションの瓶を差し出す。
顔色が少し見えにくいが、息が荒いのが近くに来るとより分かる。
俺がそう思っていると、女性は少し躊躇った後に手を伸ばしてポーションの瓶を受け取ると、それを一気に呷った。
一気に呷ってしまった所為か、少しむせてしまう女性の背中を擦る。
それにしても、咳はするのに声を全然出さないな。
俺がそう思っていると、女性の体調は治ったのか先程まで荒れていた息遣いが落ち着いている。
状態異常回復のポーションが風邪に効くのも分かったし、色々な意味で良かった。
俺がそう思って頷いていると、女性は何も言わないが俺の事を先程よりかは信頼している様な、落ち着いた感じで俺の事を見てくる。
…彼女は俺に何か言いたい事があるのだろうか?
俺がそう思っていると、彼女は手の平を俺に向けて何やら真剣な目で見てくる。
…考えろ俺、彼女がいったい何を俺に伝えたいのか見て察しろ!
俺はそう自分に言うと、彼女の行動をジーッと見つめる。
何やら手の平を俺に向けてきて、それを少し遅めに小刻みに動かす。
待て、どこかで見た事がある様な動きだ。
「……待て、と言いたいのか?」
俺は少し記憶に残っている動きに似た行動を思い出し、彼女にそう聞いてみる。
すると、女性は何度も頷く。
どうやら当たっていたらしい。
俺がそう思っていると、女性が立ち上がって走ってどこかへ行ってしまった。
待てと言われたのだ、彼女を待っていた方が良いだろう。
俺はそう思い、立ち上がって彼女がやって来るのを待つ。
廊下で奴隷達が仕事をしているのを眺めながら待っていると、彼女がまた違う獣人の奴隷の人を連れて来た。
だが、一度俺から離れてしまった女性は俺の姿が見えておらず、俺がどこに行ったのか分からずにキョロキョロと廊下を見る。
一緒にきた女性が何者かは分からないが、2人に触れて良いものだろうか?
俺がそう思っていると、
「…誰もいないようだけど、本当に助けてくれた人がいるのですか?」
女性が連れてきたもう1人の獣人の女性が、そう言って辺りを見回す。
キョロキョロ廊下を見回す女性の表情が、どんどん焦っているような表情になっていくのを見て触れてあげようと思い、歩いて近寄り彼女と一緒にきた女性の両方に触れる。
その瞬間、
「ッ!」
「な、何ですか貴方!」
2人の女性が俺に触れられて驚いている。
だがその表情は別々で、最初にあった人は嬉しそうに表情が笑顔になっていき、後から来た人は俺を警戒して表情を険しくしている。
すると、最初に出会った女性が険しい表情をしている女性の服を摘まんで俺の方を指さしてくる。
それを見た女性は、
「…この人ですか?」
狐の女性にそう聞く。
その言葉に頷く狐の女性。
何度も頷く狐の女性を見て、俺の方を改めて見て
「ラーラがお世話になりました。…見かけた事がない方ですが、こちらの生徒…ではないようですね」
お礼の言葉を言って、疑問の言葉を俺にそう言ってくる。
俺はその言葉に頷き、
「そうですね。旧校舎でG組の臨時講師をしています、ヴァルダと言います」
簡潔に自己紹介をする。
俺の自己紹介を聞いた女性は、
「申し遅れました。私はここ魔法学院の奴隷達をまとめている、アーデと申します。それとこちらが、ラーラと言います」
俺と同じ様に簡潔な自己紹介をして、隣にいる女性の紹介もしてくれる。
2人共自己紹介の後に頭を下げてくれる。
俺がその様子を見ていると、廊下の曲がり角から生徒がこちらに歩いてくる姿が見えた。
マズい、姿は見えていないと思うが声は完全に聞かれてしまう!
「ば、場所を移しても?」
俺が少し慌てている様子に気が付いてくれたのか、2人共特に気にした様子は無く俺の提案に乗ってくれて、俺達は旧校舎まで移動した。
アンジェの指輪を首から外し、
「改めて、今この旧校舎で生徒達に魔法を教えているヴァルダと言います。貴女がアーデさんで、こちらがラーラさんですよね?」
仕切り直した。
俺の言葉を聞いたアーデさんが、
「そうです。私も奴隷なのですが、まとめ役という事で発言が許されているのです。ですので、ラーラが今まで話さなかった事を許して欲しいです」
俺の言葉にそう返答し、ラーラさんを見ながら暗い表情をする。
発言が許されているのがアーデさんだけ…。
俺はアーデさんの言葉を聞いて、
「…辛くは無いですか?」
ラーラさんにそう聞く。
俺の問いを聞いたラーラさんは、少し困った様な笑顔を浮かべると首を振った。
「…ここで働かされている奴隷は、まだ他の場所で働かされている奴隷達に比べれば良い方です。私も含め、ここで5年働けば自由に慣れますから」
ラーラさんの行動に、アーデさんが言葉を付け足す。
「逃げ出したいとか、考えた事は?」
俺が更にそう聞くと、2人共首を振って意思を示す。
そして、
「ここでしっかりと働きながら5年過ごすと自由の身になりますし、その後は住む場所を提供して貰えるのです。最低限ではありますが、安定した未来のために逃げ出そうと考えた事は無いです」
アーデさんがそう言い、その言葉にラーラさんが同意して何度も大きく頷いた。
そこまで言われてしまったら、俺は過剰に彼女達を助けようとするのは止めた方が良いだろうな。
俺はそう思い、
「そう言えば、何故ラーラさんはアーデさんを呼んだんですか?」
聞いてみると、アーデさんが少し作る様な笑顔を向けて、
「ラーラは話す事が出来ませんから、代わりにお礼を言ってもらうために私を呼んだのですよ。ね、ラーラ?」
俺にそう説明をし、ラーラさんに確認する。
アーデさんの言葉を聞いたラーラさんは、アーデさんの言葉を聞いて深々と頭を下げて感謝の気持ちを表した。
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