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卑怯なのは十分に理解しているが、確実に勝つためには手段など選んではいられない。
生徒達の努力を邪魔しないが、せめて他のクラスがどのくらい強いのか調べるくらいなら大丈夫だろう。
俺はそう思い、闇オークションの時に使用したアンジェの指輪を本の中の世界と同じ様に首から下げると、魔法学院を目指す。
商店街を通っても店の者は俺に視線を向けないし、魔法学院に入ってもいつもは俺の事を見て笑っている生徒達も俺の事を見ても来ない。
アンジェの指輪、やはり隠密行動には最強装備と言っても良いな。
俺はそう思いながら足を動かし、まずはB組の練習を見に練習場へと向かった。
誰にも触れなければばれる事が無いと、歩くのも楽だな。
そう思いながら練習場へと来ると、魔法が案山子の様な的に衝突するのが見えた。
威力は十分、今のG組よりも高い。
精度は少し甘いか、精度の甘さを破壊力で補っている様に見える。
俺がそう思いながらB組の生徒を見ていると、魔力の消費が激しいのか生徒達は座り込んでいる。
…もしかしたら、クラス対抗戦で一気に攻めるつもりではないだろうか?
とりあえず、開始早々あれを叩き込まれるのは厳しい。
防御系の魔法が得意な子に、精度を上げる様に言っておくか。
だが、思ったよりB組の優秀さが目立たない。
確かに魔法の威力はあるが、それだけでB組になれるのだろうか?
俺はそう思いつつ、MP回復の為に当分休むであろうと判断し、他のクラスを見るために移動を開始する。
魔法学院の練習場を後にした俺は、本校舎へと向かっている。
…そういえば旧校舎には何回か入っているが、本校舎には一度も入っていないな。
俺はそう思いながら、生徒が行き来している玄関を生徒達にぶつからない様に身を躱しながら本校舎へと入る。
そこで目に入ったのは、旧校舎とは真逆の綺麗にされた校舎だ。
「………」
綺麗に掃除された廊下、綺麗に磨かれた窓、綺麗に洗濯されたカーテン、綺麗に点いている灯り、綺麗に着飾った生徒。
そして、そんな綺麗を維持させられている健気で綺麗な奴隷達。
ほとんど女性ばかりを考えると、家事等が出来る奴隷がここにいるのだろう。
学院の整えられている中庭の木などは、男性の奴隷がしているのだろうか?
俺はそう思いつつも、帝都で見かけていた奴隷よりかはしっかりとした格好をしている奴隷の人達を見る。
だが表情は帝都の奴隷達と一緒だ。
感情を抑圧しているのか、重労働をしているであろうに大変そうな顔をしていない。
それが不気味に感じてしまう。
窓を拭くために背伸びをして頑張って腕を伸ばしている女性の表情に、特別な変化はない。
ただ黙々と掃除に徹している。
…魔法学院の上層部の者が彼女達に命令をしているのだろうか?
俺はそう思いながら、奴隷の人達が綺麗にした廊下を歩いていく。
少し大きめな扉が何個も並んでおり、そこを開くと教室に入れるのだろう。
しかし今は堂々と扉を開ける事が出来ない故に、俺は偶然に空いている扉を探さなければいけない。
たまに誰かの話し声が聞こえる扉に耳を当てると、様々な魔法の授業をしているのが聞こえる。
そうして学院内を歩いている内に、俺1人が通れるくらいに開いている扉を見つける事が出来た。
少し隙間から中を窺うと、生徒と教師がいるのが分かり侵入してみる。
すると、そこには何やら黒板の様な板に隙間が出来ない様にビッシリと書かれた文字が見える。
その文字を説明しているのか、教師であろう人物が文字を指差しながら魔法の発動しつつ精度を上げる集中と想像の仕方を熱弁している。
実力を知りたいと思っていたが、このまま座学の様子だけを見ていても実力は分からないな。
練習場以外に、生徒達が魔法を使える場所は無いだろうか?
俺がそう思っていると、ある事を思い出した。
A組の生徒は、冒険者ギルドで簡単な依頼を受ける事があると聞いた。
ならば、冒険者ギルドで依頼を受けたA組の生徒の魔法を見る事が良いと考える。
俺がそう思って移動を開始しようと再度扉を通って廊下に出ると、
「はぁ……はぁ…」
奴隷の女性の1人が、顔を赤く染め息を切らせて廊下の壁に施されている装飾を拭いている。
汗も掻いているのか、頬と首筋に髪が張り付いている。
明らかに病気になっているか、無理をして働かされている。
しかしどうした方が良いのだろうか?
今の俺は誰にも見えていない、だがここで状態異常回復のポーションを取り出して彼女に飲ませようとすると、彼女に触れる事になってしまう。
怪我なら体に掛ける事でも回復できると思うが、流石に病気はそうはいかないだろう。
どうしたらいいんだ……。
俺がそう思っていると、
「おい、何トロトロしてるんだよ」
彼女の近くを歩いていた茶髪の生徒と、青髪の生徒がそう彼女に対して怒った様に声を掛けた。
その言葉を聞いた女性は怯えた表情をすると、声を出さないでただ黙って土下座の様に座り何度も頭を廊下に付ける。
「汚い獣が。見ていて気分が悪くなる」
…ならこの学院から出て行けば良いじゃないかこの茶髪。
「そう言ってやるなよ~。俺達、人様で貴族様に恵んで貰わないと生きていけない下等種族なんだぞ」
茶髪にそう言う青髪。
青髪の言葉に、茶髪は同意の言葉を発して2人で笑い合う。
…顔は覚えたからな、G組の皆に頼み込んで彼らの実力で出来る限りボコボコにしてやる。
俺はそう思いながら周りを見ると、他の奴隷は興味も無いのかこちらを見ておらず、奴隷達は自分達に飛び火しない様に慌てて目を逸らして自分達の仕事を再開する。
茶髪と青髪はそんな周りの様子など関係無いかの様に再び歩き出す。
その瞬間俺は一瞬で女性に触れると、
「これを飲んでください」
そう言って状態回復のポーションを彼女に差し出す。
突然に声を掛けられた女性は体をビクッと震わせた後、恐る恐る俺の事を見てくる。
女性の肩を通じて、女性が身を強張らせているのを感じる。
俺はそんな女性に、
「危害を加えるつもりはないです」
そう言った。
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