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俺が顔を引き攣らせてレストランを見ていると、


「大丈夫ですよ。今日は内緒話をする予定ですので、隠れ家をテーマにしたここを貸切にしたので、ドレスコードは必要ないです」


更に俺の顔を引き攣らせる様な事を言うリーゼロッテ先生…。

魔法が使えるから貴族なのは知っていたが、まさかレストランを貸切に出来る程の財力をお持ちだとは…。

…いや、貴族ならそれが当たり前なのか?

俺がそう思っていると、


「お待ちしておりました。どうぞ中へ」


レストランの前に立っている黒服が優雅に挨拶をしながら会釈をし、素人眼でも分かるくらいに無駄の無い動きで扉を開ける。

その動作に特に気にしていないリーゼロッテ先生は先に中に入ろうと歩き始めると、


「?どうしましたヴァルダ先生?」


扉をくぐり抜ける前に、足を止める俺に気づいたリーゼロッテ先生がそう言って首を傾げている。

俺はその言葉に、


「いえ、何でもありません」


そう答えて彼女の後に続いてレストランに入ると、そこは俺のイメージしていたレストランとは少し違った。

テレビなどで見ていた落ち着きながらも、豪華だと想像していたレストランとは違い、豪華さはあまり無く、店内は落ち着き過ぎていて静かな空間だった。

貸切にしている所為で俺たち以外のお客はいなく、店内には静かに立っている黒服の紳士とおそらく厨房にいるシェフだけだろう。

厨房から皿の音が聞こえるが、話し声はしなく黒服の紳士達もリーゼロッテ先生に対して少しだけ話す程度。

俺だけ場違い感が凄いな…。

俺がそう思っている内に席に案内されて、黒服の紳士が椅子を引いてくれる。

それに座ると、


「少々お待ちを」


そう言って彼らは離れていった。

それにしても、ここまで誰もいないと不気味に感じるな。

普段から人が多い空間にいる事が多いせいで、人がいない空間の感じを忘れている。

そう思うと、仕事の仲間とはいえ女性と食事する今の環境も、日本にいたときは絶対と言って良い程ありえないモノだ。

そう思っている内に、黒服の男性が何かを持ってこちらにやって来ると、聞いた事が無い名前の料理名と共に食器が運ばれる。

フルコースではなく、アラカルトという出し方のようだ。

そう言えば、どうやってこのお店を予約したのだろうか?

電話とか無いだろうし、事前に手配をしていたのだろうか?

俺がそう思いつつ、過去に授業で習ったマナーを思い出し、リーゼロッテ先生の手を盗み見て作法を真似ていく。

そうして食事は静かに行われていき、最後の食後のドリンクの時に、


「それでは、改めて嫌な噂の内容について話します」


リーゼロッテ先生がそう言って手に持っているカップを受け皿に置く。

正直、今の今まで料理の味が分からないほど緊張と集中で疲れてしまい、やっとの休息も真剣な話になると思うと辛いが、話を聞くと言ったからには聞くしかない。

俺はそう思いつつ、


「…はい。それで嫌な噂というのは?」


彼女の話に耳を傾ける。

すると、彼女は少し躊躇った後に、


「F組の生徒達が、パプという薬物に手を染めているという情報を聞きました」


そう言ってきた。

「パプ」といえば、前に帝都で蔓延り始めていると聞いた依存性の高い薬物だったよな?

俺はそれを聞きつつ、


「確かにそれが本当だとしたら、G組の皆さんにも危害が及んでしまう可能性がありますね」


そう言ってパプの流通経路を考える。

学生が簡単に薬物を買える様な場所は、帝都に比べれば無い方ではある。

だがこの国にそういった裏の場所が完全に無いとは言い切れない。

俺がそう思っていると、


「生徒に流通してしまうのも恐れていますが、それと同時にもう1つ気がかりな事があります」


リーゼロッテ先生がそう言ってくる。

俺がその言葉に首を傾げていると、


「それはパプと言う薬物が、依存性の他にもう1つ心身に影響を及ぼす事があるからです」


リーゼロッテ先生が俺の様子を見て、パプの事を教えてくれる。

俺はリーゼロッテ先生の言葉を聞いて、


「心身ともに影響が出る…と言いましたが、その影響とは何なんですか?」


そう質問をすると、彼女は俺の問いを聞いて、


「それは、身体能力の向上、何でもできるという充実感を感じる事が出来る…と、私は聞きました」


リーゼロッテ先生は俺にパプの効能を教えてくれる。

パプの説明を聞いた俺は、リーゼロッテ先生が何を危惧しているのか理解できた。

もしF組の生徒がパプを使用して強くなってしまったら、ただでさえ成長スピードの予定が狂ってきてしまっているG組の生徒に歯が立たないかもしれないという事だろう。

それにF組の生徒が他の上級クラスにパプを横流しなどしたら、G組の生徒の優勝が難しくなるという事だ。


「生徒の心配はありますが、今は自分の生徒達の安全が最優先です。私程度の力では、護ってあげられる者の数は決まってしまいます」


俺が考え事をしていると、リーゼロッテ先生はそう言って顔を伏せる。

俺はそんなリーゼロッテ先生の様子を見て、


「…それは仕方がない事でしょう。俺だって護るべき者とそうでない者の区別はしています。全ての者を護るなんて、そんな者は英雄や勇者に任せておけばいいんですよ」


俺は自分の思っている事を素直に話す。

俺なんかが、関わってきた全ての者を護れるなんて思ってもいない。

常に護るべき者の優先順位を決めている。

俺がそう思っていると、


「…そうですよね。今は最も大切な生徒達を護れる様に、頑張っていきましょう」


リーゼロッテ先生はそう言って握手を求めてきた。


「はい」


俺は短く返事をして彼女の手を握ると、リーゼロッテ先生は満足そうに笑って立ち上がった。

その後、リーゼロッテ先生に奢られてしまった俺は、今度埋め合わせをすると約束をした後、彼女と別れて塔の世界に戻り、すぐに自室に戻って就寝した。

翌朝、俺は早めに起きた後前日と同じ様に朝食を食べて昼食用に持ち運びが出来る物を持ってから、塔の世界を抜け出して外の世界に戻り、俺は魔法学院を目指して歩き始めた。


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