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少しずつではあるが生徒達の成長に喜んだのか、リーゼロッテ先生は嬉しそうに微笑みながら生徒達の事を見ている。
「ヴぁー」
「すまんなパウル、今日はこれまでの様だ。明日にも召喚するかもしれない、よろしく頼む」
俺がそう言うと、パウルは頷いて靄に入っていった。
そうしていると、
「先生」
今度はレナーテさんが俺の元に来て何やら険しい顔をしている。
何かあったのだろうか?
俺がそう思って彼女を見ていると、
「先程のグールに、今度会えましたら謝罪をしたいです」
彼女が俺の事を見た後に、後ろを少しチラッと見た。
その方向に視線を移すと、何人かの生徒が申し訳なさそうな表情でこちらの様子を窺っている。
どうやらパウルに対して色々と思う所があるのだろう。
俺はそう思い、
「また明日にでも連れてくるんで、その時話してあげて下さい」
俺は彼女にそうお願いをする。
俺にそう言われた彼女は頷くと、俺に言われた言葉を後ろにいる他の生徒達に伝える為に戻って行った。
すると今度は、
「今日もありがとうございました。お疲れ様です」
リーゼロッテ先生がレナーテさんとすれ違って俺の元にやって来ると、お礼の言葉を言って頭を下げてくる。
「感謝の言葉なら、クラス対抗戦で優勝できた時で良いですよ」
俺が彼女にそう言うと、
「ヴァルダ先生は、この調子で皆さんの力を強くなると思いますか?」
彼女は少し言い辛そうな表情をしながらも、俺にしっかりとそう聞いてきた。
俺はその問いに対して、
「A組の実力はあまり分かりませんが、俺が仮に想定しているA組の実力だと難しいと思います。リーゼロッテ先生の想定では、どうなんでしょうか?」
俺が正直な考えを吐露する。
俺の言葉を聞いたリーゼロッテ先生は、俺に勢いよく頭を下げて、
「すみません。私が生徒の事を優先して練習を中断させてしまうのが、大きな理由ですよね」
謝罪の言葉を口にする。
俺はその言葉を聞いて、確かに生徒達が辛そうだとリーゼロッテ先生が無理をさせないで休む様に言っていたなと、改めて思う。
そう思い出しつつ俺は、リーゼロッテ先生の言葉に、
「無理をして生徒達に何かあってはいけませんからね。それは教師として、リーゼロッテ先生の方が正しいと俺は思っています」
俺は自分が思っている正直な言葉を発する。
その言葉を聞いたリーゼロッテ先生は頭を上げる。
そんなリーゼロッテ先生に俺は続けて、
「しかし今は少し生徒の皆さん、そしてリーゼロッテ先生には無理をしてもらいたく思っています。そうしなければ優勝をする事は無理だと、ハッキリと言っておきます」
そう、少し無慈悲かもしれないがこのまま行けば優勝する事は叶わないと伝える。
その言葉を聞いたリーゼロッテ先生は、少し悲しそうな悔しそうな表情をした後、
「分かりました。明日からは私もただ優しいだけでは生徒達の為にはならないと心に決め、厳しく練習に励むようにします」
そう言って真剣な表情になる。
俺はリーゼロッテ先生のその言葉と表情を見て、
「ありがとうございます」
お礼の言葉を言った。
そうして今日の所は解散となり、俺はまだまばらに生徒が残る教室を出ようとすると、
「ヴァルダ先生、この後暇でしょうか?」
俺の後に教室から出ようとしていたリーゼロッテ先生に、突然そう声を掛けられる。
俺は少し体を捻って後ろを向くと、
「ま、まぁ時間はある方ですよ」
そうリーゼロッテ先生の言葉に返す。
すると、
「食事に行きませんか?」
少し俺の様子を窺う様に彼女はそう切り出した。
その瞬間、教室に残っている生徒達が息を飲んだのが分かった。
いったい何にそんなに驚いているのだろうか?
俺はそう思いつつ、
「構いませんよ。ただ食事処を知らないので、リーゼロッテ先生が案内して下さると嬉しいです」
彼女に苦笑しながらそう伝えると、
「大丈夫です。良い所を知っていますから」
リーゼロッテ先生はそう言って外で待っていて下さいと俺に言うと、先に教室を出て行ってしまった。
すると、
「なぁあれってどう見てもデートだよな?」
「今まで異性なんて気にしないって感じのリーゼロッテ先生も、遂に男性に興味を…」
「…隠れて見張ろう」
生徒達がやや聞こえる声でそう言い合って、まるで示し合わせたかの様に、
「「「「先生また明日~」」」」」
そう言って教室を出て行った。
明らかに隠れて尾行するつもりだろうな…。
俺はそう思いながら教室を出て旧校舎の外に出ると、リーゼロッテ先生に言われた通りに旧校舎前で待つ。
そして、
「「「………」」」
俺の様子が見えるであろう草むらから、俺の事をジッと見つめる視線を感じる。
やはり女の子の方がこういった話題には関心がある様で、俺の事を監視している生徒も女子生徒だけだ。
男子生徒はすぐに帰ってしまったのだろう。
俺がそう思いつつ、この事はリーゼロッテ先生に報告した方が良いのか考える。
そうして考え事をしている内に時間は経ち、
「お待たせしました」
気がついたらリーゼロッテ先生が目の前に立っていた。
「いえ気にしないで下さい。案内、よろしくお願いします」
俺がそう返事をすると、彼女はお辞儀をして先に歩き出す。
俺も彼女の後を付いて歩き出すと、草むらに隠れていた生徒達がコソコソと動き出す。
…結構雑な尾行だな。
俺がそう思っていると、
「実は少し嫌な噂を聞いたので、その事をヴァルダ先生にお伝えしようとしていたのですが、迷惑だったでしょうか?」
斜め前を歩いているリーゼロッテ先生が、俺の事を気にしながらそう聞いてきた。
嫌な噂か、それは気になるな。
俺はリーゼロッテ先生の言葉を気になりながら、
「いえ、大丈夫ですよ。それよりも、その嫌な噂というものを、詳しく教えて下さい」
そう答えて街へ赴く。
リーゼロッテ先生の後ろを歩く事十数分で、おそらく目的地であろう食事処に辿り着いた…。
ただし、
「ここ、正式なしっかりとした服でないといけない所では?」
日本だったら明らかにドレスコードをしっかりとしないと、入店すら出来なそうな場所に案内されてしまった。
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