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土魔法で出来上がったドームにヒビが入ったのを見て俺は、まぁそうだよなと考えてしまう。
力は弱いパウルだけど、流石に生徒達の魔法程度では拘束する事は出来ない。
俺がそう思っている内に、土魔法を発動している生徒がせめて今作り上げているドームを壊さない様に魔法を放っているが、それとは反対にどんどんヒビが広がってドームは崩れてしまった。
そこからのっそりと出てくるパウルを見て、生徒達は少し慌て出してしまう。
何人かの生徒は周りのパニックになっている生徒を叱咤する様に落ち着けと言うのだが、その言葉は慌てている生徒には聞こえていない。
予想外の事態になった途端この慌て様は、クラス対抗戦においては負ける要因になる可能性があるな。
俺が生徒達を見ながら分析をしていると、
「落ち着いてください。グールに対して大き過ぎる魔法を使い過ぎです。中級魔法を使うにしても、規模を小さく魔法を制御し、何が起きても冷静な対応をしなさい!それが魔法を使う者の最低限の心得です」
リーゼロッテ先生が大きな声でそう呼びかける。
だがその間にパウルは移動を開始し、生徒達の元へ普通のグールとは思えないほどのスピードで駆け寄る。
それに気づいた女生徒が恐怖で悲鳴を上げると、先程のリーゼロッテ先生の言葉で落ち着きを取り戻していた生徒達がまた騒ぎ出してしまう。
これ以上は生徒にトラウマを植え付けてしまうし、戦闘を続ける事は出来ないだろうと判断し、
「パウル!戻って来い!」
俺はパウルにそう命令をすると、しっかりと聞こえた様ですぐに俺の元へ戻って来た。
パウルが離れたお陰で悲鳴を出した生徒も落ち着いていき、生徒達は魔力消費の疲労と緊張でその場にへたり込んでしまった。
「ヴぁ~」
「よしよし、お疲れパウル。少し待機をしていてくれ。疲れてるなら、座っても良いぞ」
「ヴぁー」
俺の元に来たパウルに労いの言葉を言い、生徒に恐怖を感じさせないためにパウルに少し距離を取る様に指示を出して生徒達の元へ歩み寄る。
リーゼロッテ先生は俺よりも先に走り寄って生徒達の事を気に掛けている。
俺が近くに寄ると、
「ヴァルダ先生すみません。少し休憩させてあげてもよろしいでしょうか?」
リーゼロッテ先生がそうお願いをしてくる。
「…分かりました。生徒達が落ち着くまでよろしくお願いします」
俺がそう言うと、リーゼロッテ先生は氷魔法を使用して、あらかじめ用意してあったのであろう布で氷を包むと、生徒の額に当てる。
やり過ぎたか?
俺はそう思いながらパウルの元へ戻る。
「ヴぁ~~~~」
パウルは空を見たり、地に生えている草を見たり楽しそうだ。
彼が住んでいる荒廃島は、こういう草木はほとんどが枯れているから瑞々しい草木を見るのは貴重な事なのだろう。
俺はそんなパウルを観察しながら、
「楽しいかパウル?」
そう声を掛ける。
すると、俺の質問を聞いたパウルは、
「ヴぁー」
そう返事をしながら何回も頷く。
俺はそんな楽しそうなパウルを横目に、リーゼロッテ先生が付き添っている生徒達を見る。
このままの早さだと、少し不安になるな。
俺がそう思っていると、
「ヴぁー~」
「ん?どうしたパウル?」
パウルが声を掛けてくる。
それにしても、言葉は唸り声と言うか言葉を話している訳では無いのに理解できるのは何故なのだろう。
俺がそう思っていると、パウルが空を指差している。
パウルが指している空を見ると、黄色の鳥が2羽じゃれ合っている様に飛んでいる。
すると、
「すみません」
声を掛けられてパウルと一緒に空から視線を下げて声がした方を向く。
そこには、声を掛けてきた男子生徒の他に数人の生徒が俺とパウルを見ている。
「どうしましたか?」
俺がそう男子生徒達に声を掛けると、彼らの中から爽やか系の金髪イケメンの男子生徒が一歩前に出て、
「魔力はまだ大丈夫ですので、特訓お願いできますか?」
そう聞いてきた。
おぉ、やる気満々じゃないか。
「後ろの人達もですか?」
俺が金髪イケメンの生徒の後ろにいる生徒達にも聞いてみると、彼らは俺の問いにやると返事をしてきた。
なら今度はもう少し魔法を基礎とした戦術を教えられる様に頑張ろう。
俺はそう思うと、
「さてじゃぁ、まずは君達の名前と得意な魔法を教えて下さい」
そう生徒達に言った。
俺の言葉を聞いた生徒達は、少し苦笑いをしてから自己紹介をしてくれた。
家名もあったのだが、フルネームで全員を覚えるのはキツイ事を素直に話し謝罪をし、名前で呼ぶ事を許してもらった。
そうしてリーゼロッテ先生が見ている傍らで、俺はやる気に満ちている生徒達に魔法の戦い方を教える。
「アーレスは水魔法が得意と言っていたが、同時に氷魔法の特訓もしておいた方が良い。相手がモンスターならそのモンスターに対抗できる魔法や武器を使うが、今回の相手は同じ学院の生徒だ。人を戦闘不能にするのは意外に簡単だ」
「やってみます!」
「クロードは風魔法か。姑息な手かもしれないが、風で砂を舞い上がらせて目をつぶした後に、斬るタイプよりも、勢い良く吹き飛ばせる魔法で攻撃するのも手だな。斬る事に固執しなければ、様々な戦い様がある」
「…分かりました」
「ドニは威力を底上げしようと1発1発が大き過ぎる。もう少し精度を高めて命中する様にした方が良い」
「そんな細々とした事、俺には出来ないぜ先生!俺は常に最大の力で戦うんだ!」
そんな感じで、生徒の魔法を1つ1つみて俺はアドバイスをしていく。
アドバイスと言っても、簡単に相手と戦う際に覚えていて欲しい事や、魔法に関するテクニックだけなのだが…。
それでも彼らは素直に聞き入れてくれたり、意見を言ってきたリと真剣に魔法の練習をしていく。
リーゼロッテ先生の方も、少し休憩をした後にそれぞれ魔法の練習を再開していた。
そのうちに質問がある生徒は俺の所へ来て質問をし、俺が答えるとリーゼロッテ先生の元に帰って魔法の練習をしていく。
そんな感じで魔法の練習をしていくと、生徒達の魔法が最初に比べて安定してきているのが分かる。
魔力の消費も抑えめにしているのか、具合が悪そうにしている生徒も見えない。
少しずつではあるが、確実に成長してきている。
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