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83頁

アンリの分裂体と合流した俺は、短くアンリに何故ここレベルデン王国に来たのかを質問した。

俺の問いを聞いたアンリは、この近くの土地に現れたドラゴンの討伐依頼を受けてここへ来たようだ。

そう言えばここへ来る前に、それらしきモノを見たなと俺は思い出し、アンリにその事とどのくらいの方向と距離にいたかを説明した後、頑張ってなと言ってからアンリと別れる。

それにしても、生徒が大半のこの国にも冒険者ギルドがあるなんてな。

授業の一環で依頼とか受けるのだろうか?

俺はそう思いつつ、塔へと帰った。

塔に帰ってきた俺が最初に行くべき所は、食堂だった。

昼を食べずに頑張ったおかげで、凄くお腹が空いている。

俺個人はあまり動いていなかったが、それでも腹は減るものだな。

俺がそう思って食堂へ行くと、


「…………うぅ~~~ん゛」

「わくわく」

「ドキドキ」

「………」


魔王の娘ルミルフルと2人のメアリー、名無しの少女が向かい合って座っており、ルミルフルは腕を組んで悩ましい声で唸っている。

どうしたのだろうか?

俺がそう思っていると、


「…あっ」


ルミルフルが俺に気づいてそう声を漏らした。

気づかれなかったら、特に声をかけないでご飯を食べようかと思っていたのだが、見つかってしまっては仕方がないよな。

俺はそう思い、


「4人が集まって何をしているんだ?」


4人にそう声をかけると、


「貴方が3人の名前を決めてくれって言うから考えてたんだけど、全然良いのが浮かばなくて…」


ルミルフルがそう言って食堂のテーブルに額を付ける。

頼んでから数日経過しているが、それでここまで悩んでいる所を見ると凄くこの子達の名前を考えていたのだろう。

俺はそう思い、


「例えば、とても親しかった友人などの名前を基準として考えてみてはどうだ?」


少しだけ安易なアドバイスをしたのだが、


「魔族の名前って、なんか猛々しいモノが多いからあまりこの子達には合わない気がして…。それにメアリー達は既に名前はあるから、区分するための中間名が必要だと思う。家名は、正直貴族じゃないし必要ないと思うんだけど…」


ルミルフルはそう言って2人のメアリーの顔を見る。

名無しの女の子もルミルフルの視線を追って、メアリー達の顔に視線を向ける。


「それに、魔王の娘の私には親しい友人とかいなかったわよ。同年代の貴族の娘は私に対して一歩引いた感じで接してきたし、メイド達も特に親しい人はいなかったわ。……今はもう、皆どこでどうなったか分からないけどね…。私は恵まれてるわ、こんな良い所に住んでいるんだもの。多分、他の人はもっと辛い目にあっている…」


ルミルフルが続けた言葉に、俺は下手な同情の言葉を掛けないように黙り、彼女が言ったような辛い目にあっていた名無しの少女は昔を思い出して顔を伏せる。

少し暗い空気になってしまったと思うと、


「…ごめんなさい、嫌な事を思い出させちゃったね」


ルミルフルはそう謝罪をすると、名無しの少女に横から手を伸ばして頬を撫でる。

名無しの少女はルミルフルのそんな行動に身を委ねていると、


「うん、もっと考えて納得できる名前を考えてあげないとね。この子達が一生名乗っていく名前だもの、しっかりと意味を持たせたいわ」


ルミルフルは、まるで母の様な柔らかい笑顔を目の前に座っている少女達に向ける。

俺はその言葉を聞いて、


「あぁ、よろしく頼む。名前が決まったら、教えてくれ」


そう言って立ち去ろうとする。

何分、お腹が空いてそろそろ限界が近い。

動くのも億劫になってきているしな。

俺がそう思って移動しようとすると、誰かに引っ張られるような感覚が服を通じて感じる。

後ろを体を僅かに動かし、振り返るとそこには、


「ご飯、食べないの?」

「美味しいよ?」


2人のメアリーが俺にそう聞いてきた。


「いや、夕食はこれから食べる予定だが…」


俺が2人のメアリーにそう返事をすると、


「皆一緒に、食べる?」

「4人いつも一緒」


メアリー達が俺にそう言ってきた。

つまりこの子達が言いたいのは、一緒に夕食を食べないかと聞いてきているのだろう。

俺がそう思っていると、


「この後に食事をする相手がいないなら、一緒に食べてあげて。頑張って他の人を誘ったりしてるんだけど、まだあまり意思疎通が上手く出来ないから…」


ルミルフルがそう付け足してきた。

俺はそのルミルフルの言葉を聞いて、2人のメアリーの頭に手を乗せて、


「そうか。頑張って皆と仲良くしようとしてくれるんだな」


感謝の言葉を囁く。

なら、ここは塔の支配者としてこの子達とどのように接すればいいのか俺がお手本になって見せよう。

そうして5人での食事が決まり、それぞれが食べたい物を持って再度集まったのだが…。


「…今日が特別って事ではないのか?」

「そう。毎日毎食これなの」


俺は目の前に座って自分達が持ってきた夕食を食べている子供達の姿を見て、隣に座って自分の夕食を食べながら子供達を見るルミルフルにそう質問した。

2人のメアリーが食べているのは、葉野菜のサラダだ。

ドレッシングなどの調味料を使わずに、ただそれを食べている。

名無しの少女はパンを1つ、小さく千切って食べている。

それだけでは満足できないだろう。

俺がそう思って少女達の食事を見ていると、


「何回も言ってるんだけど、この食事を変えないのよ。おそらく、前の環境での名残だと思うわ。…これも、時間をかけて改善していかないとね。一応私が食べてみる?って聞いて差し出すと食べるから、好みの問題とかではなさそうなの。自主的に、好きなものを好きなだけ選べるようにしてあげたいわ」


ルミルフルがそう言って皿に乗っている肉を小さく切ると、3人の少女達に差し出す。

2人のメアリーはそれをすぐに口に入れるとルミルフルに笑顔を向け、自分たちの葉野菜をまた食べ始める。

名無しの少女は、凄く申し訳なさそうな顔をした後に恐る恐る肉を食べると、ゆっくりと味わうように噛み締めていた。

まるで、それが最後の食事の様に。

そんな食事風景を見て俺は、


「あぁ、ルミルフルの言うとおりだ。この子達にはもっと、子供らしい無邪気な気持ちでいてもらいたい」


そう呟いた。


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