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生徒達に少し何とも言えない奇妙な目で見られながらも練習は進み、俺はその際にただ立っているだけの状態だった。
それにしても、結構な時間魔法を使っていた所為か生徒達もリーゼロッテ先生も疲れてきているようだ。
俺に当てようと放ってくる魔法の精度が落ちてきて、俺の横を通り過ぎたり目の前までは来るが消滅してしまったりしている。
まぁ、もう日が傾き始めているところを見ると、ここでそれなりの時間が経過しているのは分かるんだがなぁ。
夕日になる手前の陽を見ながらそう思っていると、少し遠くから何やら大きめの馬車がこちらの方に向かって来ているのが見えた。
今、皆は魔力がスッカラカンで座り込んでいる生徒がほとんどだから大丈夫かとは思うが、
「皆、馬車が来ているからあまり邪魔になる様な所には居ちゃ駄目ですよ~」
一応そう声を掛けておくと、生徒達は俺の言葉を聞いて視線を上げる。
すると、
「あれって、帝都の冒険者ギルドの馬車じゃないか?」
1人の男子生徒がそう言った。
え、そんなのがあるのか?
俺がそう思っていると、
「でも、あれって第一級冒険者じゃないと借りるのが大変だって聞いたんだけど、もしかして…」
ブノア・ドノン君がそう言って何やら目を輝かせ始めた。
それにしても、ここレベルデン王国にも冒険者ギルドとかあるのだろうか?
基本的に魔法学院の生徒達が大半の様な気がするから、あまり依頼とか無い様な気がするが…。
俺がそう思っている間に馬車が近くを通るのを見ていると、
「「「…あ…」」」
馬車に乗っている2人と、同じタイミングで声を出してしまった。
まさかのたった数日で再会するとは、思っていなかったからな。
あまりの予想外の事に、俺はそう思いつつ馬車を見送る。
馬車に乗っていた2人も降りた方が良いのだろうかと少しソワソワしているが、俺が下手に声を掛けない事を察したのか少しして軽く頭を下げてそのまま王国の方へ行ってしまった。
馬車を見ていた生徒達にも怪しまれない様に、俺にした様に軽く頭を下げるのを見ると、しっかりと自分達で考えて行動している姿に少し感動と寂しい気持ちが出てくる。
俺がそう思っていると、
「凄かったなあの鎧の人!鎧があんなに凄い物なら、剣とかも凄いのを装備してるんだろうな!」
生徒達の方からそんな声が聞こえてくる。
そうだろうそうだろう、凄いからな!
俺がそう思って心の中で胸を張っていると、
「それに鎧の人の隣にいた女の子、可愛かったな~。冒険者なのか、それともあの鎧の人の奴隷とか従者とかなのかな?」
生徒達がそう言い合って盛り上がっている。
それにしても、あの2人がここへ来た理由は何なんだろうか?
俺がそう思って疑問を浮かべていると、
「ヴァルダ先生、今日は生徒達の体調を考えて早めに家に帰してもよろしいでしょうか?」
リーゼロッテ先生のそんな提案を聞いて、俺は改めて生徒達の方を見る。
そこには地面に座りながら話している生徒達が見える。
だが、楽しく談笑しているというよりも息切れをしていて何か強がって話している様に感じる。
…思ったよりクラス対抗戦に対して、必死になっているという事かな?
俺は生徒達を見ながらそう判断し、
「そうですね。今日は初めての全属性の魔法を使える様になって色々と疲れていると思います。今日はここまでにしておきましょう」
リーゼロッテ先生にそう言うと、彼女は生徒達の元に行って、
「今日はこれで授業は終わりにします!家に帰ってゆっくりと体を休めて下さいね!」
そう言うと、生徒達ははぁーいと疲れた様に返事をする。
そんな生徒達に俺は、
「明日からはもっとみっちり魔法と実戦の練習をするから、覚悟して下さいね~!」
そう言うと、生徒達から怠そうな悲鳴が聞こえてきた。
そんな生徒達に、リーゼロッテ先生は変な声を出さないのと注意している。
リーゼロッテ先生と生徒達のそんな会話を聞きつつ、エルヴァンとアンリがこの国に来た理由を聞かないといけないなと考える。
そうして魔力や体力が回復した生徒達がそれぞれ帰っていく姿を見送り、最後に残ったのは先生である俺とリーゼロッテ先生だ。
すると、
「今日はありがとうございます。それよりもあの魔導書、いったいどうしたんですか?皆さんが言っていた通り、魔導書は大変貴重かつ帝都にいらっしゃる皇帝陛下の命で回収され保管されているのですが、どうしてお持ちなんでしょうか?」
ズバッと、俺に直球で質問をしてきた。
俺はその言葉を聞いて、言い訳を考える。
いくら田舎から来たからと言っても、流石に無理がある。
俺がそう考えて密かに焦っていると、リーゼロッテ先生は何やら慌てる様に両手を振って、
「す、すみませんいきなり踏み込み過ぎた質問をしてしまい!先程の言葉は忘れて下さい!……今は何が何でもあの子達をクラス対抗戦で優勝させてあげられる事が出来るなら、どんな事でもやり遂げてみせます」
俺に質問をした事を謝って、決意の言葉を発する。
その言葉を聞いた俺は、リーゼロッテ先生が下手に質問を続けて来なくて良かったと安堵する。
今は生徒達の事を考えて私情を言わない様にしているが、おそらく少し前の彼女だったら更に問いを続けてきたのかもしれないな。
そんな事を考えている内に、リーゼロッテ先生は先に失礼すると言って帰って行った。
俺は彼女が完全に立ち去ったのを確認すると、移動を開始する。
先に帰って行った生徒達やリーゼロッテ先生に追いつかない様に、あまり早く歩かない様に意識してレベルデン王国に入り直すと、近くにいた男性に冒険者ギルドの場所を聞く。
男性の道案内を聞いてその通りに進んでいくとそこには、杖を装備している魔法学院の生徒達が何やら談笑しているのが見える。
幸いにもリーゼロッテ先生の生徒達はいない様に見えるが、俺の存在を既にある程度魔法学院の生徒達に認識されていると考えると、下手にエルヴァンとアンリに合流するのは避けた方が良いかもしれないな。
ああいう輩は下に見ている人達に、どんな言いがかりをつけるか分かったもんじゃないからな。
俺がそう思っていると、
「ヴァルダ様」
上からアンリの声がして見上げる。
そこには、分裂体のアンリが変身したコウモリが飛んでいた。
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